星の光を瞬かせるものとは?

地上から見上げる夜空の星々は、きらきらと瞬いて見えます。これは小刻みに変化する地球の大気の揺らぎが、星の光を屈折させることで起こす明るさの変化に起因します。一方、星の光が地球に届くまでの数光年から数千光年にわたる長い旅路のなかで、星の光を瞬かせるものは地球の大気だけではありません。

きわめて稀ではありますが、太陽系の果て、地球からおよそ45億kmから70億km離れた「エッジワース・カイパーベルト(Edgeworth-Kuiper belt)」(以下、カイパーベルト)とよばれる領域を漂う、暗くて小さな「カイパーベルト天体」によって、1秒未満という非常に短い時間だけ、恒星の光が遮られる天文現象が発生すると予見されていたのです。

我々の研究グループは、この「掩蔽(えんぺい)」とよばれる天文現象を観測することで、いまだ謎の多い太陽系の果ての解明に挑戦しました。

本研究で利用した天文現象「掩蔽(えんぺい)」の仕組み
恒星の手前を通り過ぎる瞬間を観測することで、手前を移動するカイパーベルト天体を発見できる。

太陽系の果てに残された謎

地球を含む太陽系の惑星は、太陽系誕生時に大量に存在した半径1km~10km程度のサイズ(以下、キロメートルサイズ)の小天体「微惑星」が、衝突・合体を繰り返して現在の大きさまで成長したと考えられています。

こうした微惑星の一部は惑星の成長過程から取り残され、太陽系の誕生から約46億年経過した現在においても、海王星(地球からの距離およそ45億km)より遠方のカイパーベルトに生き残っていると予見されてきました。太陽系の遠方からしばしばやってくる彗星は、こうしたカイパーベルトなどに大量に存在する、キロメートルサイズの微惑星の生き残りが供給源であると見込まれています。

過去30年にわたる「すばる望遠鏡」や「ハッブル宇宙望遠鏡」といった最先端の望遠鏡の活躍により、これまでに2000個を超えるカイパーベルト天体が発見されています。また近年では、アメリカの惑星探査機「ニューホライズンズ」によって、いくつかのカイパーベルト天体への接近観測が実現しました。

しかし、現在に至るまでキロメートルサイズのカイパーベルト天体の発見例はありませんでした。これまで直接観測・発見されていたカイパーベルト天体は、いずれも半径10km以上と推定される天体だけです。最先端の望遠鏡をもってしても、極めて遠方にある小さく暗い、キロメートルサイズのカイパーベルト天体を検出することは不可能だったのです。

今回発見されたカイパーベルト天体(半径およそ1.3km)の想像図と、有名なカイパーベルト天体(冥王星、2014 MU69)との大きさの比較

カイパーベルト天体の影を小望遠鏡でとらえる

我々の研究グループは、最先端の望遠鏡を用いても直接観測するのが不可能なキロメートルサイズのカイパーベルト天体を、天文現象の「掩蔽」を利用して発見することに挑みました。

天球上を移動しているカイパーベルト天体はときおり背景の恒星の手前を通過して、0.5秒間もしくはより短い時間だけ掩蔽を起こし、文字どおり恒星を”瞬かせ”ます。よって、恒星を動画で撮影し続け、ときおり発生する掩蔽による恒星の明るさの変化をモニタ観測すれば、直接観測できない小さなカイパーベルト天体を発見できるのです。

こうした掩蔽観測を実現するため、我々の研究グループは「Organized Autotelescopes for Serendipitous Event Survey (OASES)」プロジェクトを立ち上げ、専用の観測システムを2台開発しました。極めて限られた予算枠で開発を実現するため、この観測システムは開発コストのかからない既製品の小型光学系とCMOSビデオカメラによって構成されています。コストカットの結果、本観測システムは競合する国際プロジェクトと比較しておよそ300分の1という破格の開発費(総額約350万円)で開発に成功しました。

本研究で開発したOASES観測システム
同じ構成の観測システムを計2台開発し、沖縄県宮古島市にて観測を行った

掩蔽モニタ観測において観測装置と同じくらい重要なのは、観測を行う領域と観測場所です。我々はできるだけ高い効率で掩蔽を発見するために、一度に観測できる恒星の数が多い天の川に近く、かつカイパーベルト天体の数が多い黄道(地球から見た天球上の太陽の通り道、カイパーベルト天体を含め多くの太陽系天体は黄道の近くを運行している)近くにある南天の一領域、いて座の方向をモニタ観測領域に選定しました。

この南天の領域を高い高度で長時間観測するために、観測地として低緯度に位置する沖縄県宮古島市を選定しました。我々は2台の観測システムを宮古島市にある「沖縄県立宮古青少年の家」施設屋上に設置し、2016年および2017年夏季に星空の動画モニタ観測を実行しました。

キロメートルサイズのカイパーベルト天体による掩蔽を史上初めて発見

約2年間にわたって断続的に実施したモニタ観測では、約2000個の恒星に対する動画観測データを約60時間分取得することに成功しました。

得られた動画データを解析した結果、視野内のとあるひとつの恒星が、2016年6月28日21時56分(日本時)に約0.2秒間だけ最大約80%減光しているのを発見しました。この明るさの変化は2台の観測システムで同時に観測されているため、雲による遮蔽や大気のゆらぎなどの影響では説明できません。詳細な解析の結果、この恒星の”瞬き”は地球から約50億km離れた半径およそ1.3kmのカイパーベルト天体による掩蔽によって説明できることがわかりました。

(a) 掩蔽された瞬間の恒星の画像(動画データから切り抜き)
(b) 掩蔽時の恒星の明るさの変化のグラフ
2台の観測システムで観測された恒星の明るさをそれぞれ誤差棒つきの青点および赤点で示している。実線はカイパーベルト天体による掩蔽光度変化シミュレーション結果の最適解。

今回の発見によって、キロメートルサイズの天体がカイパーベルトにどれくらいの数存在するか、初めて観測的に明らかになりました。キロメートルサイズの天体は、これまでの直接観測によって把握できていた大きな(半径10km以上)天体のサイズ分布から予想される値と比べて、およそ100倍多く存在していることが判明しました。

これは、太陽系誕生時にキロメートルサイズまで成長した微惑星が惑星の材料となり、その一部が約46億年経過した現在においてもカイパーベルトに大量に存在しているという理論予想と一致した結果です。

さらに今回の発見により、キロメートルサイズのカイパーベルト天体が彗星の供給源のひとつとして十分な数あることが初めて確認されました。これはカイパーベルト天体が彗星の供給源のひとつであることを示唆する初めての観測結果です。

本研究によって史上初めて発見された、半径約1.3kmのカイパーベルト天体の想像図

カイパーベルト、そしてさらにその先へ

本研究は現代の観測天文学分野においては異例の小規模かつ超低予算なプロジェクトながら、アイデアを駆使して新しい手法の観測に挑戦し、太陽系の果てにある小さな天体の発見に史上初めて成功しました。

今後も掩蔽を用いた観測を続けることで、これまで未開の世界であったサイズの小さいカイパーベルト天体の特性がより詳細に明らかになり、惑星の形成プロセスや彗星の供給過程が解明されることが予想されます。さらに、カイパーベルトの先に存在すると仮定されていながら観測する手段のまったくなかった太陽系の最果て、「オールトの雲」の天体を、掩蔽を通して史上初めて発見することが期待されます。

「太陽系はどこまで広がっていて、その果てには何があるのか?」 私たちはこの究極的な問いに答える術(すべ)を獲得し、太陽系の果てに隠されてきた事実を暴き出しはじめたのです。

参考文献

  • K. Arimatsu et al., “Organized Autotelescopes for Serendipitous Event Survey (OASES): design and performance” Publ. Astron. Soc. Jpn 69, 68A (2017)
  • K. Arimatsu et al., “A kilometre-sized Kuiper belt object discovered by stellar occultation using amateur telescopes” Nature Astronomy, 3, 301-306 (2019)
  • この記事を書いた人

    有松 亘
    有松 亘
    1987年12月生まれの天文家。京都大学付属天文台研究員。博士(理学)。専門は太陽系天文学。2015年にOASESプロジェクトを立ち上げる。プロジェクトでは観測装置の開発、観測、データ解析だけでなく、アウトリーチ活動やプレスリリースで用いた想像図の作成を担当。将来の夢はアイスクリーム屋さん。
    OASESプロジェクトtwitterアカウントはこちら