失われた光を求めて

遠い古代の生きものはどんな姿でどんな生活をしていたのか? これはおそらく誰しも興味をそそられるトピックスでしょう。科学雑誌や映画やアニメのなかでも、不思議な姿の生物にあふれるカンブリア紀の海や、白亜紀の恐竜たちが跋扈(ばっこ)する陸上の様子が、まるで見てきたかのような見事なカラーイラストで描かれているのをよく目にします。

しかし、過去の生物を直接知る手がかりは、化石記録しかありません。ですから、その生物の姿勢や動き、色や模様は、現生の生物から得られる知見に基づいて類推するしかありません。

いきなりですが、「祖先配列復元」という研究手法を知っていますか? 現生の生物が持っている遺伝子配列情報に基づいて過去の遺伝子配列を推定する方法で、これまでに、ヘモグロビンやホルモン受容体などの祖先配列復元が行われています。復元された遺伝子情報に基づいてタンパク質を実際に合成し、失われた過去のタンパク質の性質が調べられています。

私は、発光生物の研究を専門にしていますが、あるとき「ホタルのルシフェラーゼを祖先配列復元したらおもしろいかも」と、ふと思いついたのです。もう10年以上も前のことです。

ホタルの発光色の違いをもたらす「ルシフェラーゼ」

ホタルの発光色は種によってさまざまで、緑、黄緑、黄色、さらにはオレンジ色がかった黄色に光るホタルもいます。ホタルの発光反応は、ご存知のとおり酵素(ルシフェラーゼ)による基質(ルシフェリン)の酸化過程において生じるエネルギーの一部が光子として放出される現象です。

ホタルは、種に関わらずすべて同じ化学構造のルシフェリンを使っています。しかし、ルシフェラーゼのアミノ酸配列はホタルの種ごとに少しずつ異なります。そして、このアミノ酸配列の違いが、発光色の違いの原因となっています。つまり、ホタルのルシフェラーゼの祖先配列復元を行えば、原初のホタルの発光色を蘇らせることができるはずです。

幸い、ホタルのルシフェラーゼはリポーターアッセイなどのツールとして有用であるため、世界中のさまざまな種から遺伝子がクローニングされていました。情報がよく揃っていることは、より正確な祖先配列推定のためには重要です。さらに都合が良いことに、ホタルルシフェラーゼ遺伝子は大腸菌で発現させるだけで簡単に正しい酵素タンパク質を作製できます(実は、他の発光生物のルシフェラーゼではそうはいきません)。つまり、大腸菌に発現させたタンパク質にホタルルシフェリンを加えれば、それがそのままそのホタルの発光色になるのです。

ホタルの最初の祖先は、約1億年前の白亜紀に出現したことが、これまでの分子系統解析の研究でわかっていました。このことから私は、恐竜時代のホタルの光を再現できるぞ! と、ひとりで興奮していたわけです。

白亜紀のホタルの光を復元させる方法の概略
[ステップ1]現生ホタルのルシフェラーゼ遺伝子のアミノ酸配列情報に基づき、最尤法によって過去に存在したはずのアミノ酸配列を復元する。
[ステップ2]この配列情報に基づき人工遺伝子を合成し、大腸菌に発現させる。
[ステップ3]発現させたタンパク質を精製し、ホタルルシフェリンと反応させる(ホタルルシフェリンはすべてのホタルに共通)。

新たに生まれた研究のコラボレーション

ところが、実際に祖先ルシフェラーゼの配列復元をやってみると、いろいろ不備が見つかってきました。まず、すでにルシフェラーゼがクローニングされているホタルの種数は30種くらいありましたが、それらは分類学的にかなり偏っていることがわかりました。30種といっても、似たような種のホタルばかりだったのです。

分類群が偏っていると精度の高い祖先推定ができません。そこでまず、成虫になると発光しないマイナーなグループのホタルからルシフェラーゼ遺伝子をクローニングするところから始めました。具体的には、ムネクリイロボタルとカタモンミナミボタルとタテオビヒゲボタルを使いました。皆さんは聞いたこともない種だと思いますが、日本にはいろいろ変なホタルもいるのです。

次にぶつかった壁は、祖先配列の解析法です。原理を勉強して理解はしましたが、アルゴリズムが複雑で、自分でやってみても正しい解析ができたのかイマイチ自信が持てません。しかし、ここでミスすると先の実験がすべてパーですから、祖先配列復元に詳しい長浜バイオ大の白井剛教授を訪ねて共同研究を申し込みました。

同じことを思いつく人は必ずいるものです。その後、私と同じようにルシフェラーゼの祖先配列推定に興味を持って白井先生にアプローチした鹿児島大の加藤太一郎助教が共同研究に加わります。そして、これは素晴らしいコラボレーションになりました。白井先生はタンパク質のX線結晶解析の専門家でもあり、また加藤先生はルシフェラーゼの起こす副反応であるアシルCoA合成反応のエキスパートだったからです。

祖先配列復元で「最も尤もらしい」配列を探る

ここで、祖先配列復元の原理について少し説明しておきましょう。解析には、相同な遺伝子群の配列情報を使います。「相同な遺伝子」とは、祖先のどこかの時点に共通な起源を持つ遺伝子です。それが、進化の過程で突然変異と自然選択と種分化と、ときに遺伝子重複を繰り返しながら現生の生物種に至り、その結果、種によってバリエーションをもつ「相同な遺伝子」群が現在あるわけです。祖先配列復元では、この進化の歴史を巻き戻します。

具体的には、現生種が持っている遺伝子のアミノ酸配列を「観測された」データセットとして、既存のアミノ酸置換モデルと系統樹に基づいて最尤法で過去のアミノ酸配列の再現を行います。分子系統解析で最尤法を使ったことがある人もいるでしょう。実は、最尤法は、計算を行う際に系統樹の分岐点における配列を同時に推定しています。このようにして、我々は、1億年前の最初のホタル科の共通祖先が持っていたルシフェラーゼの「最も尤もらしい」配列情報にたどり着きました。

「最も尤もらしい」とはまたずいぶん乱暴だな、と思われたかもしれません。しかし、分子系統解析をやったことがある人ならば、最尤法が計算に一番時間がかかって、一番信頼されている解析法であることをご存じでしょう。あるいは、なお疑い深い人に対しては、哲学的に次のように言ってもいいかもしれません。いかなる自然科学における合理的な推論も、真理には到達することはなく、ただ蓋然性の高い仮説を選んでいるにすぎない、と。

それでも納得いかないようであれば、具体的な蓋然性の値を示しましょう。1億年前のホタルが持っていたルシフェラーゼ配列のうち最も尤度が高かった配列のアミノ酸座位あたりの平均信頼度(事後確率)は93.5%でした。この値がどうなのかについては、祖先配列復元としては「十分良い」とだけ言っておきます。我々が最大限知り得るのは、観測されたデータに基づく最大に尤もらしい状態なのです。

原初ホタルの光は「緑色」だった!

ともかく、推定された1億年前のルシフェラーゼ配列に基づき人工遺伝子を作製し、大腸菌にタンパク質を発現させました。これを精製してからいざルシフェリンを混ぜると……。光りました! 発光スペクトルを測定すると、ピークは548 nm。これは現在知られているホタルの発光色のなかでも最も短波長であり、現生種でいうとタテオビヒゲボタルやヤエヤママドボタルに近い緑色の光でした。発光活性(発光強度)も、現生のホタルのルシフェラーゼと同等レベルです。このことから、私たちは、1億年前に現れたホタル科の最初の祖先は緑色に光っていた、と結論づけました。

[A]ゲンジボタル。発光は黄緑色。
[B]ヒゲボタルの一種。成虫は発光しないが、幼虫は緑色に発光する。
[C]1億年前のミャンマー産琥珀から見つかった唯一のホタルの化石。すでにこの時代に完全な発光器(矢印)を持ったホタルがいたことは驚きである。写真はモスクワ昆虫センターのセルゲイ・カザンチェフ博士の好意により許可を得て転載。もちろん、この琥珀化石からルシフェラーゼの遺伝子を取り出すことは不可能である。
[D]試験管内で再現したホタルの光。左はゲンジボタルのルシフェラーゼ。右は1億年前の原初ホタルのルシフェラーゼ。原初ホタルの光の方がより短波長(緑色)の光であることがわかる。

実は、この結果は私を大変驚かせました。なぜならば、あまりにも私が想像していたとおりだったからです。原初のホタルは緑色に光るのが一番都合いいはずだと、最初から思っていたのです。その証拠というわけではありませんが、私が2016年に出版した本『恐竜はホタルを見たか』のなかに、「わたしの推理によると白亜紀の原始ホタルは緑色に光っていたはずである」と書いていました。

ではなぜ原初ホタルは緑色に光るのが都合よいのか、私の想像をできるだけ簡単に書いてみます。

なぜ緑色に光っていたのか?

まず、上述のとおり、ホタルの仲間には成虫になると発光しないものがいます。これらのホタルは昼行性で雌雄のコミュニケーションにはフェロモンを使っています。しかし、こうした「光らない」ホタルも、幼虫期には必ず発光するのです。つまり、ホタルにとって発光のデフォルトが、雌雄コミュニケーションのためではないことがわかります。

では、幼虫が光ることにどんな役割があるのでしょうか? これについては、定説があります。ホタルは必ず不味い味を持っていて、明らかに毒を持っているものも多く知られています。そのため、ホタルの幼虫が発光するのは、外敵に対して自分は不味いぞということをアピールする「警告」だと考えられています。おそらく成虫の発光も、もともとは警告のためであり、そこから二次的に光をコミュニケーションにも使う種が現れたのでしょう。

さて、ここから私の想像が入ります。敵に気づいてもらうには何色に光るのが一番効率的かというと、それが緑色なのです。私たちヒトも含めて多くの陸上生物は緑色が最もよく見える(スペクトル視覚感度が最も高い)視覚を持っているからです。だから、原初のホタルが緑色に光るのは合理的なのです。

実際、海産生物の多くは青色に発光し、キノコやムカデやトビムシやカタツムリなど陸上の発光生物の多くは緑色に光るという、発光生物の基本ルールがあります。ですから、たとえ私のこのシナリオが間違っていたとしても、原初のホタルが緑色に光ることには陸生発光生物全体に共通する何か理由があるに違いありません。

おわりに

地球上に現れた最初のホタルは緑色に光っていたのは、あまりに予想どおりでした。そのせいで、査読者の1人には「ぜんぶ考えていたとおりの結果だったのなら、何が新しい発見なの?」とチクリと言われてしまいました。

では、私たちの研究は何が新しくて重要だったのでしょうか? 私は、こう考えます。私たちは「色の失われた遠い過去のロストワールドをカラフルに蘇らせることが不可能ではないことを初めて示した」、と。

タイムマシーンで過去を目撃するのは私たち人類の果てなき夢です。私たちは、白亜紀のホタルの発光色という僅かな一場面にすぎませんが、それを達成できたのではないかと思っています。完全なタイムトラベルは人類には無理かもしれませんが、そのほんの一部でも再現する試みは、きっと他にも可能だと思うのです。

私たちのこの論文には、他にも白井先生の専門である祖先ルシフェラーゼの結晶構造に関する議論、加藤先生の専門であるルシフェラーゼが脂肪酸CoA合成酵素という別な機能の遺伝子から進化したことに関する議論も含んでいますが、ここでは私の専門であるホタルの発光色の進化に関する内容に限定して紹介しました。興味のある方は下記の参考文献からぜひ原著論文をご覧ください。

参考文献
・Oba Y, Konishi K, Yano D, Shibata H, Kato D, Shirai T. Resurrecting the ancient glow of the fireflies. Science Advances 6, eabc5705 (2020). DOI: https://doi.org/10.1126/sciadv.abc5705
・大場裕一『恐竜はホタルを見たか』(岩波科学ライブラリー、2016)

この記事を書いた人

大場 裕一
大場 裕一
1970年札幌生まれ。北海道大学理学部化学科卒。総合研究大学院大学博士後期課程修了。博士(理学)。名古屋大学大学院生命農学研究科助教を経て、現在は中部大学応用生物学部教授。発光キノコから深海発光魚まで発光生物のあらゆる科学に興味があり、これを「発光生物学」と呼んで実践している。著書に『ホタルの光は、なぞだらけ』(くもん出版)、『光る生きものはなぜ光る?』(文一総合出版)、『恐竜はホタルを見たか』(岩波書店)、『光るキノコと夜の森』(岩波書店)、監修に『光る生き物』(学研プラス)、『ホタルの不思議な世界』(エクスナレッジ)などがある。