食事のタイミングはアレルギーに影響するか?

花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎、じんましんなどのアレルギー疾患の治療においては、「普段の生活スタイルを見直して症状を良くする」という考え方はほとんどありませんでした。ましてや「食事摂取のタイミング」がアレルギー症状に影響するとは、これまで誰も想像していませんでした。

今回私たちは、食事摂取のタイミングがアレルギー反応の強さに影響することを、マウスを用いた実験で明らかにしました。活動期(夜行性マウスでは夜間)にだけ食事を摂取させる環境で飼育したマウスでは、じんましんのモデル反応であるPCA反応を起こすと、休息期(夜行性マウスでは日中)に強く、活動期に弱い反応を示します。しかし、休息期にだけ食事を摂取させる環境で飼育したマウスでは、休息期も活動期も同程度の強い反応がみられました。この結果から、「食事摂取のタイミング」がアレルギー症状に影響することがわかりました。

したがって、アレルギー患者を適切に診療し症状をコントロールするためには、食事摂取のタイミング(食事の時間や夜食の有無など)を念頭に置く必要があることが示唆されました。薬を増やさなくても、食事の時間を整えるだけで、ひどかった花粉症の症状を改善できるかもしれません。

この成果は日常生活(食事)への介入でアレルギー疾患を予防・治療するという新しい戦略を提唱するとともに、食事の思いがけない側面(アレルギー反応への影響)も提示しました。

「体内時計」がアレルギー物質への感受性を制御する

古くから、アレルギー疾患はある特定の時間帯に症状が出現しやすいという特徴があることが知られています。たとえば花粉症では、朝方にくしゃみ、鼻水などがおこりやすく、「モーニングアタック」と呼ばれています。喘息発作は深夜に頻発し、アトピー性皮膚炎やじんましんのかゆみや発疹は夜間に悪化しやすくなります。

大きな傾向として、アレルギー疾患は活動的な時間(昼間)は症状が軽めで、休息の時間(夜間~明け方)に悪化しがちです。しかし、たとえば、花粉は日中に飛散するもので、モーニングアタックを説明できません。では、時間帯によって症状に変化があるのはなぜでしょうか?

私たちは以前の研究で、生理活動の24時間性のリズム(睡眠や覚醒、ホルモン分泌など)を司る「体内時計1」が、このようなアレルギー症状の時間による変動に関係していることを発見しました。体内時計とは、私たちの体の中のほぼすべての細胞に存在し、個々の細胞活動を1日の時間に応じて最適化するしくみです。一方、アレルギー反応の大部分はマスト細胞と呼ばれる免疫細胞が、スギなどのアレルギー物質(アレルゲン)に反応してヒスタミンなどのくしゃみや鼻水、咳、じんましんなどを誘発する化学物質を放出することによって起こります。

私たちは、マスト細胞の中ではたらいている時計が、アレルゲンに対する感受性(IgE受容体を介したシグナル伝達分子の発現レベル)を、活動期は休息期に比べて抑制していることを見つけました。そのため、休息期にアレルゲンに曝露されるとマスト細胞が放出するヒスタミン量が活動期より高くなり、くしゃみや鼻水、咳、じんましんなどの反応も休息期(ヒトでは夜間、夜行性のマウスでは日中)に強くなると考えられました。

不規則な食事のタイミングはアレルギー症状を強くする

体内時計は、不眠やストレス、運動、食事の時間によって影響を受けることが知られています。たとえば、夜食など不規則な時間帯での食事摂取は体内時計のリズムを乱し肥満などを誘発させやすいことがわかっています。

アレルギー反応と体内時計との密接な関係から、私たちは、不規則な食事のタイミングは、肥満だけでなくアレルギーにも影響するのではないか、と考えました。そこで、この仮説を確かめるために、マウスを以下の3群に分けて実験を行ないました。

1) 餌を24時間自由に与える(マウスは夜行性なので主に夜間に餌を摂取する)。
2) 餌を活動期(夜行性マウスでは夜間)の4時間だけ与える。
3) 餌を休息期(夜行性マウスでは日中)の4時間だけ与える。

これらの食事条件でマウスを2週間飼育したあと、ヒトにおけるじんましん反応のモデル(PCA反応)を、それぞれの群で、日中(午前10時:マウスの休息期)と夜間(午後10時:マウスの活動期)に起こしてみました。なお、マウスが摂取した餌の量は3群間でほとんど変わらず体重変化も3群間でほぼ同じでした。

PCA反応の強さは、1) と2) の群では、休息期に強く活動期に弱い反応を示しました。これは以前に私たちが見出した結果と同じです。一方、興味深いことに3) の群では、休息期も活動期も強い反応が見られました。また、マスト細胞の体内時計のリズムを調べると、3) の群では1) 2) の群が示す本来見られる(正常な)リズムとは異なるリズムが刻まれていました。

休息期だけ食事を摂取する環境で飼育されたマウスではアレルギー反応が常に強くなる。上の写真は
1) 餌を24時間自由に与える(マウスは夜行性なので主に夜間に餌を摂取する)(AD)
2) 餌を活動期(夜行性マウスでは夜間)の4時間だけ与える(EN)
3) 餌を休息期(夜行性マウスでは日中)の4時間だけ与える(ED)
の3群のマウスのPCA(Passive Cutaneous Anaphylactic)反応を比較したもの。PCA反応とは、マスト細胞が活性化しアレルギー反応が強いかどうかを表す反応。写真の青い斑点がPCA反応の強さを示し、斑点がはっきりと大きいほどマスト細胞が活性化していることになる(白い斑点は、反応を定量化するために強調したもの)。1) 2) のマウス(写真上)では、PCA反応を行う時間によって青い斑点の大きさが変化していることがわかる(各時間帯にPCA反応を行ったマウスが5匹ずついる)。午前10時は斑点が大きく、マスト細胞が活発でアレルギー反応が強いことを示す。一方、午後10時では斑点は小さくなり、マスト細胞がおとなしくなりアレルギー反応が弱くなっていることを示す。しかしながら3) のマウスでは、午前10時も午後10時も同程度にアレルギー反応が強くなっていた。

これらの結果から、不規則な食事のタイミングは、体内時計のリズムを変えてしまい、その結果、規則的な食事のタイミングをしているときとはアレルギー反応の出方を変えることがわかりました。具体的には、本来アレルギー症状が出にくい活動期でも、症状が強くなりました。

アレルギー診療のさらなる進歩へ向けて

本結果から、食事摂取のタイミングはアレルギー反応の強さや出やすい時間帯を変化させる因子のひとつであることが明らかになりました。これは、従来のアレルギー診療においてはまったく考慮されていなかったことです。

したがって、花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎やじんましんなどのアレルギー患者を適切に診療し症状をコントロールするためには、食事摂取のタイミング(食事の時間や夜食の有無など)を念頭に置く必要があることが示唆されました。夜食などの不規則な食事習慣を変えるだけで、ひどかった花粉症の症状を良くすることができるかもしれません。

イラストレーション:山梨大学アドミッションセンター 鈴木律子

本研究成果は「食事摂取のタイミング」という患者の日常生活に介入することで、アレルギー症状の改善や治療薬の減量、発作の予防を目指すという、アレルギー診療における新しいアイデアを提示します。また、何時に食事を取るかということがアレルギー反応に影響するという「食事」の想定外の機能も提示しました。

私たちは、食事のタイミングを見直すだけでアレルギー症状が緩和できる患者が全体の2割程度はいるのではないかと臨床的な経験から推測しています。現在、患者さんの日常生活情報を臨床に活かす試みは、“Apple Watch”に代表される健康デバイスやビッグデータと相性が良く、将来発展が期待される医療分野のひとつです。私たちは、自治体や企業と協力して、食事のタイミングとアレルギー(花粉症など)症状との関係を、スマフォアプリなどを用いて解析する研究を計画中です。今後このような研究を更に進めることでアレルギー診療の新しい大きな進歩が期待されます。

参考文献
Nakamura Y, Ishimaru K, Nakao A.”Time-restricted feeding in rest phase alters IgE/mast cell-mediated allergic reaction in mice.” Allergology International. 2019 Oct 14. pii: S1323-8930(19)30160-1. https://doi.org/10.1016/j.alit.2019.09.004

補足
1. 体内時計:体内時計は、約40兆個あるといわれている人体の細胞のほぼすべてに存在し、「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子の働きによって細胞内で時を刻んでいます。たとえば小腸の細胞は、毎朝決まった時間に朝ごはんを食べれば、その時間に合わせて消化酵素を作ろうとします。このように、体内の細胞はその働きに見合ったそれぞれのタイムスケジュールを持っていて、時計遺伝子が正常に働いて正しい時間を刻むことで各々の細胞活動を最適化しています。睡眠障害や夜食などの不規則な食習慣は、体内時計のリズムを乱し、適切なタイミングで細胞活動が行なわれなくなるため、個体レベルで健康が損なわれること(メタボや癌など)が知られています。

この記事を書いた人

中尾 篤人
中尾 篤人
1989年千葉大学医学部卒業、内科研修後(斉藤康教授)、スウェーデンウプサラ大学ルードウィック癌研究所(Prof.Carl-Henrik Heldin, Dr. Peter ten Dijke,1995-97年)でTGF-βシグナル(Smad)の研究。帰国後、順天堂大学医学部アトピー疾患研究センター講師(奥村康教授)を経て2003年山梨大学医学部免疫学講座教授・順天堂大学医学部客員教授。2017年から山梨大学医学部長(兼任)。趣味は草野球、温泉巡り、ワイン。