過食・嘔吐を繰り返す摂食障害には、痩せ願望が強く低体重を示す「神経性やせ症(Anorexia Nervosa: AN)」と、過食とそれに伴う罪悪感が主体の「神経性過食症(Bulimia Nerbosa: BN)」があります。その有病率はこの20年間増加し続けており、前者は4倍、後者は0%だったものが2.23%まで増加しています。はっきりとした増加要因はわかっていませんが、食文化の西洋化に伴う高カロリーな食事への変化、コンビニエンスストアや自動販売機の普及で食事を簡単に手に入れられる環境変化、などが考えられています。
過食・嘔吐は長期化に伴い依存症のような状態となり、友人や同僚と食事を共にすることができなくなるなど、社会生活が困難になってしまいます。さらに、電解質異常、飢餓による肝機能障害、脱水による腎機能障害、胃酸による歯の酸蝕症など、さまざまな身体合併症によって入退院を繰り返すと、社会復帰も難しくなります。救命救急センターや集中治療室での治療を要することもあり、最悪の場合、死に至ることも稀ではありません。
英国のモーズレイ式心理療法や、認知行動療法などが開発されていますが、日本で実施できる機関は乏しく、また重症例の方では参加自体が難しいこともあります。
そこで私は、脳の特定部位を刺激できる「経頭蓋磁気刺激法」を用いて前頭前野に対する磁気刺激を行い、行動制御機能を改善させることで、過食・嘔吐を繰り返す摂食障害の治療につなげたいと考えています。
これまでの心理療法は、摂食障害の精神病理について自ら理解し、自己を少しずつ変容させようというアプローチでした。一方で、過食・嘔吐が完治した重症遷延性摂食障害患者さんは、体重が気になったり、さまざまな不安を抱えたりと、必ずしも過食・嘔吐以外の摂食障害に関わる病態が改善しているわけではありません。それでも、過食・嘔吐が改善し、体重を含めた身体面の回復が徐々に得られると、摂食障害の病態が少しずつ和らいでくるものです。このような回復例は、過食・嘔吐の治療では「いかにして行動を変容できるか」が重要であることを示しています。
過食・嘔吐を伴う摂食障害は嗜癖や依存症と近い病態と想定されています。嗜癖・依存の背景には、背側前帯状皮質、前部島皮質の機能低下が示唆されています。これらの脳部位は、サリエンスネットワーク(顕著性回路)を構成しており、衝動コントロールに関与していると考えられています。そこで本研究では、背内側前頭前野(DMPFC)と呼ばれる部位に磁気刺激を行い、サリエンスネットワークの改善を介して、過食・嘔吐を伴う摂食障害の治療法確立を目指します。
今回、背内側前頭前野に対する磁気刺激の、過食・嘔吐に対する有効性を証明するため、二重盲検試験を実施します。過食・嘔吐を伴う患者さんを、実際に磁気刺激を行う「実刺激群」と、実刺激に似た感覚を引き起こすだけの「偽刺激群」に分け、治療者側にもそれがわからない形で試験を行います。そのうえで、「偽刺激群」よりも「実刺激群」で過食・嘔吐回数が減少すれば、磁気刺激の有効性が証明されたことになります。
この磁気刺激自体は、現在当院でも、うつ病患者さんに保険診療で日々実施しています。うつ病に対する磁気刺激は高頻度刺激と呼ばれ、1日1回37.5分間、計15〜30回実施します。ただ、このプロトコルは、医療者側も患者さん側にも時間的な制約が大きい方法です。しかし近年では、シータバースト刺激と呼ばれる1回3〜4分で終了する磁気刺激法の研究が進んでおり、従来のうつ病に対する磁気刺激法(高頻度刺激)と有効性・安全性に差はないと報告されています。本研究での磁気刺激は1日1回、計20回としますが、シータバースト刺激を採用することで治療時間は従来の10分の1程度となり、大幅な時間的負担の軽減が得られます。
この試験で過食・嘔吐に対する磁気刺激の有効性を確認できれば、将来的には海外の研究機関とも連携し、大規模な国際共同研究に繋げたいと考えています。
今回クラウドファンディングに挑戦しようと決意した理由は、限りある公的な競争的資金では不十分であることは否めません。しかし、それ以上に、この活動を通してより多くの方に摂食障害治療の難しさや治療法開発の意義を知っていただくとともに、より多くの対象患者さんに本研究に参加してもらいたいと考えたからです。
今回のクラウドファンディングの目標金額250万円は、磁気刺激前後での脳機能変化を測定するための頭部MRI費用(約100万円)、負担軽減費としての謝礼(50万円)、二重盲検法を実施するシステムであるREDCapの構築費用(5万)とサーバー維持費(約35万円)、モニタリング実施費用(約10万円)、患者さんの健康被害補償を目的とした臨床研究保険(約50万円)として大切に使用させていただきます。
本研究を発展させることで、より大規模な二重盲検試験やAMED等の大型研究費獲得へのステップアップとし、摂食障害に対する磁気刺激療法が保険診療として認められることを目指します。さらに、その背景にある病態や治療メカニズムを解明し、将来的には過食・嘔吐の近縁にある様々な精神疾患の治療法開発に繋げていきたいと考えています。
ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
過食・嘔吐を伴う摂食障害は、重症化することや長期にわたる治療を要することが多く、日常生活に支障が生じます。家族療法や認知行動療法の有効性が知られていますが、日本では実施できる医療機関が限られています。本研究で用いるシータバースト磁気刺激は、1回3〜4分で施行でき、行動制御や抑うつにも効果が期待されています。この技術を応用した新たな治療法により、摂食障害患者さんの社会復帰が進むことを切に願っています。
摂食障害は、有病率の高い疾患ですが、治療法については試行錯誤が続いている状況です。心理的背景を持ちながら、病的食行動が習慣化すると、心理的トリガーなしに自動的に症状が続き、心理的対応のみでは変化が難しいことも少なくありません。薬物療法が一定の効果を示していることからも、心理だけではなく身体面への働きかけは重要であり、本研究が、治療法の開発への新たな知見をもたらすことが期待されます。
時期 | 計画 |
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2025年1月 | 倫理審査終了 |
2025年2月 | 患者さんのリクルート・研究開始 |
2027年3月 | 患者さんのリクルート終了・データ解析開始 |
2027年9月 | 学会発表・論文投稿 |
academist Journalに寄稿する研究報告レポートにお名前を掲載します。
このリターン実施は2027年9月を予定しています。
お礼のメッセージ / 研究報告レポートにお名前掲載
支援する2人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
本プロジェクトや摂食障害治療に関するオンライン講義を動画で配信します。
実施予定日は、2025年3月ごろを予定しています。
お礼のメッセージ / 研究報告レポートにお名前掲載 / オンライン講義の配信
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論文謝辞にお名前を掲載させていただきます。
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本プロジェクトや摂食障害治療に関するオンライン個別相談(1回1時間)を承ります。
実施予定日は、研究期間中における希望日をうかがって決定します。
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本研究に関するオンライン講義をご希望に応じて行います。具体的な内容や日程は個別にご相談いたします。
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本研究もしくは摂食障害に関する出張講義をご希望に応じて行います。具体的な内容や日程は個別にご相談いたします。
※ 場所によって、宿泊費・交通費を別途いただく場合がございます。場所は国内に限ります。
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本研究を論文化する際、「〜study」というような形で、本研究の内容を端的に表現することができる通称を作成していただきます。
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