地球を作ったマグマの正体は?

地球上でマグマが冷えて固化すると、岩石になります。海中の場合には、新しい島が形成されます。地球上には、地殻を構成する酸性の花崗岩や流紋岩から、マントルを構成する超塩基性のペリドタイトまで、多種多様の岩石が存在しています。このような岩石たちは、主に岩石に含まれる二酸化ケイ素の量で分類され、たとえば、ペリドタイトの部分溶融から玄武岩ができ、その分別結晶化作用で、安山岩や流紋岩ができると考えられます。それでは、最初の地球を作ったマグマはどのようなマグマだったのでしょうか。

巨大衝突時のマグマを再現したい

現在の惑星形成モデルによれば、惑星の原材料物質と考えられている始原的隕石「炭素質コンドライト」が衝突合体を繰り返し、しばらくした後に、現在の火星サイズほどの微惑星が衝突溶融し、そのマグマが冷却する過程でコアとマントルが分離され、地球型惑星が形成されたと考えられています。

巨大衝突時のマグマの発生モデル図(NASA ホームページから引用)
巨大衝突時のマグマの発生モデル図(NASA ホームページから引用)

今回、始原的隕石の主成分である鉱物「フォルステライト(組成はMg2SiO4)」を利用して、衝突時のマグマを再現を試みました。衝突時の極限高温高圧を実現させるべく、高強度レーザーを有する大阪大学レーザーエネルギー研究センターで共同研究の申請を行い、大阪大学大学院工学研究科のレーザー衝撃実験に詳しい兒玉研究室の協力を得て、実験を行いました。

約300万気圧で見せたマグマの異常な振る舞い

まず、フォルステライトの単結晶を微小片(2 mm x 2 mm x 0.05mm)に切断研磨し、その微小片と測定の標準物質になる石英小片に、レーザーパルス(レーザー強度:1012—1013 W/cm2程度)を照射します。このレーザーの照射により、数100万気圧の衝撃圧力が試料に加わることになります。瞬間的に強く圧縮すると、結晶が融解したり、気化したり、プラズマ化したりなど、さまざまな化学反応が起きます。今回、慣性で停止した時間内での超高速測定において、衝撃圧縮中の微小試料の圧力、密度、及び温度を決定することに成功しました。

図2
(上)実際のターゲットを測定する裏側から見た写真。アブレータ(A)の有機膜はアルミ箔の下で見えない。透明体のCとDはフォルステライトと基準となる石英。(下)ターゲットを横から見たレーザー照射時、速度と温度の測定中の概念図

一般的には、衝撃圧力が上がると温度も上がることが知られているのですが、今回の実験の結果、約300万気圧の衝撃圧力を与えると、温度が異常に上下することが確認されました。フォルステライト結晶は約200万気圧くらいでマグマになり、衝突が激しくなると気化やプラズマ化が起きると思われていたため、今回の結果は、フォルステライトマグマに何か未知の現象が起きていると考えられます。私たちは、この異常な温度変化を密度変化などとともに熱力学的に詳細に検討した結果、ファルステライトマグマ中で化学反応が起きていることを突き止めました。

図3
マグマの温度と圧力が変化した時のマグマ中の反応と温度の急激な変化に対応する反応

具体的には、フォルステライトマグマ中に結晶の晶出を想定し、どのような結晶がどれだけ晶出するかということを、測定した温度変化をもとに計算しました。その結果、高融点の酸化マグネシウム結晶が全体の約1/3〜1/4だけ晶出すると考えると、今回の実験結果が上手く説明できることががわかりました。すなわち、結晶晶出による発熱反応によって、急激に温度が上昇していると考えられるのです。また、温度の異常な低下については、晶出した酸化マグネシウムの構造変化に伴う吸熱反応に対応することも明らかになりました。これらの反応時には、密度変化はほとんどなかったのですが、400万気圧位まで圧力を上げると、急激な密度増が観測されました。これは、ファルステライトマグマ中の酸化マグネシウム成分の液体中での構造変化に対応すると考えられます。

地球型惑星形成時のマグマの挙動を予測する

このような実験結果に基づき、地球型惑星形成時のマグマの詳細な挙動を再現実験で明らかにしました。このようなことが起きる衝突条件を見積もると、フォルステライトを主成分とする隕石の正面衝突で300万気圧は毎秒13 km/sで、400万気圧は毎秒17km/sに相当します。このような衝突速度は、地球の脱出速度(11km/s)に比べて速いのですが、惑星科学的には普遍的に起きる速度の範囲内です。実験で模擬した温度圧力は、最近続々と発見されている系外惑星のスーパーアース(地球の10倍程度までの地球型惑星)の内部で実現されることになれば、そのマントル内部のダイナミクスに影響します。特に、金属鉄に富むコアの形成時に酸化マグメシウムが取り込みやすいと初期のコアには酸化マグメシウム成分が多かったことになり、このことが初期ダイナモの起動の要因にもなったかもしれません。現在の地球コア中に存在している軽元素の種類や量の見積もりにも影響が出ます。また、まだ明らかにされていませんが、始原隕石のもう一つの代表的成分であるエンスタタイトに関しても類似の衝突条件で同様なことが起きると考えられます。

今後、さらなる研究が必要ではありますが、本実験結果が示すフォルステライトマグマからの極限環境下での部分結晶化という挙動は、今後の惑星形成過程を考える上で、重要な役割を担うことが予想されます。今後は、考えられる他成分の影響や効果を調べながら、衝突時に発生するマグマの冷却過程や冷却過程での元素の分配、軽元素の役割などを検討することで、コアとマントルの分離過程や進化過程を実験惑星科学的に明らかにしていきます。新しい高圧技術としてのレーザー高圧実験で、従来は不可能であった実験惑星科学が、今後進展することを期待します。

この記事を書いた人

関根 利守
広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻特任教授。学生の頃、日本の火山の噴火とマグマの物理状態を関係付けるために、実験室で噴火直前のマグマ溜まりでのマグマ状態を作りました。その後、そのマグマの源を理解すべく、地下深部に興味が移りました。その際に出会ったのが、極限状態を作るのが衝撃波で、原理的には制限圧力はなく、現在の技術ではレーザーを使うことでプラズマにすることができることです。惑星科学的には巨大衝突に相当する状態です。一方、巨大惑星の内部状態も極限状態ですが、温度分布は断熱的変化と考えられるので、温度は相対的に低くなり固体の極限状態に対応します。このような極限状態を含めて、生命起源物質の生成など衝撃波の効果に広い関心を持っています。