両生類の幼生は、どれほどの水温まで生息することができるのでしょうか? 本稿では、最近私たちがトカラ列島口之島にて確認した、温泉を利用するリュウキュウカジカガエルについて紹介します。

温泉に生息するオタマジャクシ

周囲の温度に影響を受けやすい外温動物にとって、外気温や水温は生息可能性を決める重要な要素のひとつです。両生類とて例外ではなく、特にオタマジャクシの生存には、水温が大きな影響をもっていることが知られています。また、オタマジャクシは極端に高いあるいは低い水温を避けることも報告されています。

一方で、僅かではありますが、オタマジャクシが温泉地帯の温かい水の中に生息していることも報告されています。そのなかでも有名な例が、台湾のリュウキュウカジカガエルで、 40度近くの温泉水中での生息が確認されています。また実験下では、40度以上の温水にも耐えられることが示されており、この優れた温度耐性が温泉中での生存を可能にしていると考えられています。

トカラ列島のリュウキュウカジカガエル

リュウキュウカジカガエルは、鹿児島県トカラ列島の口之島から台湾にかけての広域に分布しており、とくにトカラ列島に自然分布する唯一の両生類として知られています。

抱接中のリュウキュウカジカガエル。下がメス、上がオス。トカラ列島中之島にて撮影

我々は、本種がどのようにしてトカラ列島に分布を広げたのか、その過程に興味を持ち研究を進めているのですが、それと同時に、トカラ列島の小さな島々で本種がどのように生き延びてきたのかということにも興味を持っていました。トカラ列島の島はいずれも火山活動によって形成されたもので、面積は小さく、地形は急峻であることが多いです。そのため、リュウキュウカジカガエルの繁殖やオタマジャクシの生存に必須な、安定した淡水環境が発達しにくいと考えられます。そのような条件下で、なぜリュウキュウカジカガエルは個体群を維持することができたのでしょうか。これを明らかにできれば、本種だけがトカラ列島の小さな島々で生息できている理由も明らかになるかもしれません。そこで私たちは、リュウキュウカジカガエルの優れた温度耐性と、トカラ列島の各島に存在する温泉との関わりについて調べました。

トカラ列島は、屋久島と奄美大島の間に位置し、鹿児島県十島村に属しています。有人・無人あわせて12の島があり、そのうち5つの島にリュウキュウカジカガエルが自然分布しています。これらの島のうち少なくとも4つの有人島には 温泉があり、公衆浴場となっています。多くの島では露出した温泉を見つけることは難しいのですが、分布最北端の口之島にあるセランマ温泉では温水が小川のように流れており、容易に近づくことができます。そこで、トカラ列島におけるリュウキュウカジカガエル幼生の温泉利用の有無やその状況を確認すべく、2015年9月、我々は週2便のフェリーで口之島に上陸し、宿の軽トラを借りてセランマ温泉へと赴きました。

セランマ温泉でくつろぐオタマジャクシ?

セランマ温泉にも温泉施設が建っており、その裏手に温泉が流れる小川がありました。

調査地(セランマ温泉)。写真右上から左下に温泉が流れている

その小川は浅く、落ち葉や小石によってせき止められた水たまりが連続的に形成されていました。上流に向かって左側に源泉があるらしく、左岸側の水たまりは水温50度を超える高温でしたが、右岸側は水温が下がり、低いものでは35度前後でした。その35度前後の水たまりでは無数のオタマジャクシが泳いでいる姿を確認できました。このことから、リュウキュウカジカガエル幼生は口之島においても温泉を生息地として利用していることが明らかになりました。

セランマ温泉で発見されたリュウキュウカジカガエルの幼生

では、彼らは何度までの水温に生息しているのでしょうか。多くのオタマジャクシは、水底の落ち葉の下に姿を隠していたため、我々は落ち葉を一枚ずつめくり、オタマジャクシのいるポイントの水温計測を行いました。その結果、34.6度から46.1度までの間でオタマジャクシが確認されました。ただし、水温46.1度のポイントで見つかったのは1個体のみで、34.6度から37.2度の水温で最も高密度にオタマジャクシが見られました。

46.1度の水温では1個体しか見つからなかったため、この個体は偶然46度の水域に入り込み 、一時的に潜んでいた可能性があります。類似のケースとして、一時的に温度の高い水域に入り込み、すぐに出ていった例がアメリカのSpea bombifronsで報告されており、その水温が45度だったと記述されています。これが生きた両生類の幼生が発見された最高水温と考えられます。今回は46.1度の水中でオタマジャクシが観察されたため、その記録を更新することになりました。

また、今回の調査で複数の個体がまとまって観察された水温として最高の温度は41.5度でした。この観察結果は、口之島のリュウキュウカジカガエル幼生が能動的に41.5度の水域に生息している可能性を示しています。先述のSpea bombifronsの例を除けば、両生類の幼生が見つかった水域のこれまでの最高温度はイエローストーンのRana pretiosaで華氏106度(摂氏41.1度)だと思われます 。今回のリュウキュウカジカガエルのセランマ温泉における生息温度41.5度は、その記録を僅かに上回ります。

以上のことから、両生類の幼生はどれほどの水温まで生息できるのか?という問いの答えとしては、現在のところ41.5度、もしかすると46.1度まで、と言えるでしょう。

死と隣合わせの生息地

さらに我々は、口之島の民宿にて簡単な温度耐性実験を行いました。セランマ温泉で採集したオタマジャクシを水槽に入れ、ヒーターで加熱し、何度まで耐えられるかを調べるものです。その結果、およそ46度で正常な行動(姿勢を保つ、まっすぐ泳ぐなど)ができなくなるか、死んでしまうことが明らかになりました。加熱速度は先行研究を参考に0.16度/分を採用しました。この加熱速度は、自然界で生じる水温上昇よりも速いでしょうから、46度で死ぬという実験結果と、野外での温度耐性を直接リンクさせることはできません。しかし、口之島のリュウキュウカジカガエル幼生の温度耐性は極端に高いわけではなく、セランマ温泉における生息温度の41.5度は致死温度に近いことが示唆されています。

また、水温40度を超える水たまりは、水温50度以上の高温の水たまりの近傍にあったことから、オタマジャクシは空間的にもギリギリの水域まで進出していることがわかりました。いずれの水たまりも同一の小川の一部で、35度前後の水たまりにもつながっているにもかかわらず、一部のオタマジャクシが致死温度に近い高温の水たまりにまで生息していることには何らかの意義があるのでしょうか。それを明らかにすることは容易ではありませんが、温度の高い水中では、成長速度が早くなったり、外敵を避けられたりするメリットが指摘されています。

温泉が重要な繁殖場所だった?

今回の発見のなかでも、とくに我々が興味を持っているのは、両生類の生息温度の記録を更新したことよりも、口之島でオタマジャクシが温泉を利用していたことです。口之島をはじめトカラ列島の島々は小さく、淡水資源に乏しいはずです。一方、これらの島は火山島であり、温泉が各地で湧いています。そんなトカラ列島の島々で子孫を残し個体群を維持するうえで、リュウキュウカジカガエルの温泉を利用する特異な能力は大きく貢献していたかもしれません。

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この記事を書いた人

小巻翔平
小巻翔平
2015年、広島大学大学院理学研究科博士課程修了(両生類研究施設 住田研究室)。博士(理学)。同大学博士研究員を経て、2016年よりい わて東北メディカル・メガバンク機構生体情報解析部門特別研究員。