ナノチューブ – 10億分の1メートルスケールの円筒構造体

ナノチューブとは直径がナノ(10億分の1)メートルスケールの円筒形状の物質のことで、低次元ナノ構造体の一種です。有機物質からなる有機ナノチューブや無機材料から構成される無機ナノチューブなど、さまざまな物質が知られており、特に、炭素原子の二次元シートであるグラフェンあるいはグラフェンが複数層積み重なってできたグラファイトが円筒状に丸まった構造体と見なせるカーボンナノチューブは、強度・弾性・導電性に優れ、従来の材料にはない電気輸送・光学特性を有することから、燃料電池や光学機器など、実用化に向けた研究が盛んに行われています。

二硫化タングステン(WS2)と呼ばれる物質も、グラフェンと類似の層状化合物で、ナノチューブが存在することが知られています。WS2ナノチューブは、金属と絶縁体の中間的な電気伝導性を示す半導体に分類され、今までは固体ゲート絶縁体材料を用いた電気伝導性の制御や力学特性の研究が行われてきましたが、「超伝導」という電気抵抗がある有限温度以下でゼロになる現象を含めた電気伝導性の大幅な制御は未報告でした。

単一ナノチューブで超伝導が発現!

私たちは、下図左の透過型電子顕微写真に示したような多層WS2ナノチューブを基板上に分散させて、下図右のような単一ナノチューブのデバイスを作製しました。

WS2ナノチューブの透過型電子顕微写真とデバイスの模式図。試料は直径100ナノメートル程度の多層ナノチューブ。正のゲート電圧を印加することで、WS2ナノチューブの表面および層間に正イオンが集積し、試料中に電子が蓄積される

その後、ゲート絶縁体材料として電解質(KClO4)を用いることで電気伝導性の制御を試みました。ゲート絶縁体材料である電解質に電圧を印加すると、電解質中の電荷を帯びたイオンが物質表面や層状物質の層間に集積して、物質界面や物質中に逆符号の電荷が蓄積されることで、従来の固体ゲート絶縁材料を用いた方法に比べて大幅なキャリア(電気伝導を担う粒子)数の制御が可能となります。この電解質デートという手法を用いてキャリア数制御を行った結果、半導体であったWS2ナノチューブに電子(マイナスの電荷を持つ粒子)やホール(プラスの電荷を持つ粒子)が多量に蓄積し、金属的な電気伝導特性を実現することに成功しました。

WS2ナノチューブのトランジスタ動作と超伝導の発現。ゲート印加電圧が正負どちらの領域でも金属的挙動を実現でき、電子を多量に蓄積した領域では5.8ケルビン(−267.4℃)以下で超伝導が発現している

上図左はトランジスタの伝達曲線と呼ばれるもので、ゲート電圧をプラス・マイナスどちらに印加した場合にもソース・ドレイン間を流れる電流値が増加しており、物質中にそれぞれ電子・ホールが蓄積されて電気伝導性が発現したことを表しています。このような電子とホール両側でのキャリア蓄積と電気伝導性を実現した両極性動作は、従来の固体ゲート絶縁体材料を用いた方法では未報告で、ゲート絶縁体材料として電解質を用いることで可能となりました。私たちは、さらに電子を極めて多量に蓄積した領域で、上図右に示したように5.8ケルビン(−267.4℃)以下で超伝導が発現することを発見しました。ナノチューブにおける超伝導は、すでにカーボンナノチューブで報告されていますが、先行研究はカーボンナノチューブの集合体試料を使用したもので、単一ナノチューブにおいて超伝導特性を観測したのは本研究が初めてです。

カイラルチューブ構造に由来するエキゾチックな超伝導特性

単一ナノチューブにおいて超伝導が発現したことから、円筒構造、巻き方の自由度など、今まで研究されてこなかったナノチューブの特徴的な形状を反映した超伝導特性の探索が可能となりました。まず、ナノチューブは特徴的な円筒構造を有しています。固体中の電気伝導を担っている電子は、粒子であると同時に、波としての性質を持つことが知られていますが、私たちが日常目にする大きさの金属パイプなどとは異なり、ナノメートルスケールではこの電子の波としての性質に起因する干渉効果が起こると期待されます。

また、グラフェンやWS2といった原子層物質が丸まってナノチューブを形成する際には、原子層をどのように巻いて円筒構造を形成するかの自由度があります。グラフェンもWS2も原子層一層は六角形の格子で形成されていますが、原子層を六角形の辺方向あるいは頂点方向に沿って真っすぐに丸めて円筒構造をつくると、出来上がった構造体は高い対称性を保っています。一方で、六角形が少しずつずれるようにして斜めに丸めたナノチューブは、真っすぐに丸めたナノチューブが持っていた鏡像反転対称性が破れており、より対称性の低い構造体となります。このように、物体がその鏡像と重ね合わすことができない性質をカイラリティーと呼びますが、カイラリティーが超伝導に及ぼす影響は今まで報告例がありませんでした。

本研究では、特に磁場下での電気伝導性の振る舞いを詳細に測定することにより、電気抵抗がチューブ軸と磁場の角度に大きく依存する異方的な振る舞いを示すことや、磁場がチューブ軸に平行な場合に、前述した干渉効果によって円筒を貫く磁場に電気抵抗が影響を受けること、さらにカイラリティーの影響を受けて電流電圧特性が磁場と電流が平行か反平行かで異なる振る舞いを示すことを明らかにしました。

カイラルナノチューブにおける特異な超伝導物性の模式図

これら新しい超伝導特性は単一カイラルナノチューブに特有のものであり、前例のない特異な超伝導状態が実現されていることを示していると言えます。

今後の展望

本研究により、単独のナノチューブで実現した超伝導状態は今までにない特異な超伝導特性を有することが明らかになりました。この成果は、対称性が破れた低次元電子系における新奇超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく、省エネルギーナノエレクトロニクスに新たな指針を与えることが期待されます。今後、私たちは観測された特異な超伝導物性が、空間反転対称性の破れた超伝導体に普遍的な性質であることの検証とその微視的機構の解明に取り組んでいく予定です。

 

引用文献
F. Qin, W. Shi, T. Ideue, M. Yoshida, A. Zak, R. Tenne, T. Kikitsu, D. Inoue, D.Hashizume, Y. Iwasa, Superconductivity in a chiral nanotube. Nature Communications, 8, 14465 (2017)

この記事を書いた人

井手上敏也
井手上敏也

東京大学大学院工学系研究科助教。2015年東京大学工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。博士(工学)。2015年より現職。対称性の破れに起因した固体中のエキゾチックな量子輸送現象に興味を持って研究を行っている。特に非線形応答やホール効果、スピン軌道相互作用、非散逸流等の研究に取り組んでいる。