グリーンランド氷床の融解と微生物

グリーンランド氷床は、南極氷床に次いで世界で二番目に大きい氷の塊です。近年、この氷床は融解による氷の減少が顕著になり、海水面の上昇などに影響を与えることが危惧されています。この原因のひとつとして、氷床表面が黒っぽくなり、太陽光の反射率が低下することで引き起こされる表面融解が挙げられています。氷床表面のこの暗色化には、氷床外から飛ばされてくるススや鉱物なども影響しているのですが、それ以上に、赤茶色の色素を持った微生物や、「クリオコナイト粒」と呼ばれる黒い塊の増加が関係しています。

クリオコナイト粒とは

クリオコナイト粒(cryoconite granules)とは、氷河上に生息する好冷性の微生物と細かい鉱物が集まったできた直径1mmほどの小さな粒です。

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クリオコナイト粒

主にユレモ科に属する糸状性のシアノバクテリアが毛糸玉のように絡まり合って骨格ができ、これらが粘着性の物質を作り、その中に他の微生物や鉱物を取り込んでいます。クリオコナイト粒は、微生物の分解によって作られる腐食物質で黒っぽい色をしているため、氷河上で増えると太陽光の吸収が高まり、氷河の融解を促進します。

図2

 

鉱物粒子がクリオコナイト粒を増やす?

クリオコナイト粒は、色素を持つ微生物よりも効率良く氷河を融かすことがわかってきています。暗色化を理解するためには、粒を構成する微生物の種類などを調べることで、増加を促進する要因を明らかにする必要があるのですが、これまで明らかにされていませんでした。

今回私たちは、衛星写真から暗色化の進行が確認されているグリーンランド北西部にあるカナック氷河を訪問し、クリオコナイト粒を採取して、顕微鏡観察、DNA分析、栄養塩の分析などさまざまな分析手法を複合的に取り入れて、その生態に迫りました。

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今回分析を行った5地点

氷河上の標高の異なる5地点で分析をしたところ、氷河の中流域(上図のQA4)でクリオコナイト粒が顕著に発達し、粒の骨格をつくる糸状のシアノバクテリアの量も特に多くなっていました。

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各地点におけるクリオコナイト量の比較

クリオコナイト粒の増加に関連すると考えられる標高や傾斜、氷中の栄養塩濃度、鉱物の量や組成などの環境要因のうち、鉱物の量だけが、シアノバクテリアの分布とよく関連していました。このことから、鉱物の供給が特に多い場所でシアノバクテリアがよく増殖し、粒が形成されやすくなっていることが明らかとなりました。

クリオコナイト粒は多様な微生物の集合体

クリオコナイト粒に生息するバクテリアの16SリボソームRNA遺伝子を分析したところ、粒を構成する糸状のシアノバクテリアの大部分が、南極湖沼からも報告されているPhormidesmis priestleyiの1種類のみであることがわかりました。また、P. priestleyiの増殖で粒の直径が大きく(250μm以上)なると、その他の微生物の種構成が急激に変化し、種の多様性や生物量が大きくなることも明らかとなりました。

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粒の粒径が大きく(250μm)なると、微生物の種構成が急激に変化する

グリーンランド全域で起きている表面融解現象を包括的に理解したい

今年発表された海外の研究者のクリオコナイト粒の培養実験の結果、クリオコナイト粒内の物質循環は、シアノバクテリアによる光合成が起こらないと、ほとんどストップしてしまうことが示されました(Musilova et al.2016)。このことは本研究サイトにおいて、たった1種類の糸状性シアノバクテリアPhormidesmis priestleyiの増殖が氷河上の微生物生態系をコントロールしていることを意味しており、その結果として、氷河の融解を促進させていることになります。

現在私たちは、カナック氷河のPhormidesmis priestleyiの単離培養に成功し、光合成活性、栄養塩の要求性や凍結、乾燥耐性など様々な生理活性を測定しているところです。現地の鉱物を添加した培養実験では、鉱物を加えたサンプルの増殖が顕著に促進されていることから、本研究で示されたシアノバクテリアの増殖と鉱物粒子の関係性が支持されています。今後は、鉱物粒子の何がシアノバクテリアにとって重要であるかを突き詰めていく予定です。

クリオコナイト粒による氷河の暗色化はグリーンランド全域で起きている現象です。研究グループは、本研究及び派生した研究から得られた知見をもとに、グリーンランド全域で起きている表面融解現象を包括的に理解していきたいと考えています。

引用文献
Musilova M, Tranter M, Bamber JL, Takeuchi N, Anesio AM. 2016. Experimental evidence that microbial activity lowers the albedo of glaciers. Geochemical Perspect. Lett, 2, 106-116

著書紹介
雪と氷の世界を旅して:氷河の微生物から環境変動を探る

この記事を書いた人

植竹淳
植竹淳

国立極地研究所、国際北極研究センターで特任研究員として勤務しております。南極、北極及び世界各地の高山をフィールドに、氷河に生息する微生物たちとそれらが引きを越す環境への影響などをメインの研究テーマとしています。最近、熱帯から極域まで様々な地域を旅して、見つけてきた微生物に関するエピソードを著書にまとめました。