好きなものにはつい目が向く? 目を向けたものを好きになる?

我々はしばしば「好きなものにはつい目が向く」と言います。しかしながら逆に、「目を向けたものを好きになる」こともあると過去の心理学研究は示しています。たとえば、コンピュータディスプレイの左右に代わる代わる表示される顔写真を目で追って見比べるとします。このとき、一方を少しだけ長く、たとえば一方を0.9秒、他方を0.3秒表示しても、多くの人はこの時間差に気づきません。気づかなくても、我々は長く表示された顔のほうを「好き」と判断しやすいのです。視線の誘導による選好の誘導は、好みに選択肢間で甲乙つけがたいときに特に観察されます。好みの判断が難しいとき、見つめた行為が「好き」と判断する手がかりになっているためと考えられます。つまり、「こんなにこれを見つめたということは、私はこれが好きなのに違いない」と錯覚するのです。

2010年、早稲田大学スポーツ科学学術院の内田直研究室と高知工科大学総合研究所の宮崎真研究室(現・静岡大学情報学部)とが共同研究を行なうことになり、内田研から齊藤佳之さんが高知を訪ねてきました。齊藤さんはスポーツに関連した行動経済学に興味があり、また、プライベートではサッカーを楽しむ修士課程の学生さんでした。一方、宮崎研に所属していた私は「目を向けたものを好きになる」現象に関心をもっていました。両者の関心が結びついた結果、今回の研究テーマが生まれました。

サッカー好きな人がユニフォームを選ぶとき、選好の誘導はできるか

「視線の誘導による選好の誘導は、選択肢間で好みに甲乙つけがたいときに特に生じる」のであれば……。選択肢が全般的に好ましく感じられる人においては、視線の誘導によって選好を誘導されやすいという予想が成り立ちます。たとえば、サッカーが好きな人がサッカーユニフォームを選ぶ場合、どのユニフォームも全体的に好ましく感じられやすいため、視線の誘導による選好の誘導の効果は上昇するかもしれません。

逆の予想も成り立ちます。サッカーが好きな人はユニフォームに見慣れているため、素早くユニフォームの特徴を抽出できるはず。その場合、「好き」と判断する手がかりを豊富に得られるので、繰り返し目を向けるまでもなく早い段階で好みを判断するかもしれません。

ともあれ、「サッカーが好き」と言っても、観戦が好きな人、プレーするのが好きな人、いろいろです。サッカーなど好きなアクティビティに関わる用品を選ぶ場合、どのような要素が視線の誘導による選好の誘導の効果にどう影響するでしょうか。我々は視線の誘導による選好の誘導が生じる個人差を検証することにしました。

ヨーロッパリーグのサッカーユニフォーム2着を比較する実験

本研究の実験は2つの部分で構成されています。ひとつ目は視線移動の誘導による選好への効果の測定です。各試行ではヨーロッパリーグのサッカーユニフォーム2着をコンピュータディスプレイの左右に代わる代わる、一方は0.9秒、他方は0.3秒、6回表示しました。実験条件では参加者は表示の切り替えに合わせて目を動かしながら左右のユニフォームを比較し、各試行の最後にどちらが好きか回答しました。統制条件では参加者は目を動かさずに両者を比較し、各試行の最後にどちらが好きか回答しました。長く見た方を好きと回答した割合を実験条件と統制条件とで求め差分をとることで、目を動かしたことの効果が算出されます。

この実験は「心理物理学」の典型的な手法に基づいています。「心理物理学」は心理学の一分野です。単純化された刺激に対する人間の応答(今回の場合、好みの判断)を測定し、条件間で結果を比較することによって、心をまるで物理的実体のあるもののように測定しよう、という発想で100年ほど前に生まれました。

2つ目は、質問紙調査です。どのような仕方で対象を愛好すると視線誘導による効果がみられるのかを明らかにするため、観戦への興味、服飾に関する興味、ヨーロッパリーグに関する知識、サッカーチーム所属歴有無等について質問紙調査を実施しました。

結果は……?

実験には24人の大学生が参加しました。参加者全体については、視線誘導による選好誘導効果はみられませんでした。そこで、質問紙調査から得られた観戦への興味・服飾への興味・ヨーロッパリーグの知識の豊富さについて平均値をとり、各項に関しこの平均値を境に参加者を2群に分けました。そして、視線誘導による選好誘導効果を群間で比較しましたが、視線誘導による選好誘導効果は見られませんでした。

最後に、質問紙調査から得られたサッカーチーム所属歴について、所属歴有無で参加者を2群に分けました。すると、経験者のみで視線誘導による選好誘導効果が有意に示されました。

左:実験参加者全体(24人)では、視線誘導による有意な効果は認められなかった
右:実験参加者をサッカー経験者(8人)と未経験者(16人)に分けて解析したところ、サッカー経験者では視線誘導による有意な効果が認められた

すなわち、サッカー経験者に好きなサッカーユニフォームを選んでもらう際、どちらかを長めに見るよう視線を誘導すると、繰り返し長めに見たユニフォームを好きになっていたのです。本研究が示唆するのは、プレーを見ているだけではなく自分で体を動かして競技した経験が、競技中の判断のみならずフィールド外での好みの判断に関わってくる可能性です。

また、ユニフォームに見慣れている人は、繰り返し目を向けるまでもなく早い段階で好みを判断するかも、という予想は否定されました。素早い特徴抽出は優劣の判断を助けるかもしれないものの、それは選好の判断とは別なことのようです。もっとも、身に着けるものがパフォーマンスに影響するスポーツでは、異なる結果になるかもしれません。たとえば剣道の防具やサーフィンのウェットスーツなどを経験者・非経験者に提示して好みを聞いた場合、経験者は一目で優劣を見抜き、好みを決めてしまうかもしれません。

今後の展望

この現象がさらに明らかになれば、スポーツ用品などの宣伝映像でどのように商品を見せれば効果的かが示されると考えられます。たとえば、特定のスポーツの経験者にそのスポーツに用いる器具をアピールする際、新商品と旧来の商品とを交互に提示し、新商品への好感度を上げることが可能でしょう。

実験から得られた個人差を説明するには、さらに大規模な調査を実施する必要があります。また、本研究ではサッカーユニフォーム選好課題を用いましたが、チーム球技以外のスポーツ(マラソンや駅伝、ボクシングなど)や、視聴が可能なスポーツ以外の趣味(囲碁や音楽演奏など)で同様の効果が出るかを検証し、現象のメカニズムに迫る必要があります。今回の研究で示された実験系は、今後の研究の土台となることでしょう。

 

参考文献

  • Saito, Y., Uchida, S., Yabe, Y., Miyazaki, M. (2017). The Effect of Gaze Manipulation on Preference Decisions: A Study of Football Shirt Evaluation. Int J Sport Health Sci. , Advance Publication
  • Shimojo, S., Simion, C., Shimojo, E. and Sheier, C. (2003). Gaze bias both reflects and influences preference. Nat. Neurosci., 6: 1317—1322.
  • Armel, K.C., Beaumel, A. & Rangel, A. (2008). Biasing simple choices by manipulating relative visual attention. Judgm. Decis. Mak., 3: 396—403.

この記事を書いた人

谷部好子
谷部好子

身体の運動に伴う知覚の変調に興味があり、この記事の研究もその一環です。博士課程では歩行によって誘発される目の錯覚を発見・検証しました。2013年以降は西オンタリオ大学脳と心の研究所に本拠を置き、身体運動による時間知覚の変調を健常者・運動障害のある患者さんで研究しています。カナダの大学での研究の様子をブログに綴っています。http://eyescanada.tea-nifty.com/blog/