生物の研究者なら顕微鏡や電動ピペット、数学の研究者なら紙とペン……? どの分野にも、研究者にとっての必須アイテムがあるはずです。本連載ではさまざまな分野で活躍されている研究者の方々に、ご自身の研究に必須となるアイテムをあげていただきます。

今回は、acadmistのプロジェクト「肺移植後の慢性拒絶反応をなくしたい!」に挑戦中の中桐伴行研究員が選ぶ研究必須アイテムをご紹介します!

1. 顕微鏡

実体顕微鏡が無いとこの研究(手術)は出来ません。マウスの肺移植をするということは、マウスの血管や気管支をつながなくてはならないのですが、このマウスの血管は特に肺動脈が細く、太さも1mmもありません。これが無いとお手上げです。実は最初にマウスの肺移植をしようと思ったときは、眼鏡につける拡大鏡でしようと思ったのですが、自分の頭が動くだけでピントが合わなくなるうえに、視野がずれてしまい、使い物になりませんでした。これは必需品です。

顕微鏡

2. 手術器械

動物実験は、わざわざ新しい手術道具を買うのはもったいないので、臨床の手術で使わなくなった道具のお古を転用することが多いのですが、マウスの肺移植は細かすぎてそれが出来ませんでした。全部、新しく購入しています。中でもピンセットとクリップは特別です。ほとんどピンセットだけで手術していくので、このピンセットは無いとお手上げです。先が鋭くない、かつ細かい作業が出来るものを選んでいます。このピンセットだけで1本5万円ぐらいします! ラットの肺移植の教科書を書いている阪大の川村先生曰く、「コツンと先を当てたら、もう使い物にならないですからね」と。ホントにそうで、これが手術台から落ちたりしたときには、もう慌てふためきます。それとクリップ。写真を見ればその大きさが分かると思いますが、その他にも挟む力加減や、太さ、形などをいろいろ試してやっとこれに落ち着きました。これも1つ5万円ぐらいします。

手術道具

3. 人工呼吸器・麻酔器

胸を開ける手術をするので、人工呼吸器は欠かせません。人間の手術と同じように気管挿管(口から喉にチューブを入れること)をして、全身麻酔でします。お腹の手術や、四肢の手術なら全身麻酔だけでも出来るのですが、胸を開けると、開いている間は当たり前ですが呼吸が出来なくなる。そこで人工呼吸器が必要になります。そして麻酔。長時間の手術(1~2時間)の場合、ヒトで言う静脈麻酔だけでは手術が難しいのです。これは静脈麻酔によるマウスの手術の場合、点滴を入れているわけではないので、最初に皮下に麻酔薬を入れて、それが利いている間に手術をするのが一般的だからです。2時間以上になる手術の場合、麻酔薬の量が多すぎて麻酔によって死亡する可能性があること、また、つぎ足しながら手術というのも、手術が終わりかけているときに麻酔をしてしまうといつまでたっても起きないなんてことがありえますし、手術に集中しているときに時間が過ぎてしまうと途中で起きてしまうこともあり得ます。胸の手術でなければ、しばらくすれば起きてくるだろうでも構わないのですが、肺移植後の場合、起きてくるまで人工呼吸器をいつまでもつけておかなければならなくなります。そこで、ヒトでも用いているような吸入麻酔をする必要があるのです。しかしこの麻酔も、麻酔をあまりにも深くしすぎるとマウスは死んでしまいますし、浅いと起きてしまいます。手術をしながら心臓の動きに注意し、麻酔のコントロールをしつつ手術をしています。

麻酔器

この記事を書いた人

中桐伴行
Hannover医科大学胸部心臓血管移植外科研究員/大阪大学呼吸器外科招聘教員/大阪府立成人病センター病院特別研究員/1998年近畿大学医学部卒業。大阪大学旧第一外科・小児外科にて研修を行い、大阪府立母子医療センター、宝塚市立病院、呉医療センターなどで勤務。2005年~2014年まで大阪大学呼吸器外科で勤務。2006年から約1年間、Hannover医科大学に留学し、肺移植に触れる。以後、研究は肺移植を中心に従事。2014年、大阪府立成人病センター呼吸器外科副部長。2015年7月より現職。