2015年4月にacademistのプロジェクト「謎多きアリの「居候」の多様性を調べたい!」で目標金額を達成した九州大学熱帯農学研究センターの小松貴研究員に、カメルーンやケニアでの調査研究の様子についてご寄稿いただきました。クラウドファンディングで獲得した研究費で、どのような調査をされてきたのでしょうか。

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昨年度、「謎多きアリの「居候」の多様性を調べたい!」を通じて皆さまからご支援いただいた研究費を用いて、2015年5月9日~5月26日にカメルーン、2016年5月24日~6月12日にケニアに、それぞれサスライアリを中心とするアフリカのアリと共生する好蟻性生物の撮影および調査に行ってまいりました。

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サスライアリ

カメルーンは、狭い国土内にサバナ、ステップ、ジャングルなど、多彩な環境を有していますが、我々はジャングル環境のある場所を調査地としました。カメルーン周辺は、アフリカ大陸のなかでもサスライアリの種多様性、そして生息密度がとても高いエリアで、珍奇な好蟻性生物の発見が大いに期待される場所です。とはいえ、何しろ相手はさすらいの遊牧民。ここに行けばいつでも見られるという生き物ではなく、現地到着後最初の3~4日はアリの行列を求めて、広大なジャングルを無意味に何kmも歩くだけに終わりました。

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カメルーンのジャングル

その後、数回にわたり獲物を求めるアリの捕食行軍にぶつかることができ、カブトガニのように平たい体でアリに咬まれないようにするハネカクシ、棒のような体形でアリに気づかれないようにするハネカクシ、さらにアリそっくりな体形でアリになり済まし行列を行くハネカクシといった甲虫類を発見しました。行列の周囲では、アリに追われて逃げる小動物を便乗して襲う、珍しいハエを確認しました。いくつかの行列では、アリが野営地として使っている一時的な巣まで辿ることができ、巣のそばにあるアリたちのゴミ捨て場からアリの死骸を餌とするハネカクシ、エンマムシなどの甲虫を発見しました。サスライアリ以外のアリ種からは、好蟻性生物はほとんど見つかりませんでしたが、林縁の植物上でアリに守られるツノゼミ類は豊富で、10数種を確認できました。一方、シロアリに関しては、大型の塚を造るキノコシロアリの巣からシロアリの姿に似せた珍奇な形態のハエ、ハネカクシなどを得ることができました。

シロアリノミバエ
シロアリノミバエ

ケニアでは大きく2つの環境、すなわち多湿なジャングルと乾燥したサバナという相反するエリアを調査地に選びました。サスライアリの生息密度はかなり低く、発見される好蟻性生物もわずかなものでしたが、カメルーンでは撮影できなかったタイプの微小ハネカクシを数種撮影できました。ケニアでは、奇妙な形態の触角をもつ好蟻性の甲虫ヒゲブトオサムシの多様性がすさまじく、現地滞在中に5種程をアリの巣から得ました。東南アジアにもこの仲間はいますが、とにかく数が少なくて発見は容易でなく、1ヶ月滞在して1匹採れるか否かという程です。2週間ほどの滞在で、これほどの種数が見つかるとは思いもしませんでした。ツノゼミも多く、特にサバナではアカシアの木につき、アリとの関係が強い特殊な種群のものを多数得ました。ケニアは、高さ2mを超す巨大な塚を造るオオキノコシロアリの巣が多く、これらの巣内からはシロアリに似せたハネカクシ、ハエのほか、シロアリを捕食するという大型のゴミムシ、コガネムシなども見つかりました。いずれも、これまで生きた姿が撮影されたことのない、非常に珍しいものでした。

ケニアのサバナ
ケニアのサバナ

今回集まった研究費のうち、約半分をカメルーン遠征に、残りをケニア遠征にそれぞれ充てるような使いかたをしました。かねてから噂に聞いていたとおり、アフリカは物価がかなり高く、2~3週間滞在するだけでも日本で同期間生活するのと同等か、それ以上の費用が掛かります。さらに、これらの国において外国人の野外研究者は、調査に当たり治安などの理由から現地にてガイド・用心棒を雇う決まりとなっており、1日に付き高額の報酬(日本円に換算して1万円程度)を彼らに支払う必要があります。このほか、現地にてアリの巣の掘削や探索、私有地への立ち入りなど、現地の住民達に多大な協力を頂き、その謝礼も支払わねばなりません。今回のクラウドファンディングで集めた研究費により、これら多大なる出費をすべてカバーすることが出来ました。ご支援いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

これで「アリの巣の生きもの図鑑世界編」を作成するに当たり、重要なピースのひとつひとつが揃いました。このほか、僅かに残っている未調査地域での調査の末、再来年度初頭をめどに、図鑑の出版を目指しています。皆さま、今しばらくお待ちいただければ幸いです。

この記事を書いた人

小松貴
小松貴
1982年生まれ。幼少期より、小さくて目立たない生き物を観察しながら育つ。2010年3月、信州大学大学院総合工学系研究科山岳地域環境科学専攻にて博士課程修了、博士(理学)取得。2014年より九州大学熱帯農学研究センターにて日本学術振興会特別研究員PD。アリと共生する生物を研究する傍ら、国内外にて様々な生物の観察、撮影を行う。著書に「アリの巣の生きもの図鑑」「裏山の奇人 野にたゆたう博物学」(ともに東海大学出版部)、「虫のすみか 生きざまは巣にあらわれる」(ベレ出版)など。