両生類は手足を切られても再生できる!

生物は事故や病気によって自分の体が傷つくリスクを常に背負いながら生きています。我々ヒトももちろん例外ではありません。ヒトの場合は、すり傷や切り傷など皮膚の浅い傷ならば治癒して元通りにすることができます。しかし、手足(四肢)を切断するような大けがの場合は元通りに再生することはできません。ところが我々と同じ四肢を持つ脊椎動物でありながら、そのような再生を行える動物たちがいます。それが両生類です。

イモリやサンショウウオのような尾を持つ両生類(有尾両生類)は大人になっても高い再生能力を持ち、四肢や尾を切断されても元通りに再生できます。これら両生類が四肢を切断されると、再生芽という細胞集団が切断面に作られ、再生芽が四肢を形成することによって失われた構造を再生します。

これに対して、カエル(無尾両生類)の場合はオタマジャクシ(幼生)の時期にはイモリと同様に四肢を切断されても再生できます。しかしオタマジャクシからカエルになるプロセス(変態)が完了すると完全な四肢は再生できなくなります。たとえば研究で良く使われるアフリカツメガエル(学名はXenopus laevis、以下ツメガエルと呼びます。)の場合は、変態後に四肢を切断されると、いったん再生芽を形成するものの一本の棒のような軟骨構造しか再生できません。

人体最大の器官—皮膚—に注目

ところで、両生類の場合は四肢や尾を丸ごと再生できる高い再生能力が注目を集めるため、皮膚だけが傷ついた後の再生能力はこれまであまり研究されてきませんでした。皮膚は大きく分けて表層の表皮と深層の真皮の2つの層から構成され、この基本構造は両生類も我々哺乳類も共通です。哺乳類の場合は、真皮に達するような深い傷を負うと真皮を再生できず、瘢痕という硬い構造を作って傷口を埋めます。しかし瘢痕は弾力を欠くうえに見た目のうえでも傷あととして残ってしまうため、機能のうえでも美容のうえでもさまざまなトラブルの原因になります。また哺乳類では毛(毛包)や分泌腺のような皮膚構造も再生できません。

皮膚はヒトでは体重の16%もの重量を占めることから人体最大の器官(臓器)と呼ばれることがあります。さらに体表面のすべてを覆うことから、生活の中で傷を負うリスクが最も高い器官とも言えます。私たちは数年前からこの皮膚に着目し、両生類(ツメガエル)における皮膚の再生能力を、真皮を含めた皮膚全体を四角く切除することで調べてみました。その結果、変態後であってもツメガエルの皮膚は瘢痕を残さずにほぼ完全に再生できること、そして皮膚再生の過程で傷口に集積する細胞では四肢の再生の過程で生じる再生芽細胞と共通した遺伝子(prx1, prrx1とも言う)が働くことを2011年に発見しました。

モデル生物、アフリカツメガエルを用いる利点

ところでツメガエルのように研究で汎用される生物のことをモデル生物と呼びます。イモリやサンショウウオではなく、ツメガエルを研究に用いることにはいくつかの利点があります。まずツメガエルはホルモン注射によって1年中卵を産ませることができ、丈夫で飼育しやすいという利点があります。さらにイモリやサンショウウオではゲノム解読が行われていないのに対して、ツメガエルでは2016年に全ゲノムが解読されています。またツメガエルでは、近交を繰り返すことによって樹立された純系の系統(J系統)が存在し、この系統の個体ではMHC(Major Histocompatibility Complex、主要組織適合性複合体)が完全に同一になっています。そのため、J系統の個体間で移植を行っても免疫拒絶は起こりません。またツメガエルでの全ゲノム解読はこのJ系統の個体を用いて行われました、たとえばヒトゲノムで解読された配列決定に用いた試料は、複数人からの混合で、個人差などにより多少の違いがあります。一方でJ 系統を用いて解読されたツメガエルのゲノム情報に関しては、同じ系統のカエルを使う限り配列のずれは生じません。

皮下の細胞が皮膚再生に寄与する

変態後のツメガエルの背中や四肢においては、皮膚の直下(皮下)は主に筋肉組織から構成されています。私たちはツメガエルの皮膚再生の過程を詳細に観察するなかで皮下に位置する組織で組織分解が起こり、そのなかから前述の再生芽マーカー(prx1)を活性化した細胞が生じることを見つけました。このことから皮膚再生においては皮下の組織に由来する細胞が皮膚再生に寄与している可能性を考えました。

そこで、東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授と大学院生の大塚理奈さん、新潟大学理学部生物学プログラムの井筒ゆみ准教授らと共同で、変態後のツメガエルにおいて皮下の組織の細胞をラベルする実験方法を新たに考案しました。ここで用いた方法は遺伝子組換えによって全身が緑色蛍光タンパク質(GFP)でラベルされた個体と、ラベルされていない個体の間で皮膚を交換移植し、皮下の組織のみがGFPでラベルされた状態を作るというものです。通常はこのような個体間移植を行うと、移植した組織は免疫拒絶によって生着しませんが、私たちは前述のJ系統のツメガエルを利用することで拒絶の問題を克服し、胴体の背中において皮下の組織のみがGFPでラベルされたツメガエル個体の作製に成功しました。この個体を用いて皮膚再生における細胞の寄与を調べた結果、GFPでラベルされた皮下の組織に由来する細胞が傷口の下に移動して集積すること、さらにその後は再生した皮膚の真皮に寄与することが明らかになりました。

今後の展開

今回、皮膚再生に寄与する細胞が皮下の組織に由来することが明らかになったことにより、皮膚再生を可能にしている細胞の正体を突き止めることが初めて可能になりました。この細胞が皮下の組織におけるどんなタイプの細胞種に由来するのかを調べることで、皮膚再生に寄与する細胞の性質が明らかになると期待できます。またツメガエルで見つかった皮膚再生に寄与する細胞と同等の細胞が哺乳類の皮下の組織に存在するのかという点も今度大いに興味が持たれます。さらに哺乳類で見つかっている瘢痕形成に寄与する細胞と、今回ツメガエルの皮下の組織で見つかった皮膚再生に寄与する細胞との間で比較解析を行うことで、どうやって瘢痕形成を防いで皮膚を再生させられるかが今後明らかになると期待できます。このことはヒトにおいて瘢痕を作らせずに皮膚を完全に再生させる治療法の確立に役立つはずです。

また、両生類の四肢では皮膚を深く傷つけると瘢痕を作らずに皮膚を再生しますが、ここにさらに神経の移植などの操作を加えると、新たにもう1本の四肢が再生してくることが知られています。つまり両生類では瘢痕を作らない皮膚の再生を前提にして、皮膚再生よりも高度な再生である四肢の再生へとステップアップすることが可能です。今回の発見を端緒にして哺乳類における瘢痕を作らない皮膚再生が可能になれば、将来そこからステップアップして、哺乳類においても四肢の再生のようなより高度な立体的な器官の再生を実現し、人体を再生させる画期的な医療へとつながることが期待できます。

参考文献
Otsuka-Yamaguchi R, Kawasumi-Kita A, Kudo N, Izutsu Y, Tamura K, Yokoyama H. Cells from subcutaneous tissues contribute to scarless skin regeneration in Xenopus laevis froglets. Developmental Dynamics 246, 585-597. 2017

†Session AM, †Uno Y, †Kwon T, Chapman JA, Toyoda A, Takahashi S, Fukui A, Hikosaka A, Suzuki A, Kondo M, van Heeringen SJ, Quigley I, Heinz S, Ogino H, Ochi H, Hellsten U, Lyons JB, Simakov O, Putnam N, Stites J, Kuroki Y, Tanaka T, Michiue T, Watanabe M, Bogdanovic O, Lister R, Georgiou G, Paranjpe SS, van Kruijsbergen I, Shu S, Carlson J, Kinoshita T, Ohta Y, Mawaribuchi S, Jenkins J, Grimwood J, Schmutz J, Mitros T, Mozaffari SV, Suzuki Y, Haramoto Y, Yamamoto TS, Takagi C, Heald R, Miller K, Haudenschild C, Kitzman J, Nakayama T, Izutsu Y, Robert J, Fortriede J, Burns K, Lotay V, Karimi K, Yasuoka Y, Dichmann DS, Flajnik MF, Houston DW, Shendure J, DuPasquier L, Vize PD, Zorn AM, Ito M, Marcotte EM, Wallingford JB, Ito Y, Asashima M, Ueno N, Matsuda Y, Veenstra GJ, Fujiyama A, Harland RM, Taira M, Rokhsar DS. Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis. Nature 538, 336-343. 2016

†Yokoyama H, †Maruoka T, Aruga A, Amano T, Ohgo S, Shiroishi T, Tamura K. Prx-1 expression in Xenopus laevis scarless skin-wound healing and its resemblance to epimorphic regeneration. Journal of Investigative Dermatology 131, 2477-2485. 2011.
†は同等の寄与をした複数の筆頭著者

この記事を書いた人

横山仁
弘前大学農学生命科学部・准教授。博士(理学)。専門は両生類を対象にした再生生物学。横浜市出身。東北大学理学部を卒業後、2001年に東北大学大学院理学研究科を修了。その後、米国University of WashingtonのRandall Moon研究室のポスドクとして再生におけるWntシグナリングの役割についての研究に従事。東北大学大学院生命科学研究科・助教などを経て2014年より現職。現在、Xenopus(ツメガエル)における四肢再生と皮膚再生をメインテーマにして研究しています。