「植物の実を食べ、タネを運ぶ動物は何?」と尋ねられたら、どう答えるでしょうか。多くの人はヒヨドリやツグミ、テンなどを思い浮かべ、トリやケモノ(鳥類・哺乳類)と返答することでしょう。一方、昆虫と答える人はとても少ないでしょう。アリの仲間を除くとタネを運ぶ昆虫はきわめて稀で、目にする機会などまずありません。

しかし、私たちは最近、ギンリョウソウというツツジ科植物が食物(果肉)を提供する見返りに「ゴキブリにタネを運んでもらい、まいてもらう」という、にわかには信じがたい共生関係を発見しました。このコラムではその実態について詳しく紹介します。

銀竜草

まずギンリョウソウについてみてみましょう。この植物、国内では北海道から南西諸島までの広域に分布します。葉緑素を欠いているため、植物体の大部分が白色で、その姿かたちを竜にみたて「銀竜草」の名がつけられました。植物のなかには光合成をやめてしまい、菌類(キノコやカビの仲間)から栄養を奪って生きるものが知られていますが、ギンリョウソウもそんな「菌従属栄養植物」の1種で、ベニタケ類の菌糸から栄養を得ています。特に光を必要としないため、暗い森の中でも難なく暮らしていけます。もっとも地上部に植物体が現れるのは、花を咲かせ、実をつけるための約2か月間だけです(熊本市では4月中旬~6月中旬)。

ギンリョウソウの開花株

ギンリョウソウの実は亜球形(幅1cm余り)で、くすんだ白色をしています。中には果肉と多数の微小なタネ(長さ約0.3mm × 幅0.2mm)が詰まっています(タネの数は平均937.3個)。タネの皮(種皮)はとても頑丈で、カミソリ刃で切断するのも難儀するほどです。実は熟すと落下、あるいは果茎ごと倒れますが、薄暗い森の地面の上では目立ちません。また、香りもなく、嗅覚に訴えその存在をアピールしたいわけでもないようです。さらに、果肉を舐めても(ヒトの味覚では)甘さが感じられません。目立たず、匂わず、味もなし。一体どんな動物を呼び寄せたいのでしょうか。

摂食痕のある実
淡褐色の微小種子が筋状に並んでいる。右下は実からとり出した種子

やって来たのは……

実を食べる動物の実態を探るため、熊本市内の2か所の森で2シーズンにわたり、下記の調査を実施しました。赤外線センサーカメラを設置し、どんなトリやケモノが食べに来るか調べました。計1,259時間にわたって記録をとりましたが、予想に反し、実に興味を示したものは皆無でした。

一方、ビデオカメラ等も活用しつつ節足動物の来訪者を計206時間にわたって調査したところ、ザトウムシ2種、トビムシ類、カマドウマ1種、ゴキブリ2種、オオクチキムシ、アリ類という6つの動物群が計405回も記録されました。ただし、そのなかで一貫して来訪し、実を食べたのはモリチャバネゴキブリ(以下、モリチャバネ)だけでした(来訪回数100回、そのうちの72回で摂食を確認。1回あたりの採食時間は平均8.8分)。このモリチャバネ、その名のとおり森に棲むゴキブリ(体長11~14mm)で、夜行性、成虫は飛ぶことが得意です。

実を食べるモリチャバネゴキブリ

運び手としての資質

野外で実を食べていたモリチャバネは捕獲してから3~10時間後にタネ入りの糞粒(長さ約1mm)を排出しました。各糞には平均3.1個のタネが入っていました。ギンリョウソウの実だけを与えて飼育すると、その数が平均7.2個に増えました。それらの排出されたタネ計1,406個を注意深く調べてみましたが、消化管を通過するあいだに破砕されてしまったものは、ただのひとつもありませんでした。

タネの入った糞粒

排出されたタネの状態をより詳しく調べるため、以下の実験を行ないました。

〔生き残っているか?〕試薬を用いて検査してみたところ、糞粒からとり出したタネの生存率(52.0%)は果肉からとり出したタネのそれ(49.3%)と大差ない、つまりゴキブリ体内を通過しても生存率が低下しないことがわかりました。

〔発芽力が残されているか?〕排出された糞粒をギンリョウソウ生育地の地面に埋め、1年後に回収してタネの状態を調べてみたところ、発芽こそしていなかったものの32%にあたるタネがまだ生きていることを確認しました(ギンリョウソウのタネは菌類と関係を結べないと発芽できないため、そもそも人がタネをまいて発芽させること自体、非常に困難です)。このことは、排出されたタネが菌糸と出会いさえすれば発芽可能なことを窺わせます。

試薬を用いたタネの生死判定
赤く染色されたタネだけが生きている

かけがえのないパートナー

これまで、ゴキブリにタネを運んでもらい、まいてもらう植物、“ゴキブリ散布植物”の存在を報告した人は誰もいませんでした。しかし、得られた調査結果は「ギンリョウソウがモリチャバネにタネを託し、まいてもらう」ことを明示しています。ゴキブリ散布植物の発見です!

論文書きの最中、私たちは関東の森で実を食べるモリチャバネが撮影されていたことを知りましたが、このことから“モリチャバネによるタネまき”は熊本以外の地域でも行われていると推察されます。

どうしてギンリョウソウがゴキブリにタネを運んでもらうよう進化したのか、現時点では定かではありませんが、その実とタネにはモリチャバネによるタネまきに適した特徴がいくつも認められました。

・実が鳥類・哺乳類に摂食されてしまうことがない。
・実の成熟期が年1回のモリチャバネの羽化期(成虫の出現期)とほぼ一致。
・実がモリチャバネの生活場所である地表面に置かれる。
・タネが昆虫の体内(消化管)を通過できるほど微小。
・タネの皮が頑丈で、消化管を通過しても破砕されない。

また、モリチャバネ自体もタネの運び手としてふさわしい特徴を備えていました。

・個体数が多いことに加え、実によく訪れる。
・生活場所が発芽に必要な菌類のみられる地中近く(地表面)であるため、糞粒もそこに排出されると考えられる。
・タネが排出されるまでの時間が長く、また成虫は飛翔に長けていることから、遠方にタネが運ばれることも起こり得る(しかも、各糞に入っているタネは少数。その結果、より多くの地点にタネが運ばれて菌糸と出会う確率が上がるのかもしれません?)。

こういった双方の特徴を考えあわせると、ギンリョウソウにとってモリチャバネは“かけがえのないパートナー”であるとみて良さそうです。一方で、あらゆる場所でモリチャバネと共生関係を結んでいないことも確かです。寒さの厳しい地域にはゴキブリが自然分布していないからです。他大学の研究者によると、カマドウマがタネの運び手になっている地域があるそうです。カマドウマの仲間は日本列島の北から南まで広く分布しています(前記したとおり、私たちはカマドウマの来訪も記録しましたが、とても稀で、しかも傷んだ実や齧り跡のある実しか食べなかったことから、それを偶発的な摂食者とみなしました)。

カマドウマの1種
翅が退化し飛べないが、その跳躍力には目を見張るものがある

今後に期待

近縁な植物(ギンリョウソウ亜科)のなかには、ギンリョウソウによく似た実をつけるものがいくつもあります。また、それ以外の菌従属栄養植物や寄生植物のなかにも似た形状の実が散見されます。一方、これまでに世界から約4,600種のゴキブリが発見されているそうです。これらのことから想像をたくましくすれば、探せば第二、第三のゴキブリ散布植物があっさりみつかるような気もします。日本だけでも50種を超えるゴキブリが生息しています。ギンリョウソウの他にもゴキブリを頼る植物があったとしても何の不思議もありません。次のゴキブリ散布植物がいつ、どこで発見されるか、楽しみに待ちたいと思います。

参考文献
Duthie C, Gibbs G & Burns KC (2006) Seed dispersal by weta. Science 311: 1575.
Uehara Y & Sugiura N (2017) Cockroach-mediated seed dispersal in Monotropastrum humile (Ericaceae): a new mutualistic mechanism. Botanical Journal of the Linnean Society. 10.1093/botlinnean/box043
de Vega C, Arista M, Ortiz PL, Herrera CM & Talavera S (2011) Endozoochory by beetles: a novel seed dispersal mechanism. Annals of Botany 107: 629–637.

この記事を書いた人

杉浦直人
杉浦直人

熊本大学大学院先端科学研究部(基礎科学部門)准教授。「植物と昆虫の利用しあう関係」全般に興味がありますが、特に虫との駆け引きを通じて洗練されてきた「ランの花の受粉メカニズム」に魅せられ、野外調査を続けています。花の美しさとは“機能の美”だと常々感じています。著書に『ハチとアリの自然史』(編著)、『あっ! ハチがいる!』(分担執筆)、『ランの王国』(分担執筆)があり、どの本でも「ランの花と昆虫との関わり」についての章を担当しました。絶滅危惧種レブンアツモリソウ(ラン科)の「保全管理」事業にも微力ながら携わっています。