太陽系の形成進化過程で、溶融や分化を経験しなかった始原的隕石の中には、太陽系初期に形成した物質がそのまま保存されています。始原的隕石に含まれる太陽系最古の物質から新たに発見された鉱物には、太陽系誕生直後の物質進化の歴史が刻まれていました。

小惑星は初期太陽系の化石

私たちの住む太陽系は、どのような過程を経て現在の姿になったのでしょうか? この謎を解くためには、太陽系初期の情報を記録した物質を調べる必要があります。地球や火星のように大きな天体の岩石は、天体形成時の重力エネルギーの解放や放射性元素の壊変熱などにより、一度天体全体が融けてから固化したものであるため、天体形成前の情報を失ってしまっています。しかし、主に火星と木星のあいだに分布する小惑星という微小天体は、これまで溶融過程を経験していないため、初期太陽系の情報を留めています。小惑星の物質は、コンドライトと呼ばれる始原的な隕石や、はやぶさ探査機により持ち帰られた探査機リターンサンプルとして手に入れることができます。

始原的隕石の一種アエンデ隕石(炭素質コンドライト)。白色で不定形の難揮発性包有物、球粒状のコンドルール、それらの間を埋めるマトリックスから構成される。隕石のサイズは2.5cm × 2cm

コンドライトには、白色で不規則な形をした、直径1mm~1cm程度の鉱物集合体が含まれています。この鉱物集合体は、揮発性の乏しい元素であるカルシウムやアルミニウム、チタンなどに富むため、難揮発性包有物と呼ばれています。難揮発性包有物は、約46億年前に太陽近傍の高温ガスから凝縮して形成したことがわかっており、太陽系最古の固体物質とされています。太陽系誕生直後の情報を記録している難揮発性包有物は、太陽系誕生直後の物質進化過程を理解するうえで非常に重要な研究対象とされてきました。

太陽系最古の鉱物「迷子のざくろ石」を新発見?

今回、筆者らの研究グループは、難揮発性包有物の中から太陽系最古の新種の鉱物を発見しました。この新鉱物の発見から承認に至るまでの道のりを、簡単にご紹介します。

近年の分析技術の進歩のおかげで、10マイクロメートル(十万分の1メートル)以下という以下という微小な領域の分析を行えるようになりました。大学院生の筆者が研究に行き詰まったある日、気分転換としてアエンデ隕石というコンドライト中の難揮発性包有物を走査型電子顕微鏡で観察していたところ、直径5〜10µmほどの微小な鉱物が10粒ほど含まれているのを発見しました。難揮発性包有物中の鉱物は、その種類ごとに大きさや形状などの「産状」が大まかに決まっています。しかし、今回発見した鉱物の産状は、筆者がこれまで見たことのないものでした。

新鉱物ルービナイト(薄灰)を含む難揮発性包有物の走査型電子顕微鏡写真。ペロブスカイト(白)、メリライト(濃灰)はいずれも難揮発性包有物に普遍的に含まれる鉱物

この鉱物の化学組成や結晶構造を詳しく分析してみたところ、Ca3Ti3+2Si3O12という化学式を持つ、ざくろ石の一種であることが明らかになりました。ざくろ石は、英語ではガーネットと呼ばれる鉱物であり、宝石としてご存知の方も多いでしょう。このような化学式を持つざくろ石は天然試料から見つかっておらず、「迷子のざくろ石」と呼ばれていました。もし筆者の見つけた鉱物が本当に迷子のざくろ石であるならば、新たな発見です。そして、この鉱物は難揮発性包有物中から見つかったため、新種の鉱物であると同時に、太陽系最古の鉱物である可能性もあります。隕石中鉱物学の第一人者であるカリフォルニア工科大のChi Ma博士も、同時期に別な難揮発性包有物から似た鉱物を発見していたため、共同で研究を行い、新鉱物認定を目指すことになりました。

新鉱物として承認

新鉱物は、天然試料中から新たな化学組成や結晶構造、またはその両方を持つ鉱物が発見された際に、国際鉱物学連合の新鉱物認定委員会に申請を行い、審査を通過することで承認されます。新鉱物申請のためには、その鉱物の産状、化学組成や理想化学式、結晶構造などを詳細に分析し、名称案と共に申請書にまとめ提出する必要があります。提出された申請書は、2か月程かけて、世界中の鉱物学者40名ほどから構成される新鉱物認定委員会の厳しい審査にかけられます。最終的に、半数以上の委員が参加した投票で2/3以上から賛成を得ることで、新鉱物として認定されます。

筆者は東北大で、Ma博士はカリフォルニア工科大で、それぞれの試料の詳細な分析を行いました。いずれの試料も直径が10µm以下と非常に微小であったため、周囲の鉱物の情報が混入するのを防ぐことが難しかったものの、最新型の電子プローブマイクロアナライザーや、近年実用化された後方散乱電子回折法を用いて、鉱物の化学組成や結晶構造を決定しました。そして、互いのデータが一致したことを確認したうえで、共同で申請書を提出しました。

新鉱物の命名権は、発見者に与えられます。多くの場合、新鉱物には著名な鉱物学者にちなんだ名前がつけられます。筆者らは、今回発見した新鉱物を、宇宙化学・隕石学分野で著名なカリフォルニア大学ロサンゼルス校のAlan E. Rubin博士にちなみ、ルービナイトと命名することを申請書中で提案しました。

2016年12月に提出した申請書は、新鉱物認定委員会の審査にかけられ、2017年3月にルービナイトが新鉱物として承認されました。ついに迷子のざくろ石が見つかったということもあり、審査に関わった鉱物学者達からは驚きのコメントが届けられました。

新鉱物ルービナイトに刻まれた初期太陽系進化の痕跡

「太陽系最古」の「新種」の鉱物であるルービナイトには、太陽系誕生直後の物質進化の歴史が刻まれていました。その一部をご紹介しましょう。

筆者らはこれまでに、複数のコンドライト中の難揮発性包有物から多様な産状や微量元素組成を示すルービナイトを発見してきました。ルービナイトの産状からは、ルービナイトには星雲ガスから凝縮したものだけでなく、星雲ガス中で再加熱を受け部分溶融した難揮発性包有物中で結晶化したものもあることがわかりました。地球の岩石に含まれるチタンの価数は4+であるのに対し、いずれのルービナイトにも多量のTi3+が含まれていました。ルービナイトを形成した凝縮過程や溶融・再結晶過程は、いずれも現在の地球表層に比べ酸素の少ない、非常に還元的な星雲ガス内で起こったことが明らかになりました。

難揮発性包有物中の鉱物の微量元素組成は、星雲ガス中での形成温度や、難揮発性包有物が小惑星に取り込まれた後に経験した熱水との反応の程度を反映します。ルービナイトには、比較的低温で形成し小惑星上で熱水と強く反応したもの(産状1)や、高温で形成し小惑星上ではほとんど熱水と反応しなかったもの(産状2, 3)など、多様な形成進化歴を持つものがあることがわかりました。

異なる産状を示すルービナイトの微量化学組成

ルービナイトは、太陽系誕生直後から小惑星形成後の水熱変成過程に至るまでの、長い期間の物質進化過程の歴史を留めていました。このような初期太陽系の長い期間の情報を保持している鉱物は珍しく、太陽系形成進化史を解明するうえで非常に重要な研究対象であるといえます。今後予定している、ルービナイトの同位体組成分析、形成年代測定、微細組織分析などにより、太陽系誕生直前に起こった超新星爆発や、地球生命の起源解明の鍵とされる小惑星上での水の挙動などを詳細に解明できる可能性があります。小さな新鉱物が今後語ってくれる太陽系形成進化史に、どうぞご期待ください。

参考文献
Ma C., Yoshizaki T., Nakamura T. and Muto J. (2017) Rubinite, IMA 2016-110. CNMNC Newsletter No. 36, April 2017, 408; Mineralogical Magazine, 81, 403–409.

この記事を書いた人

吉崎昂
吉崎昂
東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 博士前期課程2年
2016年東北大学理学部地球惑星物質科学科卒業。専門は宇宙化学。見上げることしかできないと思っていた宇宙に秘められた謎を、自分の手の中にある隕石の分析に基づき解明できることに魅力を感じ、宇宙化学の道に進みました。微細組織観察、元素・同位体組成分析、結晶構造解析、理論計算などを組み合わせて難揮発性包有物を「解剖」することで、太陽系形成直後の出来事を理解したいと考えています。最近は、初期太陽系において物質がどのようにかき混ぜられ、輸送されていたのかに興味を持っています。