地球の深部の環境を実験室で実現

地球の中心は表面から6400km。およそ50億km離れた冥王星へ探査機が飛ぶ時代になっても、われわれの足元についてはまだまだわからないことだらけです。地球内部へ探査機を送ることはできないので、その観測は地震波などに頼るしかありません。しかし、地震波が教えてくれることは限られています。縦波や横波速度がいくらと言われても、それだけで地球内部の物質を特定することはできないからです。

代わりに、地球内部の高い圧力と高い温度を実験室で実現し、深部の物質を人工的に合成する実験が1950年代から盛んに行われてきました。私たちの研究室では、ダイヤモンドという最も硬い物質で試料を超高圧へ加圧し、さらにダイヤモンドを通してレーザーを照射することによって、試料を高圧高温状態にするという実験を行っています。私たちは2004年にマントル最下部層の主要鉱物「ポストペロフスカイト」を発見、2010年には地球中心の超高圧高温環境を作り出すことに成功しました。それ以来、地球内部のあらゆる環境下で実験ができるようになっています。

ダイヤモンドアンビル超高圧発生装置。試料を2つのダイヤの間に挟んで超高圧にし、さらにレーザーを照射することにより超高温を発生させる

地球磁場と金属コアの関係とは

地球の深部で起こっていることは表層の環境にも影響があります。その一例が磁場です。地球はS極とN極が数万年から数十万年おきに入れ替わる電磁石です。電磁石では、電流が通っているときにだけ磁力が発生します。地球においては、コアの中での自由電子を持った金属の流れが電流にあたります。つまり、地球磁場を作るにはコアが対流している必要があります。

私たちの超高圧実験によって、コアの主成分である金属鉄の熱伝導率をコアの高圧高温下で初めて測ったところ、以前の見積もりより3倍も熱伝導性が高いことがわかりました。このことは、コアでは伝導で熱が伝わりやすいので、対流が起きにくいことを意味しています。空気の熱伝導率は低いので、部屋の中ですぐに対流が始まるのと好対照です。ここでいう対流を熱対流と呼びます。コアを熱対流させるには、コアから多くの熱を奪う、つまり勢いよくコアを冷やす必要があるのです。実際、地球にはプレート運動があり、海で冷やされた冷たい岩石がコアの直上まで沈み込んでいるので、コアの冷却は比較的速いはずです。それでも、熱対流に必要な、10億年で500度という冷却速度は難しいように見えます。なお、プレート運動のない火星や金星に磁場はありません。

コアで二酸化ケイ素が結晶化

コアを対流させる、熱対流以外のメカニズムが組成対流です。現在は地球中心に内核と呼ばれる固体のコアが結晶化しています。液体の外核には鉄とニッケル以外に、もっと軽い元素が不純物として含まれています。液体金属から固体が結晶化する際、これらの不純物は固体にあまり含まれないので、固体にならなかった液体には不純物がより多く残ります。食塩水から氷が出来て、残りが濃い食塩水になるのと同じです。不純物に富む液体は軽いので、浮き上がる、つまり対流するというわけです。内核が誕生した後は、この組成対流というメカニズムでコアに対流が起きたと考えられます。ところが、45億年の地球の歴史のなかで、内核ができたのはおそらく10億年よりも最近のことです。それ以前に、地球には磁場がなかったのでしょうか?

最近、私たちの超高圧実験によって、内核が生まれる前から、コアでは二酸化ケイ素(表層では石英)が結晶化し、それがコアの対流を生んでいたことが明らかになりました。もともとマントルの岩石とコアの金属は混ざりあっていたのですが、地球が大規模に溶融した際に分離し、重たい金属が中心に集まってコアを作ったと考えられています。この金属は中心へと移動する際に周囲の融けたマントルと化学反応を起こすため、マントルの主成分であるケイ素と酸素を金属が取り込んだはずです。私たちが、そのようなケイ素と酸素を含む液体鉄をコアの超高圧下で徐々に結晶化させると、二酸化ケイ素が出てきました。軽い二酸化ケイ素がコア最上部で結晶化した後に残る液体は、重いので下へ沈み、コアを対流させるというわけです。

133万気圧下での液体Fe-Si-O合金の結晶化実験。液体金属から二酸化ケイ素の結晶化が観察される

地球の初期から磁場が存在

では、地球の磁場はいつからあるのでしょう? それを知るには、地質記録を調べる方法があります。少なくとも35億年前には磁場があったようですが、さらに古い時代の岩石を調べることは容易ではありません。一方、コア中での二酸化ケイ素の結晶化は、地球の誕生間もない頃から始まった可能性があります。すなわち、地球の磁場も40億年以上前からあっただろうと考えられます。

地球に磁場があるおかげで、私たちは太陽風や宇宙線といった高エネルギーの放射線から守られています。そればかりでなく、磁場は太陽風による地球大気の散逸を防いでいると考える研究者が多いのです。もし磁場がなければ、大気中の水蒸気が失われ、その結果、海の蒸発が進みます。火星の大気がとても薄く、また大昔に海が消滅したのは、火星の重力が小さいことに加え、磁場が初期に失われたことと関係があるでしょう。地球の場合、その誕生後からコア中で二酸化ケイ素が結晶化し続けたことにより、現在まで豊かな海が維持されてきたと言えます。

二酸化ケイ素の結晶化は、もともと含まれていたケイ素と酸素の大部分がコアから失われたということを意味します。上に述べたように、現在の外核にはなんらかの軽元素が不純物として含まれ、その密度は鉄やニッケルより10%も小さいことがわかっています。この軽元素はケイ素や酸素ではないはずです。コアの軽元素については、1952年から議論が続いていますが、未だに解明されていない大問題です。私は、地球の形成時に大量の水が運ばれ、そのうちの水素がコアへ、酸素は金属鉄を酸化させてマントルへ残ったと考えています。このような研究から、地球の成り立ちに関する理解が大きく進むと期待しています。

コアの対流と地球磁場の形成。磁場は地球の初期から存在し、大気の散逸や海の蒸発を防いできたと考えられる

 

参考文献
Hirose, K., Morard, G., Sinmyo, R., Umemoto, K., Hernlund, J., Helffrich, G. & Labrosse, S.(2017) Crystallization of silicon dioxide and compositional evolution of the Earth’s core. Nature 543, 99–102
Ohta, K., Kuwayama, Y., Hirose, K., Shimizu, K. & Ohishi, Y. (2016) Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth’s core conditions. Nature 534, 95–98

この記事を書いた人

廣瀬敬
廣瀬敬
東大卒、2012年より東工大地球生命研究所所長・教授。1996年にカーネギー地球物理学研究所で超高圧高温実験を始めて以来、ダイヤモンドセル装置を使った地球深部の謎解きに挑む。地球深部の物質とダイナミクスの解明により、2011年日本学士院賞、2016年藤原賞など。