花粉を運んでもらうかわりに蜜をあたえる花と虫の関係。そう聞くと、絵本にあるような牧歌的な光景を思い浮かべるかもしれません。ところが、蜜ほしさに花を訪れる虫と、とにかく花粉を運んでもらいたい植物、両者のあいだには虚々実々の駆け引きが展開されています。このコラムでは、そうした駆け引きの産物のひとつと考えられる「花色変化」という現象について紹介します。

蜜のない花を教える花色変化の謎:どうして親切にしているの?

植物が咲かせる花の色は、咲いてから閉じるまで、一定に保たれることがほとんどですが、なかには写真のように、花の色を途中で変えるものが存在します。そしてこの「花色変化」は、しばしば、花粉を運ぶハチやチョウなどの動物(送粉者)の餌となる、蜜や花粉の生産を終えた花で起こることがわかっています。送粉者は色を手がかりに効率良く餌をあつめることができるため、花色変化は、送粉者にしてみればたいへん親切なおもてなしと言えます。

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花の色を変える植物たち

色の変わった花は多くの場合、送受粉を終えていることも知られています。送受粉を終えているということは、言うなれば用済みの花です。花を咲かせ続けるにはエネルギーが要りますし、色を変えるには色素を作るか、分解する必要があります。用済みの花は余計なことをせず、ただちに落とすのが植物にとっては「お得」に思えます。なぜ彼らは用済みの花を咲かせ続け、さらには色まで変えているのでしょう? 先行研究では、古い花の維持は全体を大きく目立たせ、より多くの送粉者の獲得に役立つことが示されています。そして送粉者は色変化前の新しい花をえらぶため、植物は送粉者を未受粉の花に効率良く誘導することができます。花色変化は植物にとって都合がよさそうです。

先行研究で示されていること
先行研究で示されていること

新たな仮説:送粉者に嫌われないための花色変化?

この説明を聞くと「謎は全て解けた!めでたしめでたし。」という気分になります。私もそのひとりだったのですが、あるとき、花色変化にさらなる役割が隠されていそうなことに気づきました。花が作る蜜や花粉などの餌は、いちど送粉者に取られてしまっても、時間とともに徐々に回復することが一般的です。そのため、ハチドリやマルハナバチといった送粉者のなかには、個体ごとにお気に入りのエリアを定め、そこで花を咲かせる植物個体(株)を巡回し、回復した餌をあつめるものがいます。しかも彼らは、株の位置をしだいに覚え、蜜の少ない株を巡回ルートから外します。そんな彼らが、色を変えずに餌のない花を維持する「嘘つきな株」に出会った場合を考えましょう。餌のある花・ない花の区別がつかない嘘つきな株では、餌あつめに手間がかかります。

嘘つきな株・正直な株で起こりそうなこと
嘘つきな株・正直な株で起こりそうなこと

こうした手間のかかる株を賢い送粉者は避けるかもしれません。嘘つきな株は、何も知らない「新参者」を大きな見た目で誘引することはできるでしょう。しかし色を変えなかったばっかりに嘘つきの烙印を押され、最終的にはさけられてしまいそうです。一方で親切に花の色を変えれば、彼らを何度も戻ってくる「常連」として囲い込むことができそうです。つまり「目立つうえに嫌われない」状態を作り出せるわけです。はたしてそんなにうまい話があるのでしょうか?

仮説のまとめ:色を変える正直型が一番多く訪問される?
仮説のまとめ:色を変える正直型が一番多く訪問される?

その検証のため、室内に設置したビニール製のケージの中でクロマルハナバチと人工花を用いた実験を行いました。クロマルハナバチは社会性の昆虫で、働きバチが女王のために仕事をこなします。実験では3タイプの株(古い花を維持しない「地味型」・蜜を出さない古い花を、色を変えずに維持する「嘘つき型」・蜜を出さない古い花の色を変える「正直型」)を8株ずつ並べ、ハチを1匹だけ放して、各タイプへの訪問回数を約4時間にわたって記録しました。なお、変化前・変化後の花の色には白・黄・紫を用い、計6通りの組み合わせを試しています。

人工花から蜜を集めるクロマルハナバチ(左)と室内ケージ(右)
人工花から蜜を集めるクロマルハナバチ(左)と室内ケージ(右)

実験の結果:やはり嫌われた嘘つきタイプ

その結果、全ての組み合わせでハチは嘘つき型を避けるようになりました。反対に、正直型を避けることはありませんでした。そして、嘘つき型を避けるようになったハチは、途中で嘘つき型と正直型の位置を入れ換えると、過去に正直型があった(現在は嘘つき型の)場所に戻ってきました。彼らは嘘つき型の見た目ではなく、場所をたよりに嘘つき型をさけていたのです。また、嘘つき型では蜜のある花を見つけにくいことも確認しました。ハチは蜜をあつめにくい嘘つき型の場所をおぼえ、避けるようになったのです。実験では、色の組み合わせによっては新参者の誘引に失敗することもわかりました。新参者をうまく誘引できた色の組み合わせでは、予想通り正直型が一番多く訪問されていました。「嫌われないための花色変化」という解釈はどうやら正しそうです。

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ある色の組み合わせでの結果

「嫌われないための花色変化」が意味すること

新参者も常連も誘引できる花色変化はとても優れたアイデアです。ところが周りを見渡せばわかるように、花色変化を示す植物は珍しい存在です。本研究の結果は「いったいどんな植物で花色変化が進化しやすいのか?」という問題のヒントになりそうです。そのひとつが、花粉をはこんでもらう相手の賢さです。花色変化は、都合の悪い場所をおぼえて避けるハチドリやハナバチを相手にするときには効果的ですが、たいして賢くない(とされる)ハエや甲虫を相手にするときには色を変えなくても結果は変わらないかもしれません。またたとえ相手が賢くても、新参者をとっかえひっかえできるほどに個体数が多ければ、色を変えなくても十分に送受粉できそうです。花色変化が進化するのは「少数の、賢い送粉者個体と長くつきあうことが大事な状況」なのかもしれません。
今回、マルハナバチのように賢い生き物に花粉をはこんでもらう植物にとって、彼らに親切にすることが最善の策となりうることがわかりました。もしかすると植物は花色だけではなく、たとえば香りなど、私たちが気づかないところで送粉者に親切にしているのかもしれません。そうした視点で花を見直すと、また新たな発見があるのではと期待しています。

研究成果まとめ
研究成果まとめ

参考文献

1.Makino TT & Ohashi K. Honest signals to maintain a long-lasting relationship: floral colour change prevents plant-level avoidance by experienced pollinators. Functional Ecology. doi: 10.1111/1365-2435.12802

2.Makino TT & Sakai S (2007) Experience changes pollinator responses to floral display size: From size-based to reward-based foraging. Functional Ecology 21: 854–863

3.鈴木美季・大橋一晴・牧野崇司 (2011) 生物間相互作用がもたらす形質進化を理解するために:「花色変化」をモデルとした統合的アプローチのすすめ. 日本生態学会誌 61: 259-274

この記事を書いた人

牧野崇司
牧野崇司

山形大学理学部生物学科研究支援者。今回紹介したようなマルハナバチと人工花を用いた室内行動実験のほかに、花の色に着目した野外群集調査を行いながら、花と虫の関係を研究しています。編著に『視覚の認知生態学・生物たちが見る世界』があります。