人が色を見るしくみを通して、脳について学ぶ

色は、人間が視覚から得られる情報のなかで最も基本的な要素のひとつです。目を開ければ当たり前のように得られる感覚ですが、実はその詳細な仕組みはまだよく解っていません。色の感覚に関する情報処理の大半は脳で行われています。物の大きさや形、動きは、同じ物体を触って確かめ合うなど、視覚以外の感覚で他者と情報を共有できますが、色は完全に主観的な体験であるという特殊性があります。すなわち、色を見る際の神経情報処理は脳内で閉じており、色覚メカニズムの研究は脳情報処理の研究であるとも言えます。

色カテゴリーの研究

日常、我々は言葉を使って色の感覚を表現し、他者と情報共有をします。人間の目が見分けられる色の違いは数10万色と言われていますが、日常的な言葉で表される色名はせいぜい数十です。微妙な違いを超えて集約した色のグループ「色カテゴリー」に対して「言葉」を当てはめ、色の見え方を表現します。色カテゴリー分類には複数のレベルがあり、赤系/青系という大雑把な分類も、赤/ピンク/オレンジを区別する詳細な分類も可能です。これらの色カテゴリーの形成メカニズムを知ることは、人間が色を感じるメカニズムの解明に迫るひとつの手段となります。

我々は最近、日本語の母語話者における色カテゴリーに関する研究を行いました。国際的に色名の研究で用いられる330枚のマンセル色票を1枚ずつ実験参加者に示し、修飾語(「薄い」「明るい」など)や複合語(「赤紫」「黄緑」など)を使わない単一の色名で回答してもらう実験を、大学院生を中心とした57名の参加者に対して行いました。参加者が用いた色名数の平均は17.7(最小11、最大52)でした。

最近30年で「水色」が青から分離

色カテゴリーを研究するデータを集めるには、実験参加者に色名を報告してもらうしか方法がありません。ただ、データ解析では言葉を用いる必然性は低下します。なぜなら、色名に基づいてデータを解析すると、たとえば同じ色票セット(=色カテゴリー)に対し異なる色名を用いた参加者が存在する(明るい青の色票セットを「水色」「空色」と呼ぶ人が混在するような)場合、2つは異なる色カテゴリーと扱われてしまうためです。我々の研究対象は「どのような色の特徴に基づいた色カテゴリー(≠色名)が存在するか」です。そこで今回の研究では、実験結果から色名の情報を一旦外し、色票セットの情報のみのデータを作り、「330枚の色票を、日本人はどのような色カテゴリーに概ね仕分けたか」という解析を行いました。

データ解析にはk-平均クラスタリングという手法を用いました。このアルゴリズムは、比較的簡単なルールにしたがってデータをk個のクラスター(データの塊)に仕分ける計算を行いますが、計算時に分割数「k」を決めておく必要があります。そこで、2〜25の各々のk値に対し10,000回のk-平均クラスター解析を行い、その結果からGap統計量という指標を導いて最適のクラスター分割数を決める方法を取りました。最終的に、今回の有彩色データに対する最適のkの値は16で、無彩色(白・黒・灰)と合わせて19の色カテゴリーとなることが57名の参加者のデータから導出されました。それらは、国際的な基本色である11の色カテゴリー(赤、緑、青、黄、紫、橙、ピンク、茶、白、黒、灰)に加え、8つの色カテゴリー(水、肌、クリーム、抹茶、黄土、エンジ、紺、山吹:各々、カテゴリーで最も多く使われた色名)でした。

なかでも「水色」は、参加者57名のうち98%が使用し、クラスターは明確に青と分離していました。30年前の同様の研究では、ある参加者が水色と呼んだ色票のうち平均77%が他の参加者により青と呼ばれていたため、青/水色カテゴリーの分離は不完全と結論されていました。しかし今回の研究では、参加者間での水色カテゴリーの一致度と、青/水色カテゴリーの分離度が、いずれも以前の研究より高いことが統計的に示され、日本語の12番目の基本色であるという可能性が示されました。

色カテゴリーの分離はなぜおこる? – 赤ちゃんの視覚の研究から

このような色カテゴリーの分離は古くからたびたび起こっています。日本語では緑色のものを青と呼ぶ習慣があります。たとえば緑の信号灯を青信号、緑色の野菜を青物と呼ぶ等の習慣がありますが、誰も青と緑の区別がついていないわけではありません。今回の研究でも、水色と青より、青と緑の色カテゴリーの分離度の方が高いことが統計的に示されています。古い日本語における色名語は「赤、青、白、黒(いずれも「〜い」と呼べる)」の4つでした。したがって、「古語の青」は現在の緑と青を含む色カテゴリー(専門用語では”grue”:greenとblueの合成語)だったと考えられ、その頃の習慣の名残と思われます。以下では「古語の青 (grue)」を「青G」、現代の(modern)青と緑を「青M, 緑M」と区別して書くことにします。

では、青Gから青Mと緑Mへの分離はなぜ起きたのでしょうか? 我々は昨年、青Mと緑Mのカテゴリー境界の付近にある色を使い、言語獲得前の赤ちゃん(5〜7か月児)の脳活動を調べた研究を発表しましたが、そのなかに答えがありました。赤ちゃんの脳活動を調べる実験では、青M⬄緑Mを1秒おきに交代する図形を見せたときと、異なる2色の緑(緑M1⬄緑M2)を交代に見せたときの脳活動を近赤外分光法(Near InfraRed Spectroscopy: NIRS)で測定しました。解析の結果、いずれも同じ色差のペアであるにもかかわらず、青M⬄緑Mのペアに対してのみ脳活動の上昇が見られ、言語獲得前の赤ちゃんも青Mと緑Mを別の色カテゴリーと認識していることが明らかになりました。

この結果は、言語の獲得と関係なく色のグループを作る「カテゴリー化」が脳内で行われ、かつ大人と同じカテゴリーの境界を持つことを示しています。別の研究では、言語を使わないマカクサルの脳内にも、青Mと緑Mの色カテゴリーに選択的に反応する神経細胞が発見されています。したがって古語の時代でも、人々の脳内の神経レベルでは青Mと緑Mは違うグループの色と区別されていたものの、それらを別の言葉で表現する習慣が浸透しておらず、2つを束ねて青Gという色名を当てていたと推測できます。

以上を整理すると、色カテゴリーが「分離」したのではなく、言葉より先に個別の色カテゴリーに対応する神経細胞が存在していたところへ、まず2つを束ねた色名(青G)が割り当てられ、その後、青Mと緑Mの区別が浸透した結果、異なる色名で呼ぶ習慣が定着したと考えられます。この「grue からblue/greenへの分離」は、多くの言語が成熟過程で必ず経る通過点と考えられています。13世紀の英語にもgrueに対応する色名 “HÆWAN” が存在し、後にgreenとblue (bleu) に分離したことが知られています。したがって、青と緑を分割する境界線は、人類に共通した神経メカニズムに基づいて形成されている可能性が高いと考えられます。

また、「水色/青」のように「明るい青/暗い青」を別の色カテゴリーとする認識は、ロシア語を始めとする複数の言語にも見られます。したがって「青」から「水色と青」への分離についても、青と緑と同様に、人類共通の神経メカニズムとして2つの色カテゴリーに対応した神経表現が脳内に存在すると考えられます。

脳内の信号変換 − 脳の色から言葉の色へ

では、脳内における色カテゴリー(の素)は、どのような神経メカニズムによって構築されているのでしょうか? 我々がfunctional MRIを用いて行った人間の脳活動計測の研究では、多様な色に対して応答する神経メカニズムが、脳内で視覚情報処理を行う部位(視覚野)に広く存在することが示されました。

こうした神経活動の色選択性は、網膜の光センサ(錐体)からの信号が様々に組み合わされて形成されますが、脳内細胞の色選択性から色カテゴリーへの信号変換の方程式が見つかっていないのが現状です。色選択性の神経メカニズムと色カテゴリーに対応した脳活動をより詳細に検討し、錐体応答から色カテゴリーまでの信号変換の過程を解明することは、今後の研究の課題です。その過程で、数十万の感覚情報を少数のカテゴリーに集約する際の情報処理の方略等についても、新たな知見が得られることを期待しています。

 

参考文献
[1] Kuriki I., Lange R., Muto Y., Fukuda K., Tokunaga R., Lindsey D.T., Brown A.M., Uchikawa K., and Shioiri S. (2017) The modern Japanese color lexicon. Journal of Vision, 17(3), 1.
[2] Yang J., Kanazawa S., Yamaguchi M.K., and Kuriki I. (2016) Cortical response to categorical color perception in infants investigated by near-infrared spectroscopy. Proceedings of The National Academy of Sciences of U.S.A. 113(9), 2370-2375.
[3] Kuriki I., Sun P., Ueno K., Tanaka K., and Cheng K. (2015) Hue selectivity of neurons in human visual cortex revealed by BOLD fMRI. Cerebral Cortex, 25, 4869-4884.

この記事を書いた人

栗木一郎
栗木一郎

東北大学 電気通信研究所 准教授。博士(工学)。東京大学工学部卒、東京工業大学大学院総合理工学研究科で学位を取得後、東京工業大学 助手、東京大学 助手、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 研究員を経て現職。人はなぜ物を見る事ができるのか、特に色を見る感覚・色知覚に関連した視覚の脳内メカニズムの研究に従事。実験心理学的な手法を軸に、脳機能計測(fMRI, EEG/MEG, fNIRS)と、計算科学的な手法を組み合わせて研究を行っている。