深海底に眠る4種の海底鉱物資源

私たちの普段の暮らしは、さまざまな金属資源によって支えられています。鉄・アルミ・銅などの毎日のように目にする身近な金属だけでなく、たとえば合金材料に使われるコバルト、クロム、モリブデン、タングステン、強磁性磁石に必須のレアアースなど多様な金属資源を活用しています(磁石はモーターに必須の部品なので、ハイブリッドカー、風力発電機、携帯電話、ハードディスクなど多様な用途があります)。しかし、日本はその金属資源の多くを海外からの輸入に頼っているのが現状です。

一方で、四方を海に囲まれている日本は、世界第6位の排他的経済水域 (EEZ)を有しています。その深海底には、「マンガン団塊」、「熱水鉱床」、「コバルトリッチクラスト」、「レアアース泥」の4種類の海底鉱物資源が分布しており、将来の新たな金属資源の供給元として脚光を浴びています。今回の記事では、これらのうち海底熱水鉱床に注目していきたいと思います。

深海底に存在する高温の温泉≒海底熱水鉱床

水の沸点は圧力に応じて変化する、というお話はときどき耳にすることがあると思います。水の沸点は圧力が高いほど高くなるため、たとえば気圧の低い富士山の頂上では約88度ですが、水深1000メートルを超える深海底では300度を超える温度まで達することができます。海底の断層やひび割れを通じて海水が地層深くに染み込み、それが火山活動に伴うマグマの熱で温められて上昇するシステムを「海底熱水循環系」と言います。

この循環系によって、熱水は地層中のさまざまな元素を溶かし込み、熱水が海底面上に噴出して冷たい海水と触れることで、金属元素が沈殿します。これらの沈殿物には主に「銅・鉛・亜鉛 (±金・±銀)」が濃集します。このような、いわば深海底の温泉活動によって形成される金属資源が海底熱水鉱床であり、日本近海のEEZでは「伊豆-小笠原海域」と「沖縄トラフ」の2つの海域に分布しています。

人工熱水孔の形成とチムニー急成長

2010年9月~10月にかけて、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた掘削調査航海(統合国際深海掘削計画第331次航海)が沖縄トラフで実施されました。本航海は、海底面下の極限環境に生息する微生物調査を主目的としていましたが、現在も活動的に熱水が噴出している沖縄トラフ伊平屋北海丘で掘削調査を実施したことにより、掘削孔から熱水が噴出する「人工熱水孔」が4つ形成されました 。

裸孔の人工熱水孔上で観察された急成長するチムニー

その後、海洋調査船「なつしま」・「かいよう」、無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて、定期的な人工熱水孔の観察や、熱水・岩石・生物試料を採取する潜航調査航海が実施されました。

4つの人工熱水孔のうち、伊平屋北海丘オリジナルサイトの熱水活動の中心に位置するNorth Big Chimneyマウンドの人工熱水孔(Hole C0016A)上には、私たちの予期せぬ現象が観察されました。掘削5ヶ月後、人工熱水孔上に高さ4メートルのチムニーが成長していたのです。さらにこのチムニーは、熱水試料採取のために途中で折ったにも関わらず、掘削11ヶ月後には高さ7メートルまで急成長している様子が観察されました。

チムニーとは、海底の熱水活動によって供給された金属元素が、海底面上で硫化鉱物、酸化鉱物、珪酸塩鉱物、硫酸塩鉱物などとして沈殿し、熱水噴出孔の周囲に形成される煙突状の岩石を指します。このようなチムニーの急成長は、海底火山活動や地震活動に伴って観察された例はありますが、大変に珍しい現象です。

チムニーの中身や成分は?

採取されたチムニー試料を用いて、研磨片による顕微鏡観察やさまざまな化学分析が実施されました。人工熱水孔上に急成長したチムニーは、海水と触れる最外部は硬石膏 (CaSO4)、石膏 (CaSO4・2H2O)の硫酸塩鉱物が卓越しています。一方、チムニーの内側は閃亜鉛鉱(ZnS)と黄銅鉱(CuFeS2)の樹枝状組織が卓越し、その間を方鉛鉱(PbS)が埋める組織を呈します (a)。下図に示した画像は、チムニー研磨片の後方電子散乱画像と呼ばれる画像で、白色ほど密度が大きく、黒色ほど密度が小さい物質でできていることを示しています。このような樹枝状組織以外にも、硫酸塩鉱物の一部が溶解したことに由来する骸晶組織 (b)や、化学組成累帯構造を示す球状黄鉄鉱(c)、未同定の針状亜鉛硫酸塩鉱物(d) など、陸上の黒鉱鉱床ではあまり観察されない初生的な鉱物組織が普遍的に観察されます。

黒鉱鉱床は、島弧 ・背弧型の海底熱水鉱床が陸上に露出したものです。日本列島にも日本海拡大に伴うグリーンタフベルト広く分布しており、銅-鉛-亜鉛鉱床として盛んに採掘されて日本の高度経済成長期を支えました。沖縄トラフの海底熱水鉱床は、陸上黒鉱鉱床の「現代版」といえるでしょう。

人工熱水孔上に生成したチムニー研磨片の後方散乱電子画像

次にチムニーがどのような元素で構成されているかに着目すると、人工熱水孔上に生成したチムニーは、最外部の硫酸塩鉱物に富む部分を除くと、平均で銅4.5%、鉛6.9%、亜鉛30.3%、321ppmの銀および1.35ppmの金が含まれています。これらの有用金属元素濃度は、陸上の高品位黒鉱鉱石に匹敵するかそれよりも高い値です。したがって、人工熱水孔上のチムニー急成長とその有金属元素濃度の高さから、海底熱水鉱床を養殖しようというユニークなプロジェクトが2012年にスタートしました。

黒鉱養殖装置の開発と設置・回収

人工熱水孔を用いた海底熱水鉱床養殖プロジェクトを開始するにあたって、私たちがいまだによくわかっていない基礎的データが、熱水の「流量」です。流量がわかれば、熱水中の溶存金属濃度と掛け合わせることで、各元素のフラックス (流束)を求めることができ、ひとつの人工熱水孔から沈殿させることが可能な金属量の見積もりを行うことができます。また、無人探査機が扱える機器には重量制限があることから、まずは下図のような小型の黒鉱養殖装置を開発しました。本装置には鉱物を沈殿させるセル部に加えて、熱水の温度・圧力、流量、セル部沈殿物の重量変化を測定するロードセルおよびそれらのセンサーロガーが装着されています。

KR16-17航海における黒鉱養殖装置回収の様子

これらの装置を2016年2月~3月および2016年11月~12月にかけて行われた地球深部探査船「ちきゅう」の二度の航海(CK16-01航海,CK16-05航海)において、沖縄トラフ伊平屋海丘オリジナルサイトと伊平屋小海嶺南麓野甫サイトに、合計3基設置しました。

そして、2016年12月~2017年1月の深海調査研究船「かいれい」および無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて行われたKR16-17航海において、約10ヶ月間にわたって人工熱水孔上に設置された2基の小型養殖装置の回収に成功しました。本装置が小型とはいえ、空中重量300 kgを超える機器であり、このような重量物の回収オペレーションは、「かいれい」「かいこうMk-IV」にとって初めての経験であり、さまざまな困難がありましたが、研究者・技術者・乗組員の英知が結集されて、課題がひとつずつクリアされていきました。本航海によって、10ヶ月という長期間にわたって熱水の物理計測に成功しただけでなく、セル部には鉱床の元となる鉱物がぎっしりと詰まっていました。

今後、これらのセンサーデータや沈殿物の詳細な解析を行い、より効率的な養殖方法を模索する予定です。まだまだ発展途上のプロジェクトですが、今後の研究にご期待ください!

参考文献

1. Kawagucci, S., Miyazaki, J., Nakajima, R., Nozaki, T., Takaya, Y., Kato, Y., Shibuya, T., Konno, U., Nakaguchi, Y., Hatada, K., Hirayama. H., Fujikura, K., Furushima, Y., Yamamoto, H., Watsuji, T., Ishibashi, J. and Takai, K. (2013) Post-drilling changes in fluid discharge, mineral deposition patterns and fluid chemistry for the seafloor hydrothermal activity in the Iheya-North hydrothermal field, Okinawa Trough. Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 14, 4774-4990.

2. Nozaki, T., Ishibashi, J.-I., Shimada, K., Nagase, T., Takaya, Y., Kato, Y., Kawagucci, S., Watsuji, T., Shibuya, T., Yamada, R., Saruhashi, T., Kyo, M. and Takai, K. (2016) Rapid growth of mineral deposits at artificial seafloor hydrothermal vents. Scientific Reports, 6, 22163.

3. Takai, K., Mottl, M. J., Nielsen, S. H. H. and the IODP Expedition 331 Scientists (2012) IODP Expedition 331: Strong and expansive subseafloor hydrothermal activities in the Okinawa Trough. Scientific Drilling, 13, 19-27.

この記事を書いた人

野崎達生
野崎達生

国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター 資源成因研究グループグループリーダー代理。2008年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2009年、海洋研究開発機構に入所。専門は『地球化学,鉱床学』。学生時代は、Re-Os同位体を用いた陸上の別子型鉱床の成因研究に取り組む。現職に移ってからは多数の調査研究航海に参加し、「黒鉱養殖プロジェクト」や地球深部探査船「ちきゅう」による潜頭性鉱床などの海底鉱物資源の成因研究に取り組んでいる。