アフリカの穀物生産に大きな被害を与える寄生植物ストライガ

人口の増え続けるアフリカでは、食糧不足が非常に深刻な問題となっています。しかしその大きな原因が、ある雑草によって引き起こされていることはあまり知られていません。それは、別名「魔女の雑草」と呼ばれ恐れられるストライガという寄生植物です。

ストライガは、トウモロコシやソルガムなどアフリカの主要穀物に寄生してそれらを枯らせてしまい、その被害額は年間1兆円にものぼるともいわれるほどの大きな問題を引き起こしています。今回のコラムでは、ストライガを撲滅してアフリカの食糧問題の解決を目指す私たちの研究活動を紹介したいと思います。

ストライガは、ソルガム畑一面にピンクの花を咲かせていた。2019年7月、ケニアにて撮影。

寄生植物とはどんな植物?

そもそも寄生植物とはどのような植物なのでしょうか? 私たちがよく知る植物は、地面に根を張り、光合成によって自分で生きるための栄養を作ることができます。しかし、この観念には当てはまらず、他の植物に自分の根を侵入させ、栄養を奪って生きるのが寄生植物です。このような生活には光合成は必要ないため、葉は退化し、花だけをつけるつくしのような姿をしたものも見つかっています。

寄生植物は宿主の根元で慎ましく生活をするものが多く、たとえば万葉集にも登場するナンバンギセルと呼ばれる寄生植物は、日本でも古くから愛でられる野草のひとつとして知られています。植物としての基本的な能力を失ってなお、植物として生活する寄生植物の生き様を見ていると、植物とは何ぞや? と考えさせられてしまいます。

無理やり発芽させてストライガを駆除する自殺発芽剤

ストライガ属のなかでも最も大きな被害を出しているストライガ ヘルモンティカ(Striga hermonthica)は、草丈1mにも育つ大型の寄生植物で、ひとつの植物から20万個もの粉のように小さな種子をつけます。さらに、アフリカでよく栽培される穀物に寄生できるなど、人の営みとよく適合した性質と相まって、ストライガはアフリカの広大な耕作地に広まり、現在では食糧問題の根源へと発展してしまいました。これまで、ストライガから穀物を守るさまざまな対策が試されてきましたが、大きな成果を挙げた例はなく、その被害は年々広まっているといわれています。

では、一体どうやったら無数に埋まっている粉のように小さなストライガの種子を耕作地から取り除くことができるのでしょうか? これまでの研究より、ストライガの寄生能力を逆手に取った「自殺発芽」と呼ばれる方法が注目されてきました。

土に埋まっているストライガの種子は、一般的な植物とは異なり、水を吸うだけでは決して発芽しません。しかし、穀物が近くで生育を始めると、その根から土の中に放出されるストリゴラクトンと呼ばれる植物ホルモンを感知することで初めて発芽します。

このような仕組みにより効率よく寄生することができるわけですが、裏を返すとストライガの弱点とも取れます。すなわち、栄養源となる宿主植物がいないところで発芽してしまうと、小さな種子に蓄えられている貯蔵エネルギーをすぐに使い切り、そのまま死んでしまいます。つまり、ストライガを強制的に発芽させるストリゴラクトンのような人工化合物を開発できれば、耕作地にそれをスプレーしてストライガを自殺発芽させ、その後に穀物を植えることで、ストライガに寄生されることなく穀物を育てることができるわけです。

ストライガの種は、トウモロコシなどが根から土中に放出するストリゴラクトンと呼ばれる植物ホルモンを感知して発芽することで、効率よく寄生することができる(左)。この性質を利用して、作物のいないところで人工ストリゴラクトンをまくことで、ストライガの種に宿主がいると勘違いさせ発芽させると、貯蔵栄養を使い切って速やかに枯死させることができる(右)。この方法は、自殺発芽と呼ばれている。

しかし、自殺発芽を実現するには、安く合成でき、かつ非常に高い活性を持つ薬剤を開発しなくてはなりません。さらに、ストリゴラクトンには、穀物の枝分かれや根の成長にも作用し、植物と共生するアーバスキュラー菌根菌を呼び寄せる重要な機能も持つことから、このような有益な作用に干渉せずストライガだけに効く化合物を開発しなくては、環境に対する負荷が大きく使うことはできません。これまでも人工ストリゴラクトンの開発は行われてきましたが、これらのハードルを乗り越えたものは見つかっていませんでした。

ストライガだけに作用する自殺発芽剤を開発!

こういったハードルを乗り越えて自殺発芽剤を開発するため、まず私たちは、ストリゴラクトンと結合してそのシグナルを伝える受容体タンパク質の探索から始めました。ストライガが持つ受容体タンパク質にしか結合しない化合物を見つけることができれば、ストライガだけに作用する自殺発芽剤へと改変できるのではないかと考えたからです。

ここでは、ストリゴラクトン受容体と反応して蛍光分子を放出するように設計した「ヨシムラクトン」を使うことで、ShHTLと呼ばれる11個の受容体タンパク質(それぞれShHTL1~ShHTL11と呼ぶ)を発見することに成功しました。

次に、12,000個のランダムな人工化合物を集めたケミカルライブラリーから、ストライガの発芽を刺激する化合物を18個程度選抜し、ShHTLとの結合を調べた結果、これら化合物は11個の受容体のなかでもShHTL7だけに結合することがわかりました。

この化合物の活性を向上しようと四苦八苦していた折、偶然にも化学合成反応でできた副生成物が非常に高い活性を持つことを見出し、その副生成物を最適化した結果、10-14モラーという非常に低い濃度でストライガの発芽を刺激する化合物を作ることができました。これは、小さじ一杯程度の化合物を琵琶湖の水量に溶かしたときと同等の濃度とたとえると、どれほど活性が高いものかわかると思います。

「スフィノラクトン-7(SPL7)」と名付けたこの発芽刺激剤は、このような高い活性にも関わらず、ShHTL7に対する選択性はオリジナルの化合物から引き継いでおり、ストライガのストリゴラクトン受容体にしか結合しないことが確認できました。実際に、SPL7はシロイヌナズナの生育にはまったく影響せず、アーバスキュラー菌根菌に対しても非常に低い活性を示しましたが、ストライガの自殺発芽を誘導することで一緒に生育したトウモロコシを寄生から守ることに成功しました。

開発した自殺発芽剤のスフィノラクトン-7(SPL7)によってストライガを自殺発芽させることに成功した。化合物を与えずに育てたもの(左)ではストライガに寄生されてトウモロコシは枯れてしまったが、SPL7を与えて自殺発芽させたのちにトウモロコシを育てると(右)、ストライガは出現せず、トウモロコシは健康に育った。

アフリカの食糧問題の解決に向けた活動

このように、SPL7は非常に高い活性を持ちつつもストライガにしか作用しない自殺発芽剤として利用できることが確認でき、私たちはSPL7を使って耕作地からストライガを撲滅することでアフリカの食糧問題の解決に貢献できると期待しています。

しかし、それを実現するにはまだ確認しなくてはならないことがたくさんあります。たとえば、人や動物に対する安全性はもちろん、日本国内の実験室レベルではうまくいっているものの、畑で使ったときに本当に作物、菌根菌やその他の微生物に影響を与えないか、そしてアフリカ現地で本当にストライガを自殺発芽させることができるのか、といったことは実際にアフリカ現地で試験することなしには知ることができません。

私たちは現在、ストライガの汚染が進んでいるケニアにおいて、ケニア農畜産業研究機構(Kenya Agriculture and Livestock Research Organization, 通称KALRO)との共同研究のもと、試験圃場でのSPL7の薬効について調べ始めたところです。実際に自殺発芽材として使うまでにはこれからも改良を続けなくてはなりませんが、将来、ストライガをアフリカの畑から撲滅することで食糧問題の解決に貢献できることを期待しています。

参考文献
Daisuke Uraguchi, Keiko Kuwata, Yuh Hijikata, Rie Yamaguchi, Hanae Imaizumi, Sathiyanarayanan AM, Christin Rakers, Narumi Mori, Kohki Akiyama, Stephan Irle, Peter McCourt, Toshinori Kinoshita, Takashi Ooi, Yuichiro Tsuchiya “A femtomolar-range suicide germination stimulant for the parasitic plant Striga hermonthica” Science 362, 6420, 1301-1305 (2018) DOI: 10.1126/science.aau5445

この記事を書いた人

土屋 雄一朗
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任准教授。
北海道大学大学院修了(農学)。低分子化合物を使って、寄生植物がどのような仕組みで寄生しているのかを調べ、そこをたたくことで防除する方法を開発しています。植物であって植物らしからぬ生活をする寄生植物を調べることで、逆に普通の植物がよくわかるとてもおもしろい研究材料と思います。趣味は、日本酒とビールとカメラです。

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