茨城大学農学研究科修士課程1年生の頃、「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則さんと出会い、自然栽培という農業を初めて知り衝撃を受けます。「これは本当なのか?研究してみたい」と思い岩手大学連合農学研究科博士課程に進学、自然栽培研究の第一人者である杉山修一先生に師事します。自然栽培農家を100軒以上を訪ね、土壌・稲・微生物等を分析し、「自然栽培水田における窒素循環と収量成立機構」で農学博士号を取得。その後、研究職を経て、自然栽培で営農を行う農業法人Wakka Agriに入社、生産現場の世界に飛び込みます。現在は実践の立場から、自然栽培の農業技術確立を目指しています。
私が目指すものは、肥料や農薬を使わない自然栽培米づくりのメカニズムを明らかにすることで、世界中の農家が減肥料や減農薬のチャレンジに取り組める世界を作ることです。すべての農業が自然栽培になる必要はありませんが、少ない資源で、環境への負荷を減らし、高品質な作物を生産する技術はどんな栽培にも応用が出来るからです。
現在、肥料や農薬を使わない農業(以下、自然栽培)を行われている農地は僅かですが、その中には、滋賀県栗東市の水田のように、18年以上自然栽培を続け、安定的に高い収穫量が得られている事例も存在しています(Okumura, 2002)。また、論文化はされていませんが、宮城県の涌谷町や登米市でも20~30年以上自然栽培で高い収穫量を安定的に得られているケースもあります。このような事例が示すように、自然栽培は、特定の条件を整えることで実現可能になります。
特定の条件とは何なのか?そして、その条件をどのように作るのか?
そのための具体的な手法を研究し、検証していくことが私のチャレンジです。
academistを通じて集めた資金は、これらの研究活動を推進するための重要なリソースになります。
これまでの研究と実践(計8年)を通じ、自然栽培稲作で安定的に高い収穫量を得るためには、以下の3要因をコントロールすることが肝であると結論づけました。これからは以下3要因を人為的に制御できる、実践的技術について検証し、自然栽培稲作の技術的ハードルを大きく下げたいと考えています。
【要因1:水温】
肥料を投入しない稲作では、稲が吸収できる養分は土壌からの供給養分に依存します。土壌の養分供給力は温度に依存するため、田んぼの水温が低くては稲の生育も低調になります。この課題を解決するため、低コストに水温を高める技術を検証します。
【要因2:微生物】
高い収穫量が得られている自然栽培水田には、特定の微生物群集が形成されています。短い期間で、それらの微生物群集が形成される条件を検証します。
【要因3:雑草】
除草剤を使わない稲作では、除草作業の労働負担が極めて大きくなることが課題です。一方で、雑草も発芽には日光が必要であるため、田んぼの水が常に濁っていれば雑草リスクが極めて小さくなることも分かっています。水路にマイクロ水力発電を設置し、そこで生産したエネルギーで常に田んぼの水を常に濁らせる技術を検証します。
私は博士課程において、東日本を中心に100以上の自然栽培農家を訪れ、なぜ一部の自然栽培水田では無肥料に関わらず高い収量が安定的に得られているかを研究してきました。
その後、自然栽培に取り組む農業法人Wakka Agriに就職し生産に携わりながら、研究を通じて構築した理論を、実際の現場で検証する活動を5年間行ってきました。
理論通りにいったこともあれば、理論通りにはいかなかったこともあります。
現在は生産現場に立つ者として、自然栽培稲作理論を学術的なものから実践的なフェーズに昇華させたいと考えています。
これまでの実践的アプローチにおいて、1. 水田内に仕切りを作り水温を上昇させながら入水する仕組みの構築、2. 自然栽培歴が異なる水田土壌微生物のメタゲノム解析により、特定の窒素固定細菌が自然栽培歴に比例して増加しているデータの取得、3. 地元大学やメーカーから提供を受けた除草機の実証を行っています。
学術的なアプローチをして得られた研究成果を、生産および農業経営という観点で検証し、現場レベルにまで落とし込んでいく取組に大きなやりがいを感じています。
資金を集め実証研究にドンドン投資する。得られた発見や成果をネット空間で広く共有し、全国各地の実践者やサポーターにフィードバックする。academistでは、そうした活動が出来るのではと考えました。
例えば、今年試したいアイディアのひとつに、“農業用水路で活用できる小水力発電装置を用いた水田除草装置”があります。この実証研究には、まず初期投資として数十万という資金が必要で、私が日常業務と並行して機械工作を行っても機械開発は中々進まないでしょう。しかし研究資金があれば、初期投資に踏み切れ、プロに試作を委託し実証スピードを格段に速めることが可能になります。
実証研究が上手くいけば、全国各地の農業者がチャレンジできるよう、academistを通じ成果や情報が共有可能です。各地での取組がまたacademistを通じてフィードバックされ、社会の知的な共有財産となり、また新たなアイディアや実践例が全国各地で広がればそれ以上に嬉しいことはありません。
私がacademistに挑戦する理由は、academistが”仲間達とスピーディーに研究を進められるプラットフォーム”だと考えたからです。
自然栽培と呼ばれる無肥料・無農薬での作物栽培は,篤農家の経験から生み出された日本固有の技術です。細谷君は,私の研究室で,自然栽培の稲作研究で博士の学位を取得し,その知識と経験を生かし,現在,長野県の限界集落の再生を試みています。最近,自然栽培の科学的解明が進み,無肥料で作物の栽培が可能になるメカニズムも分かってきました。今後は,現場での実践を通じて地域の実用技術に展開することが求められており,この研究課題の成果に期待しています。
細谷さんは、過疎高齢化が深刻な中山間地域で稲作に取組みながら自然栽培の研究に挑んでいます。集落に移住し、住民と協働で農地を守り、地域の小・中学校の食育・農育支援や農学部の大学生に実習・研究の機会を提供するなど食・農・環境の学びを提供しています。化学肥料と化石燃料に依存する農業と食料流通を見直し、持続的な地域資源の利用を基盤に資源と人が循環する持続的社会の形成に、細谷さんの研究活動は貢献すると期待しています。私も学生と共に学び応援します。
時期 | 計画 |
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2023年6月~ | 水田圃場にて各種センサーを設置、稲の成長に及ぼす土壌養分・水温・微生物関連データを網羅的に取得する |
2023年12~2024年3月 | データ解析および論点の整理、次年度の研究計画構築 |
2024年4月~ | ポイントを絞った研究計画に従い圃場試験を実施 |
2024年12~2025年3月 | 自身の博士論文と対比させながら、実践的見地から自然栽培稲作の成功要因を分析する |
2025年4月~ | オンライン上で研究内容の発表、有志を募り得られた知見の横展開にチャレンジ |