トリュフはキャビア、フォアグラとならぶ世界三大珍味のひとつとして知られるキノコです。イタリアやフランスが有名な産地ですが、アメリカやメキシコなど北中米、また中国、インド、タイなどのアジア地域でも発生します。そのようなトリュフが、日本でも発生することをご存知でしょうか。実は日本のトリュフの種類は豊富で、なかには食用として十分に通用する種もあります。ここでは、最近私たちが新種発表したトリュフについて、発見に至るまでの経緯やその分類学的な意義、トリュフの生活史について紹介するとともに、今後の展開について簡単にご紹介します。

トリュフの多様性

トリュフは菌類で、子嚢菌門・チャワンタケ目・セイヨウショウロ科・セイヨウショウロ属(学名は塊茎を意味するTuber)に分類されます。2008年の菌類図鑑をめくると、世界で86種と書かれていますが、その後、新種報告が相次ぎ、現在では100種以上が記載され、少なくとも世界で180種は存在すると推定されています。北半球の亜寒帯から温帯にかけて分布していて、その気候帯に位置する日本列島では、さまざまな種類のトリュフが発生します。日本では1976年に鳥取県の大山で採取されたトリュフが最初の記録です。発見当初は、アメリカで発生する種類と同じと考えられ、Tuber californicumという学名があてられていました。その後も、国内でのトリュフの発見が続きましたが、いずれも中国や欧米産の既知種の名前があてられ、図鑑で紹介されてきました。当時は形態に基づく分類が主流だったため、特徴の乏しいトリュフを見分けることが非常に難しかったのですが、その後、菌類の分類に遺伝子情報に基づく判定技術が導入され、分類や多様性の把握が飛躍的に進み、トリュフに地域固有性が非常に強いことなどわかってきたのです。

私たちは、1999年から2008年までに、日本各地の愛好家によって集められた186個のトリュフの遺伝子情報を解析し、20系統のトリュフが存在することを明らかにしました。この中には、従来から知られていた種もありました。そのなかで2種のトリュフが、日本でしか発生せず、しかも欧米産やアジア産の既知の種類と比べて系統的、形態的に特徴のある種であることがわかりました。

rDNA ITS領域の塩基配列に基づくセイヨウショウロ属(トリュフ)の分子系統樹(左図:赤フォントが日本の種)と日本のトリュフの写真(右図)。 Kinoshita et al. 2011, Mycologia 103:779-794を改変
rDNA ITS領域の塩基配列に基づくセイヨウショウロ属(トリュフ)の分子系統樹(左図:赤フォントが日本の種)と日本のトリュフの写真(右図)。 Kinoshita et al. 2011, Mycologia 103:779-794を改変

 

日本固有のトリュフ:ホンセイヨウショウロとウスキセイヨウショウロ

トリュフはジャガイモのような形をしているため、それだけでは種の判別が難しく、キノコの内部でつくられる胞子を調べます。トリュフの胞子は子嚢(しのう)とよばれる袋に入っていて、その胞子の数、形および色などが種によって異なります。それでもわからない場合には、特定の遺伝子の塩基配列を解読し、既知種と比較します。今回新種として発表した2種の場合、ひとつの子囊内に形成される胞子の数は通常1〜2個で、胞子は薄黄色で網目構造を持つという、他のトリュフの種にはない特徴をしているため、形態的特徴だけで十分に判断できることがわかりました。さらに分子系統解析の結果、この2種は中国の近縁種とともにセイヨウショウロ属の中でも固有の系統群を形成することがわかりました。私たちは、最初に日本で発見されたことに因み、1種をホンセイヨウショウロ(Tuber japonicum)と名付け、もう1種は胞子の色の特徴からウスキセイヨウショウロ(Tuber flavidosporum)と命名しました。日本で初めて新種として記載されたトリュフです。

今回新種記載したホンセイヨウショウロのキノコ(A)と胞子(B, C)、ウスキセイヨウショウロのキノコ(D)と胞子(E, F)。C, Fは胞子のSEM画像。各写真のバーは、A, Dは1cm、B, C, E, Fは30µmを示す
今回新種記載したホンセイヨウショウロのキノコ(A)と胞子(B, C)、ウスキセイヨウショウロのキノコ(D)と胞子(E, F)。C, Fは胞子のSEM画像。各写真のバーは、A, Dは1cm、B, C, E, Fは30µmを示す(Kinoshita et al. 2016より)

トリュフは植物と共生している

トリュフもほかのキノコと同じように植物と関わって生活しています。しかしその相手は枯れた木や落ち葉ではなく、生きた植物です。ここにトリュフの生活環の面白さ、奥深さ、ひいては栽培するためのヒントが隠されているのです。

一般にトリュフとして食用にされる部分(キノコ)は、胞子をつくる器官で、植物でいえば花や果実に該当します。一方でトリュフの菌糸は幅数μm(1 mmの1000分の1)をして土壌中を拡がり、水分や養分を吸収しています。その菌糸は樹木の根(直径2mm以下の細い根)に侵入し、菌根という構造物をつくります。トリュフは、菌根を介して、樹木の光合成産物をもらうことで生活をし、その代わりに土壌中から集めた水分や養分を樹木へ供給しています。このような関係を菌根共生と呼び、トリュフが共生できる樹木は、日本ではマツ科やブナ科、カバノキ科といった樹種です。これらの樹種との安定した共生関係が維持されることによって、トリュフは一生を全うできるのです。

トリュフの一生

トリュフの生活史をキノコを始まりとしてみていきましょう。トリュフは地中や土の表面近くにキノコを形成する地下生菌です。マツタケなど一般的なキノコは、地上に傘の形をしたキノコを作り、傘の下側のヒダに胞子を作ります。この胞子が自然落下し、風などにより散布されます。地下生菌であるトリュフの場合、老熟して溶けだすことや動物に食べられることで胞子が散布します。トリュフに強い香りがあるのは、動物に食べてもらうためで、この特徴は進化の過程で獲得したのでしょう。土壌中に散布された胞子は発芽し、菌糸をのばして樹木の根に菌根を形成します。樹木からの栄養を十分に受けながら菌根から菌糸を伸ばし、やがてトリュフはキノコを作ります。私たちが動物や植物を飼育する際、その生き物の本来の生活場所や特性を知り、再現することを心がけます。トリュフなど菌類も同じで、ヒトの手で栽培するうえでは日本のトリュフの生活史の把握が必要なのです。

fig3
トリュフの生活史

国産トリュフの栽培化へ向けて

栽培されるトリュフとして最も有名なのがヨーロッパの黒トリュフのT. melanosporumで、このほかにもさまざまな種類が栽培されています。しかし最近になって、ヨーロッパ以外でも食用価値の高い種が続々と報告されるようになってきました。アメリカで発生するT. gibbosum, T. oregonenseは、アメリカ国内で高値で取引されていますし、中国で発生するT. indicumは、ヨーロッパや日本にも輸出されています。これらは自生地で採集されたものが市場へ出回っていますが、それぞれの国での栽培化に向けた取り組みも行われています。日本のホンセイヨウショウロは、「ニンニク臭」や「発酵チーズ」など人によって感じ方が違いますが、海外産種にも匹敵する香りをもち、食用として通用すると感じています。現在、私たちは日本のトリュフのうち、ホンセイヨウショウロをはじめ、他の食用可能性のあるトリュフの栽培化をめざし、共生する樹種や土壌環境、気象など、発生条件を探っているところです。読者の皆さんの食卓に日本のトリュフを届けられるよう、研究を進めていきます。

引用文献

  1. Kinoshita A, Sasaki H, Nara K (2011) Phylogeny and diversity of Japanese truffles (Tuber spp.) inferred from four nuclear loci. Mycologia 103: 779-794.
  2. Kinoshita A, Sasaki H, Nara K (2016) Two new truffle species, Tuber japonicum and Tuber flavidosporum spp. nov. found from Japan. Mycoscience 57: 366-373.
  3. Zambonelli A, Bonito G (2013) Edible ectomycorrhizal mushrooms: current knowledge and future prospects. Soil Biology series: 34, Springer.
  4. Zambonelli A, Lotti N, Murat C (2016) True truffle (Tuber spp.) in the world: soil ecology, systematics and biochemistry. Soil Biology series: 47, Springer.
  5. 佐々木廣海、木下晃彦、奈良一秀(2016)地下生菌識別図鑑:日本のトリュフ。地下で進化したキノコの仲間たち.誠文堂新光社

この記事を書いた人

木下晃彦
木下晃彦

森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 特別研究員。広島大学大学院生物圏科学研究科で学位取得後(学術博士)、東京大学アジア生物資源環境研究センターで、トリュフをはじめとして地下生菌の研究をはじめました。その後、国立科学博物館でラン科植物と菌類との相互作用の研究をおこない、現在は、森林総合研究所で、国産トリュフの栽培化に関する研究をおこなっています。