地球表層の7割は海に覆われていますが、地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍とも見積もられています。そのため、水は地球の表層だけでなく地球の内部でも重要な成分のひとつであり、地球の進化に多大な影響を及ぼしていると考えられています。しかしながら、地球内部における具体的な水の存在量とその循環はいまだ謎が多く、さまざまな研究が進められています。

今回、私たちの研究チームは、水と鉄を成分とする新しい結晶構造の鉱物が超高圧下で形成されることを発見しました。この鉱物はプレートの沈み込みにより、地球深部のマントルの底(地下2,900km)へ水を供給する役割を担う可能性があります。

地球内部への水の輸送

地球の表層はプレートと呼ばれる厚い岩盤で覆われており、その一部は地球内部へゆっくりと沈み込みます。このような海底の沈み込み帯では、水は岩石と反応して水を含む鉱物(含水鉱物)を形成します。液体の水は岩石と比べて軽いため地球の深くに入り込むことはできませんが、この含水鉱物を含むプレートが沈み込むことで、水の成分が地球深部のマントル(深さ 30〜2,900km)へ運ばれることが知られています。ただし、マントルは高温高圧の環境なので、沈み込みに伴う温度や圧力の上昇によって、ある深さで含水鉱物が脱水分解してしまいます。このような地球内部の水のふるまいを直接見ることは難しいのですが、もし含水鉱物が分解せずに安定して存在できる温度と圧力条件がわかれば、水が地球深部のどの深さまで運ばれるかを理解することができるというわけです。

プレートの沈み込みによる地球内部への水の輸送

今回の研究では、地球内部に多く含まれる成分のひとつである鉄と水との反応により生成される含水鉱物である水酸化鉄(化学式 FeOOH)に着目しました。従来の研究では、水酸化鉄はマントル深部条件下で水素(H2)と酸化鉄(FeO2)に分解することが報告されています。沈み込むプレートを構成する岩体が鉄をどの程度含むかは場所や時代により異なりますが、この先行研究によると、特に鉄を多く含む縞状鉄鉱層はマントル深部に水を運ぶことができないということになります。さらに、この水酸化鉄の分解は、地球全体の酸素濃度にも関わり、それが過去の地球表層環境に影響したとも考えられており、水酸化鉄のマントル深部での挙動は研究者の注目を集めていました。

新しい構造の水酸化鉄の発見 – 理論による予測と実験による実証

私たちの研究グループは、第一原理電子状態計算に基づく数値シミュレーションと、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験により、水酸化鉄の高温高圧下でのふるまいを調べました。

スーパーコンピュータ「京」や愛媛大学設置の並列計算機を用いて得られた数値シミュレーションの結果は、地下1,900km付近に対応する80万気圧において、水酸化鉄がパイライト型と呼ばれる構造に変化することを示唆しました。この結果は、水酸化鉄はマントル深部で水素と酸化鉄に分解するという過去の研究結果と異なります。

この結果を受けて、私たちはダイヤモンドアンビルセルによる高圧発生技術と、兵庫県の大型放射光施設 SPring-8の放射光X線を使用し、約140万気圧までの条件で水酸化鉄の結晶構造を調べました。実験結果は、理論予測されたものと同様、80万気圧程度で水酸化鉄の構造がパイライト型へと変化することを示しました。パイライト型水酸化鉄はマントルの底(2,900km)の圧力条件下(約130万気圧)でも観察されました。さらに測定した試料の体積は、パイライト型構造中の水素の含有を強く示唆しました。このように、水酸化鉄が水素を維持しつつパイライト型構造へ変化するという第一原理計算による理論的予想が、複数の証拠を含めた高度な実験により証明されました。

理論計算で使用した並列計算機と、ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部。先端を平らに研磨した2個のダイヤモンドに試料を挟むことで超高圧を発生し、放射光X線による分析により理論計算で予測された結晶構造を証明した。大(八面体中心の茶)、中(赤)、小(ピンク)の球はそれぞれ鉄原子、酸素原子、水素原子を示す

地球内部の大規模な水循環

本研究結果は、水酸化鉄が地球マントル深部環境で水素と酸化鉄に分解するという従来の学説を覆す発見であり、いまだに解明されていない地球深部における水の循環を明らかにするための新たな知見となると期待されます。本研究結果によると、水は地表からマントルと地球中心核の境界付近の 2,900km程度の深さまで運ばれる可能性があります。マントルの底に運ばれたパイライト型の水酸化鉄は超高温のマントルの底で酸化鉄と水に分離します。この領域で発生した液体の水はマントルの岩石を部分的に溶かし、プルームと呼ばれる地球内部の巨大な上昇流を形成する役割を担うと考えられます。また、マントルの底に運ばれた水は金属鉄からなる中心核へ溶け込む可能性があり、水は2,900kmより深く、地球の中心付近まで大規模に循環しているかもしれません。

地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部の水の循環
下部マントルに沈み込んだプレート内では、水酸化鉄の構造がパイライト型に変化し、中心核付近まで水を運ぶことが可能であると考えられる (原図は同研究グループの土屋旬准教授提供 )

 

参考文献
Tsuchiya, J. First principles prediction of a new high-pressure phase of dense hydrous magnesium silicates in the lower mantle. Geophysical Research Letters 40, 4570–4573. (2013).
Nishi, M., Irifune, T., Tsuchiya, J., Tange, Y., Nishihara, Y., Fujino, K., Higo, Y. Stability of hydrous silicate at high pressures and water transport to the deep lower mantle. Nature Geoscience 7, 224–227. (2014).
Nishi, M., Kuwayama, Y., Tsuchiya, J., Tsuchiya, T. The pyrite-type high-pressure form of FeOOH. Nature 547, 205–208. (2017).

この記事を書いた人

西真之
西真之

愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(東京工業大地球生命研究所兼務)・助教。九州大学で博士号(理学)を取得後、日本学術振興会特別研究員(PD、愛媛大学)等を経て現職。実験的手法により、超高温高圧条件下における物質のふるまいを解明し、地球惑星内部の構造や進化の謎解きに挑戦する。