南デンマーク大学 量子数学研究所 博士学生
元日本学術振興会特別研究員(DC2)。
専門分野は代数幾何学です。
学部生のときは少林寺拳法部の主将をしていました。
また大学院に進学してからは、すうがく徒のつどい(つどい@オンライン)というアマチュア数学者向けオフ会の運営としての活動を続けています。
2022年4月、友人とYouTubeチャンネル「線形代数勉強会」を開設しました。
多くの人が大学数学を楽しみ、また自学自習できる環境を整えたいと思っています。
この活動を通じて、純粋数学が現在でも発展し続けているという事実、その面白さをより多くの方々に知ってもらえれば幸いです。
数学の世界には代数、幾何、解析の分野があります。
皆さんは中学生の頃、三平方の定理を勉強されたと思います。
直角三角形の三辺の長さ(X, Y, Z)は
\[
X^2 + Y^2 = Z^2 \tag{1}
\]
を満たすのでした。
この式(1)を満たす整数の三組(X, Y, Z)は無限に存在することが示せます。
では次のような式を考えてみましょう。
\[
X^n + Y^n = Z^n \ (n \geq 3) \tag{2}
\]
この式を満たす0でない整数の三組(X, Y, Z)はどれくらい存在するでしょうか?
この場合そのような組はどのnについても一つとして存在しないことが証明されているのです(フェルマーの最終定理)。
この証明において重要な役割を果たした定理の一つに「谷山・志村予想(定理)」がありました。この定理によって代数の世界と解析の世界との間に橋が掛けられます。
このように数学の様々な分野の架け橋となるような理論の一つとして「ラングランズ予想」があります。私は研究を通してこのラングランズ予想の理解を深めようとしています。
ラングランズ予想それ自体は非常に難しく、「基本補題」と名付けられた予想でさえ解決されるまでに30年を必要としました。一方で、このラングランズ予想を曲線などの幾何学的な対象の上で定式化し直した「幾何学的ラングランズ予想」もあります。こちらでは、特に代数幾何学という分野で開発された多くの技術を利用することができ、研究も比較的進んでいると言えます。
そのようなこともあって、現在私は幾何学的ラングランズ予想の研究に取り組んでいます。
ところで数学には「圏」という、対象とその間の関係を表す射の集まりを説明する概念があります。圏は数学に限らず、情報科学など幅広い分野で使われています。
幾何学的ラングランズ予想は、とある2つの圏がうまい具合に対応するだろう、という内容で表すこともできます。
私はこの対応を「フーリエ向井変換」という道具を用いて説明しようとしています。これによって、取り組むべき問題が純粋に幾何学的な問題に帰着されるのです。
「幾何学的ラングランズ予想」とは、主に曲線の上でラングランズ予想の類似を行うものです。
私は、特異点を持った曲線上での幾何学的ラングランズ予想の解決に取り組んでいます。先にも述べたように、私はこの幾何学的ラングランズ予想を「フーリエ向井変換」という手法を用いて解決しようとしています。そのためにはまず、「接続のモジュライ」という空間の幾何学的性質を調べる必要があります。
この空間は一般に次元が高く、その幾何学的性質も複雑であるため、十分に調べられていません。私はこの空間の大部分が「曲面上の点のヒルベルトスキーム」に埋め込まれるという事実に着目し、高次元の問題を曲面という2次元の問題に帰着させて調べています。
この方法によって接続のモジュライ空間の幾何学的性質の一部を調べることができました。
現在は、フーリエ向井変換に必要な「層のコホモロジーの消滅問題」に取り組んでいます。
志村・谷山予想によってフェルマーの最終定理が解決したように、この場合のラングランズ予想が解決できれば「ミラー対称性」を始めとした様々な分野に応用できると考えられます。
私はこれまでにも幾何学的ラングランズ予想の特別な場合の研究を行い、証明に必要な一部の計算に成功しました。
しかしラングランズ予想それ自体の理解を深めることが難しく、また現在在籍している大学ではこの方向の研究に関して求めるレベルの指導を受けることが期待できないため、専門家の多いアメリカなど海外の大学へと留学することにしました。
幸い、この分野の大家であるペンシルベニア大学のR. Donagi先生とT. Pantev先生からサポートを受けることができており、関連した研究分野の数学者を紹介していただいたり、推薦書を書いていただいたりしてもらえることになっています。
現在は、学部生の頃からお世話になっていた塾で働きつつ、留学の準備をしたり数学の研究を続けたりしています。しかしTOEFLや大学院出願に関わる費用を捻出するために厳しい生活を送っています。
学術系クラウドファンディングは研究を続ける上で大きな支えになると考え、挑戦することにしました。
ご支援いただいた方々には、毎月活動報告をお送りします。その中で、現代数学の考え方や面白さもお伝えしたいと思います。
(2023年10月追記)2023年8月より南デンマーク大学にある量子数学研究所へ留学することとなりました。準備期間中、多くのサポーターの方々にご支援いただき、本当にありがとうございました。研究活動自体はここからが本番です。引き続きご支援頂けましたら幸いです。
松原さんは幾何学的ラングランズ予想の研究に向けて幅広く数学を学んでおられる上、「すうがく徒のつどい」の運営に関わるなどアウトリーチ活動にも熱心な方です。今回松原さんが月額クラウドファンディングを通してアメリカ留学の費用を募るとのことで、私も数学徒の一人としてその挑戦を応援すると共に、多様な学術研究のあり方のロールモデルとなって欲しいと期待しています。頑張って下さい!
実施中プロジェクト: コンピュータを駆使して低次元トポロジーの謎に迫る!
数学の各分野の架け橋となるような理論を生み出すことは、数学の研究における大きな仕事の一つです。松原さんはそのような研究に熱心に取り組まれています。また、最近ではYouTubeに大学数学の勉強動画をあげる活動を開始し、さらに今後は研究を深めるために海外の大学院を目指されるということで、様々なことに挑戦されている松原さんを研究者の一人として応援したく思います。ぜひ頑張ってください。
時期 | 計画 |
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2022年6月 | クラウドファンディング開始 |
2023年9月 | 海外大学院へ留学 |
2024年3月 | 論文執筆、学会発表 |
2026年9月 | 学位取得 |
2026年9月 | クラウドファンディング終了 |