初期の地球は融けていた

我々人類を始めとする生物を育んできた地球は一体どのようにしてできたでしょうか? 約138億年前に宇宙が創成したとされるビッグバン理論が確立された現在でも、46億年の地球の歴史についてはまだまだわからないことが多く残されています。これまでの研究から、初期の地球は微惑星が集まって形成されたと考えられており、地球はそれらの衝突エネルギーによる発熱で融けていたといわれています。

初期と現在の地球の内部構造

このマグマオーシャンと呼ばれる溶融状態から鉄、ニッケルのような重い金属が地球の中心に向かって沈降して核が形成されました。そして後に残ったマグマは冷却して固結し、現在のマントルができました。しかし、マントルがどのように固まって今の状態になったのか、その詳細なプロセスは明らかになっておらず、現在も初期の地球の融け残りのマグマがマントルの底に残っているといわれていますが、その成分もわかっていません。

マントル固化のプロセスはマントル鉱物の融解挙動によって紐解かれます。地球の約7割の体積を占める下部マントルは主にブリッジマナイト(MgSiO3)、ペリクレース(MgO)、カルシウムペロフスカイト(CaSiO3)と呼ばれる3つの鉱物で構成されています。これまで、マントルの進化過程を理解するために高圧力下におけるマントル鉱物の融点が数多く調べられてきましたが、下部マントルで2番目に多く含まれるペリクレースの融点のみ、未解決であったためマントル物質の融解関係は解明されませんでした。

両側レーザー加熱装置を使った超高温度発生

高圧力下の物質の融点はこれまでどのようにして調べられたのでしょう? ひとつはコンピュータを使って高い温度と高い圧力の環境下で物質の固体と液体のエネルギーを比較する理論計算の手法が挙げられます。コンピュータの計算処理能力の向上に伴って、現在では融点だけでなく、形(構造)、硬さや熱伝導性といった物性もこの手法によって調べられています。もうひとつは地球内部の高温高圧条件を実験室で実現し、融解を観察して決定する手法が挙げられます。最も硬い物質で知られるダイヤモンドを使って試料を圧縮し、さらにダイヤモンドを通してレーザーを試料に照射することで高温高圧状態を作り出すのです。

これまでの実験では高い圧力と同時に高い温度を発生することが難しく、4000℃を超えるような高温度の融点を計測した結果は、高圧力下におけるマントル鉱物においてはほとんどありませんでした。ダイヤモンドというのは硬いうえにレーザー光を透過するので高温高圧実験に適した材質ではありますが、一方で熱伝導性が高いため熱を奪いやすく、5000℃を超えるような、超高温度の発生が困難になるのです。マントル鉱物の加熱のためによく用いられるCO2レーザーを使った実験では、これまでレーザーを一方から照射する片側加熱方式が採用されてきましたが、私たちはより高い温度を生成するために高い出力のレーザーを2台配備し、試料の両側から同時にレーザーを照射する、両側加熱装置を新しく開発しました。このことによってこれまでよりも高い5000℃を超える高温度発生を達成し、より確かな融点計測の実現に成功しました。

ダイヤモンドアンビルセル(DAC)および愛媛大学の両側CO2レーザー加熱装置の概観 (a)とこの装置を用いた加熱実験の様子(b)

最も融けにくいペリクレースの融点決定に成功

私たちは開発した両側レーザー加熱装置を使って、ペリクレース試料に高温高圧条件を生成しました。さらに、間違いなく融解を判断するために、極限環境を経験した試料を大気圧まで戻して回収し、ナノメートルに至る微細な試料断面の結晶組織を電子顕微鏡で観察しました。この手法によって過去最高の圧力である約50万気圧までの融点決定に成功し、その融点はこれまでに計測された値よりも1500℃も高い約5600℃であることがわかりました。

ペリクレース(MgO)の融点計測結果

これはペリクレースがマントル鉱物のなかで最も高い融点を持つことを意味します。また、今回の結果と食い違っていた過去の低い融点では、融解ではなく高温度下にさらされることで起こる試料部の塑性変形に伴う現象を見誤っていた可能性を明らかにしました。さらに、得られた融点の結果はこれまでの理論計算の予想と非常によく一致していたことから、これまで未解決だったペリクレースの融解挙動は明らかになりました。

マントルの固化はペリクレースから始まった

ペリクレースが高い融点を持つことから、初期の地球のマントルがどのように固まって現在の地球になったのか、その成り立ちがわかってきました。地球のマントルがマグマだった頃から徐々に冷えてくると、マントル中で最も高い融点を持つペリクレースから固まり始めます。するとマグマからはペリクレースが少なくなっていきます。そして結果的に、現存するマントル最下部のマグマの成分は、ペリクレース(MgO)の成分であるマグネシウムに乏しいことがわかりました。この研究から主なマントル鉱物の融解挙動が明らかになったため、今後、マントルの冷却速度や構成物質の分布とその変化などについて、マントルが固まるプロセスの詳細が明らかになるでしょう。

融解が起こって固体から液体になるということは、物の硬さの指標である粘性率が急激に下がることを意味します。つまり、融点が高いということは粘性率がこれまで考えられてきた値より高いことになり、本研究で決定した高い融点から見積もられるペリクレースの粘性率は従来の1000倍も大きくなることがわかりました。これは、地球表面のプレートがマントルに沈み込んだ後の行く先や、マントルの対流活動を理解するうえで必要不可欠であり、今後、この粘性率の結果に基づいて、地球内部のダイナミクスの理解が進むことが期待されます。

このように、超高圧力下で記録的な高温度の融点計測を可能にする、新たな実験研究により、マグマ固化の歴史からマントルの対流活動に至るまで地球内部の諸問題に貢献できました。今後、このような研究をより推進することで、マントルだけでなく核の融解関係も明らかになり、地球全体の進化に対する理解が深まることが期待されます。

参考文献
Kimura, T., Ohfuji, H., Nishi, M., Irifune, T. (2017) Melting temperatures of MgO under high pressure by micro-texture alanysis. Nature Communications 8, 15735.
Kimura, T., Kuwayama, Y., Yagi, T. (2014) Melting temperatures of H2O up to 72 GPa measured in a diamond anvil cell using CO2 laser heating technique. The Journal of Chemical Physics 140, 074501.

この記事を書いた人

木村友亮
木村友亮
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター所属、日本学術振興会特別研究員(PD)。大阪大学工学研究科電気電子情報工学専攻修士・博士課程修了。愛媛大学特定研究員、東北大学日本学術振興会特別研究員(PD)を経て現職。惑星の内部構造の解明を目的として、最新のレーザー技術を駆使した実験によって高圧力下における地球惑星深部物質の融解挙動を調べる研究を行っています。