我々が住む太陽系はどのようにして誕生したのでしょうか? 太陽系のような惑星系は他に存在しうるのでしょうか? これらの立証は天文学における一大テーマのひとつであり、現在も議論・研究が続いています。太陽系以外での惑星(系外惑星)の探査は古くから行われてきており、近年では、ケプラー宇宙望遠鏡の活躍により、実に数千もの系外惑星の検出に成功しています。発見された系外惑星は、我々の太陽系とは全く異なっており、多様性に富んでいることがわかりました。では、このような多様性に富む惑星系はどのようにして産まれるのでしょうか? これを調べるには、惑星がどのように産まれてきたのか、その起源を探ることが重要です。本記事では、我々の研究グループが行った、惑星形成現場に迫る最新の観測研究の結果についてご紹介します。

惑星形成の土台:若い星を取り巻く原始惑星系円盤

現在考えられている標準的な理論によると、若い星の周りを取り巻く「原始惑星系円盤」の中で惑星が産まれると考えられています。この円盤構造は、およそマイナス260度という極めて低温のガスや塵から構成されており、太陽系の大きさほどに広がり、中心の若い恒星の周りを回っています。これまでの研究から、円盤が若い恒星の周りに偏在していることは良く知られているのですが、円盤内でどのように惑星が形成されるかについては、いまだ良くわかっていません。よって、円盤構造を詳しく観測し、多様な惑星系がどのように生まれてくるのかを調べることが必要となります。

今回、我々の研究グループが着目したのは、うみへび座TW星という星で、水素融合反応を起こす前の段階にある、年齢およそ1000万年という若い恒星です。地球からの距離は175光年程で、原始惑星系円盤を持つ若い恒星の中では、最も地球に近い位置にあります。恒星の質量は太陽とほぼ同程度であり、我々の太陽系がどのようにして形成したのかを調べる良い観測ターゲットです。それゆえ、以前から多くの研究が行われてきた天体でもあります。

巨大電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」による2波長観測

円盤を構成する低温物質は、人間の目では見ることはできませんが、電波を放射しています。つまり、天体が放射する電波を捉えることで、惑星の元となる冷たい物質を直接「見る」ことができるため、電波望遠鏡を用いた観測を行うことが重要となります。

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)、略して「アルマ望遠鏡」は、日米欧が中心となり、チリ共和国の協力の元建設した、世界最高性能の巨大電波望遠鏡です。アルマ望遠鏡では、ミリ波やサブミリ波といった波長の電波を、これまでにない高い解像度で観測することが可能です。

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今回の観測で使用したアルマ望遠鏡の外観©国立天文台

今回の研究では、2.1ミリおよび1.3ミリの波長を持つ電波を観測するべくチューニングをし、円盤内の塵が放射する電波強度の分布を詳しく調べました。電波強度は塵の大きさに関係しているため、複数の波長の電波強度を調べることで、円盤内の塵の大きさの分布を調べることができるようになります。この塵の大きさ分布の情報は、惑星が形成されているかどうかを探る重要な証拠のひとつです。今回の観測研究の革新的なポイントも、この円盤内の塵の大きさ分布を詳しく調べたところにあります。

惑星が円盤に作り出す模様:隙間構造

実際に円盤内で形成されている惑星を見出せば、円盤が惑星の母胎である直接的証拠となりますが、惑星からの電波は極めて弱く、とても検出できません。なので、惑星が存在することによって作り出される、円盤に現れる「模様」を観測することになります。以下の図が、本研究で明らかになったうみへび座TW星の周りにある円盤の電波放射分布です。うみへび座TW星は、これまでの観測研究により、円盤内に複数の隙間構造があることが分かっていますが、本研究で行った観測でも、同様の隙間構造を確かめることが出来ました。

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アルマ望遠鏡による観測で得られたうみへび座TW星に付随する原始惑星系円盤の様子。比較のため、太陽系の木星と海王星の軌道を右下に示す。またアルマ望遠鏡の解像度(最小可視サイズ)を左下に示している [© ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.]

惑星の存在を暗示する塵の大きさ分布

円盤に見られた隙間構造は、形成中の惑星が軌道上の物質を取り込んだことによる模様だと考えられています。つまり、この隙間の中には惑星が形成されているのかもしれません。今回の研究では、22天文単位(1天文単位:太陽から地球の距離)の位置にある隙間に着目し、隙間周辺での塵の大きさ分布を調べる解析を行っています。

塵が放つ電波は、塵の大きさに関係して強度が変わります。塵の大きさと同程度の波長を持つ電波を強く出すため、波長が短い電波が強ければ塵が小さい、波長が長い電波が強ければ塵が大きい、ということがわかります。つまり、2波長の電波で観測し、その強度比を調べることで、塵の大きさ分布に制限をつけることが出来ます。

下図が、実際に今回の観測で測定した電波強度比です。着目した22天文単位では、隙間の周囲に比べると電波強度比が大きくなっています。塵が小さいほど電波強度の比は大きくなるため、この隙間では周囲に比べて、大きい塵が少なく小さい塵が多く存在していることを意味します。塵の具体的な大きさを決めることは難しいのですが、大きい塵は数ミリメートル程度、小さい塵は数マイクロメートル程度の大きさだと考えられています。

このような大きい塵が減少した隙間は、円盤内で惑星が形成される理論モデルの予言とよく一致しています。円盤中の惑星が隙間を作っている時、隙間の両端におけるガス圧の効果により、ガスと塵の間に相互作用(摩擦力)が働きます。この効果は、ミリメートルサイズの塵に対して大きく働くため、このような塵は隙間からはじき出され、マイクロメートルサイズの小さい塵のみが隙間に残ります。今回見出された電波強度比も、ちょうどそれと同じ傾向を示していることがわかります。

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アルマ望遠鏡で測定した、恒星からの距離に対する2波長間の電波強度比の分布。22天文単位の位置において、電波強度比が大きくなっていることがわかる [© ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.] (改編)

隙間にはどのような惑星があるか?

隙間が惑星によって作られた模様ということが分かったので、次は「どういう惑星があるのか?」という疑問が浮かびます。近年の理論研究によると、惑星によって作られる隙間の幅と深さは、惑星の質量と関連があることが予想されています。この関係を用いることで、観測で測定できる隙間の幅と深さから、隙間を作っている惑星の重さを見積もることが可能です。

観測から見積もられる、隙間の幅は5天文単位程度、深さの度合いは0.5程度です。この結果を理論計算と比較したものが以下の図になります。観測から見積もられた値は、理論予想線(図中赤線)上にあり、そこから見積もられる質量は、海王星より少し重い程度ということが分かります。中心星から22天文単位という距離は、太陽系では天王星と海王星の軌道の間に相当します。うみへび座TW星が太陽とほぼ同じ重さの若い星であることを考えると、ここで誕生している惑星は天王星や海王星とよく似た巨大氷惑星である可能性が高いと考えています。

金川ら(2015,2016年)の理論計算に基づいた、隙間の深さおよび幅と、隙間を作り出す惑星質量の関係の予想線

 

さらなる研究の発展へ

今回の研究により、うみへび座TW星の周りを取り巻く原始惑星系円盤において、中心から22天文単位にある隙間では、その中で惑星が形成されている可能性が高いことがわかりました。測定にはさまざまな仮定も用いているので、今後、さまざまな観点での研究を行い、確度を上げることが重要となります。我々の研究グループでは、今回の研究結果を受けて、アルマ望遠鏡の次期観測に繋げています。

ひとつは電波偏光を捉える観測です。近年の理論研究によると、電波偏光度には強い波長依存性があり、またそれらは塵の大きさとよく対応するため、さまざまな波長で電波偏光を調べることで、塵の大きさに強い制限をつけれる可能性が示されています。したがって、電波偏光が観測できれば、今回の研究とは異なる手法で塵の大きさを調べることができます。もうひとつは、円盤のガス成分を捉える観測です。今回の研究では、円盤の塵の成分に着目しましたが、円盤成分のほとんどはガスで構成されており、形成される惑星の性質もガスの量に依存します。ガス成分の隙間構造を見出し、その構造を調べることで、より正確に惑星質量を見積もることが可能となります。

これらの観測もまもなく実行されますので、新しい結果がお目見えする日も近いでしょう。ご期待ください。

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今回の研究で得られた、うみへび座TW星の原始惑星系円盤と、形成中の惑星の想像図 [© 国立天文台]
参考文献

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この記事を書いた人

塚越崇
茨城大学理学部助教。総合研究大学院大学理工学研究科博士課程修了後、東京大学天文学教育研究センター研究員、茨城大学理学部研究員を経て、2014年より現職。電波望遠鏡による観測を主軸に、星や惑星の形成過程を明らかにするための研究を行なっています。