頻脈性不整脈とその治療法

頻脈性不整脈とは、心臓の拍動リズムの異常により、正常な拍動の範囲(1分間に100拍以上)を超えて脈が速くなる疾患のことです。脈が飛ぶことにより不快感を感じる期外収縮、脈がバラバラに乱れ脳梗塞の原因にもなる心房細動、いわゆる心臓麻痺として突然死の原因となる心室頻拍や心室細動などが挙げられます。

頻脈性不整脈の治療は、これまで内服薬で不整脈の発作頻度を減らすという治療法しかなく、患者さんは長期間内服を続ける必要がありました。しかし近年、足の付け根など太い血管から挿入したカテーテルという細い管で、異常な拍動リズムの原因となっている異常な心筋を破壊し不整脈を根治する治療法である「カテーテルアブレーション治療」が開発され、広く行われるようになってきました。現在主流となっているカテーテルアブレーション法は、高周波通電によるジュール熱で標的を焼灼する「高周波アブレーション」という手法です。

高周波アブレーションの問題点

高周波アブレーションは、1980年代後半に開発されて以降、関連機器の改良に伴いさまざまな不整脈の治療が可能となり、ますます重要性が高まってきています。しかし、高周波通電によるジュール熱を用いるこの治療法には、熱を用いた手法であることに起因するいくつかの問題点があります。

第1に、深達度の限界です。高周波アブレーションはカテーテルが接触した面から熱を伝達させて異常心筋を焼灼するため、深達度は3〜5mm程度とされており、10mm以上の厚さになる心室筋の深部の治療は困難なのが現状です。

第2に、不要な心内膜損傷に伴う血栓塞栓症です。高周波アブレーションは接触面から熱を伝達させるため、心臓の内側(心内膜)がやけどのようにひどく傷害された状態になってしまいます。そこにできた血の塊(血栓)が何かの拍子に剥がれて、血流にのってさまざまな臓器の血管に詰まり(血栓塞栓症)、脳梗塞などの重篤な合併症を起こす可能性があります。

第3に、炎症治癒反応の遷延による再発のリスクです。高周波アブレーションによる損傷部は一種の火傷ですので治るのが非常に遅く、炎症が落ち着いて組織が治癒するまで12週間も要するとされています。炎症と不整脈再発の関連についても報告されており、遷延する炎症が再発のリスクとなります。

衝撃波アブレーションの開発

このような現行の高周波アブレーションの問題点を克服する新しいアブレーションシステムを開発するため、我々は、非熱産生性のエネルギーである衝撃波に着目しました。衝撃波とは、爆発などによって物体が媒体中を超音速で移動することにより生じる圧力波のことで、尿路結石に対する体外式結石破砕や、我々が開発した狭心症に対する低出力体外衝撃波治療など、すでにさまざまな分野で医療応用されているエネルギーです。

我々は、衝撃波研究の世界的権威である東北大学流体科学研究所の高山和喜名誉教授の協力を得て、10年前から開発を進めてきました。当初は原始的な装置から研究がはじまりましたが、現在ではヒトに応用可能なレベルのカテーテルが完成しつつあります。

衝撃波アブレーションシステムの原理は、カテーテル先端の反射器の内部焦点にパルスレーザーを収束させることにより球状衝撃波を発生させます。そこで発生した衝撃波を反射器で反射させ心筋内の外部焦点に収束させることにより進行方向への指向性を与え、円錐状から紡錘形の損傷を対象組織に与えることができます。

これまでの検討では、非熱依存性のシステムである利点を示すことができましたが出力不足から深達度が不十分でした。今回、我々は衝撃波出力の強化という大きなブレイクスルーを達成し、衝撃波アブレーションシステムの性能を大きく向上させることに成功しました。そこで、改良された衝撃波アブレーションシステムが、高周波アブレーションの持つ問題点を克服しうるかどうかを、動物実験で検証しました。

衝撃波アブレーションの優位性

まず、深達度の検討では、衝撃波アブレーションは安定出力で5.2mmの深達度を達成し、さらに高出力条件下では深達度は7.8mm(最大13mm)にも達し、この深達度は3〜5mm程度とされる現行の高周波アブレーションを大きく凌駕するものでした。また、出力調整により深達度の調節も可能であったため、標的の深さに対応して到達深度を設定することで安全性を高めることもできることが示されました。

次に、電子顕微鏡を用いた心内膜損傷の評価では、高周波アブレーションと比べて衝撃波アブレーションのほうが、明らかに損傷が軽度でした。このことから高周波アブレーションの致命的な合併症である内膜損傷に起因した血栓塞栓症リスクを大きく軽減することが期待されます。

さらに、アブレーションによる損傷部の回復過程を観察した検討では、高周波では熱による変性により局所の血流が阻害され、組織がなかなか修復されず炎症も遷延していたのに対し、衝撃波アブレーションでは局所血流が維持されており、速やかに炎症が終結して組織が修復されていました。

以上の結果から、衝撃波アブレーションは高周波アブレーションの問題点である深達度不足、血栓塞栓症、炎症遷延と再発を克服しうる性能を持っていると考えられます。

今後の展望

今回の動物実験で、我々の衝撃波アブレーションカテーテルが、高周波アブレーションカテーテルの問題点を克服し、今後の不整脈治療にパラダイムシフトを起こしうる性能を有している可能性を示しました。次の段階としては、高度な操作性や性能を必要とする心室性不整脈のアブレーションが実施可能なレベルのカテーテルを完成させ、動物を用いた前臨床試験において物理的な安全性の最終確認を経て、いよいよ世界で初めてこのシステムをヒトに適応するファーストインヒューマンの臨床試験(治験)へと進んでいく予定です。

また、我々の衝撃波アブレーションシステムの大きな特徴として、国内企業との協力の成果として開発された、国産技術を基盤とした「日の丸印」の技術だという点も挙げられます。企業からの共同研究開発のご提案もお待ちしております。日本発の画期的なシステムの今後にご期待ください。

参考文献
Hasebe Y, Yamamoto H, Fukuda K, Nishimiya K, Hanawa K, Shindo T, Kondo M, Nakano M, Wakayama Y, Takayama K, Shimokawa H. Development of a novel shock wave catheter ablation system -The first feasibility study in pigs- PLoS One. 2015;10(1):e0116017.

Hirano M, Yamamoto H, Fukuda K, Morosawa S, Amamizu H, Ohyama K, Uzuka H, Takayama K, Shimokawa H. Development of a novel shock wave catheter ablation system -A validation study in pigs in vivo- Europace. (EP Europace, eux244, https://doi.org/10.1093/europace/eux244)

この記事を書いた人

下川宏明
下川宏明

東北大学医学系研究科循環器内科学・教授

専門は循環器内科学一般、虚血性心臓病、先端医療開発、心不全、肺高血圧症など。

2001年から音波を用いた先端医療開発を行ってきている。低出力衝撃波が血管新生作用を有することを発見し、重症狭心症に対する低出力体外衝撃波治療を世界に先駆けて開発し、現在、世界の25か国で約1万名の患者に使用され、有効性・安全性が確認されている。次いで特殊な条件の超音波(出力は診断領域内)にも同様の血管新生作用があることを明らかにして重症狭心症に対する超音波治療を開発し、現在、全国の10大学病院が参加して医師主導臨床治験を実施中。衝撃波アブレーションシステムの開発もその一環でこの先端医療の場合は結石破砕治療に用いられている高出力の衝撃波を用いている。


東北大学循環器内科HP:http://www.cardio.med.tohoku.ac.jp/