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Fumitaka WATANABE

Kyoto University、研究員

Challenge period

2022-11-01 - 2025-03-31

Final progress report

Mon, 11 Nov 2024 22:34:23 +0900

Progresses

51 times

Supporters

42 people

Elapsed time

Tue, 01 Nov 2022 10:00:00 +0900

#21 活動開始からの振り返りと研究の進捗

このacademist Prizeは、博士論文の執筆真っ只中、2022年11月にスタートしたものでした。テーマとしては、博士号の取得後に取り組みたいプロジェクトに関する資金調達活動でした。そのため、博士論文の完成までは、思うような時間が取れずに苦慮していました。

そのような中、既に40名以上の方々にご支援いただいており、心から感謝しています。
本当にありがとうございます。

2023年3月に無事に博士号を取得でき、本業のファンドレイジング実務の傍らではありますが、この研究プロジェクトの活動に注力してきています。

10か月のプロジェクトの折り返しの2023年2月27日の段階では、「上半期アカデミスト賞」において、ベストアウトリーチ部門とベストパフォーマンス部門の2部門受賞という栄誉を得ることができました。

ただ、上記は「ビジョンを語る」ということに対しての賞であり、決してその現実的な進捗が評価されたわけではありません。次回、5/24のイベントではこの記事を含めた「研究の進捗」が評価対象となりますので、それに向けて努力をしているところです。

本記事では、このプロジェクトの進捗を記載していこうと思います。

1.本研究の概要

本研究は、科学的な(根拠のある)寄付募集活動を日本の複数の大学において実践していただくためのアクション・リサーチ(Coughlan & Coghlan, 2002; Erro-Garcés & Alfaro-Tanco, 2020)を実施し、研究への寄付募集にとって有益な示唆を生み出すことを目的としています。

科学的な寄付募集とは、経営学におけるEvidence-Based Management(EBMgt)(Madhavan & Mahoney, 2012; Rousseau, 2006)に基づいた寄付募集活動を指します。

近年のScience of Fundraising(Whillans, 2016)の発展や、AIツールの発展によって、このような実践が可能になってきたという背景もあります。

EBMgtが寄付募集のみならず、大学の研究・教育にも普及することで、資金確保とその効果的な活用がさらなる資金確保につながる、という好循環を目指すことができます。

これによって、危機に瀕している日本の大学の10年後を少しでも良い方向に変えていければと考えています。

広い意味では、このプロジェクトは、「大学は、その『知』を使って、自らの危機を克服することができるのか?」という問いに取り組むものです。もし、自らの組織の課題すら克服できないのならば、危機に瀕する社会に対して、大学がその知によって貢献する、といったことは高すぎる望みなのかもしれません。逆に、大学が自らの組織の危機を克服できるならば、より高い能力を得た大学が、今後の社会に貢献できる幅や可能性はより高まると思われます。

本プロジェクトは、大学を一種の社会的共通資本として捉えています。寄付を(公共財への直接的な支出ではなく)公共財を生み出す装置(=大学)への投資に用いる、という条件下で、寄付募集はどうすれば高い成果を得られるのかを模索するものです。このあたりについては、下記記事をご参照ください。
https://academist-cf.com/fanclubs/274/progresses/2614?lang=ja#documentBody

2.ご支援の活用状況

これまでいただいたご支援の活用状況は、下記の記事としてアップしました。下記記事の段階で、414,256円のご支援をいただき、127,450円を支出しました。
https://academist-cf.com/fanclubs/274/progresses/2716?lang=ja#documentBody

直近では、今回のプロジェクトで社会実装を目指している「寄付募集の科学」に関連した国際学会での発表のための旅費・宿泊費にもあてさせていただく予定です。

質的な面では、ご支援をいただいていることの緊張感が、プロジェクトの進捗を生み出す上で大変良い方向に作用しているように感じております。

3. 先行研究調査の進捗

本研究では、大学の寄付募集にとって重要な先行研究の調査が必要とされます。

これについては、医学研究への高額寄付募集という領域に区切ってのものとはなりましたが、査読付きのレビュー(渡邉, 2023)が既に公開されており、ある程度の進展が見られたと考えています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrpim/37/4/37_449/_pdf

研究への寄付募集においては、大規模な大学が有利であろうことが理論的にも日本国内のデータからも予測されます。日本ファンドレイジング協会大学チャプターの調査では、大学・研究機関758法人のうち、上位1%の機関が寄付金全体の30%を確保しているとのことです。
https://jfra.jp/pdf/ecosystem/roadmap_daigaku_220215.pdf

寄付を募る組織は、コストを上回る寄付を提供してくれるであろう人が市場にいないと認識している状況では、ファンドレイジングへの投資を行いません(Name-Correa & Yildirim, 2013)。高額寄付を前提とした大学ファンドレイジングでは、不利な大学はファンドレイジングに対して投資を行わず、その結果さらに格差が広がるという状況が予測されます。

ところが、研究費が特定の研究者や研究機関に集中配分されても、論文数やTop10%論文数、被引用数などは直線的には伸びず、資金規模に対して成果が逓減するという指摘がされています。
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20230323/siryo1.pdf

したがって、寄付募集においても、小規模大学やブランド力の低い大学で、不利な条件をどう乗り越えるかが課題となります。

ただ、日本のみならず米国においても、寄付市場はいわゆる断片化市場であり、新規参入が極めて難しいような市場ではありません(渡邉, 2022)。多くの参入者にチャンスがある市場であり、たとえばExperiment.comという研究のためのクラウドファンディングでは、若手研究者や学生の方が(シニアな研究者よりも)むしろ有利であるとの報告もあります(Sauermann et al., 2019)。

大規模大学においては、国際競争の中でさらなる資金確保が重要であるため、大規模大学がいかに効率的に寄付を募るのか、も重要な課題です。特に、日本においては高額寄付募集に関する研究が非常に少なく(渡邉, 2023)、理論的な研究を日本のデータで実証することが求められています。

これまでの数か月の研究によって、マーケティング論の中のどの分野の理論やフレームワークを使うのが最も適切であると考えられるか、マーケティング論の中のどのレイヤーについてアクションを行うのか、について絞り込むことができました。一言で「エビデンス」といっても膨大にありますので、この点は重要な進捗だったと考えています。

また、寄付の特性である「顧客が価格を決める」という特性に対応するために、寄付の「値決め」について研究し、行動経済学会で発表することができました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbef/15/Special_issue/15_S36/_pdf

4.リサーチクエスチョン検討の進捗

本研究では、下記のリサーチクエスチョンへの回答と実務への示唆を追究します。暫定版ではありますが、下記のとおり記載したいと思います。

1)大学等においてEBMgtを用いた研究ファンドレイジングを実践する上で、何が障害になるか。また、その障害を取り除くうえで、どのような要因やアクションがいかなるプロセスを経て寄与するのか。

2)大学等においてEBMgtを用いた研究ファンドレイジングを実践することで、寄付件数や寄付額といった成果はどの程度向上するのか。それらの成果に対して、どのような要因やアクションがいかなるプロセスを経て寄与するのか。

3)大学等において、EBMgtが他の業務にも応用され、寄付募集との好循環が生み出されるには、どのような要因やアクションがいかなるプロセスを経て寄与するのか。

5.研究方法の検討の進捗

本プロジェクトは、大学における研究のための科学的な寄付募集に関するアクション・リサーチについて、複数の事例を長期にわたり比較するものです。要素を分解すると、下記のような幾つかの特性が見出されます。これらの特性に沿って、関連する文献を調査する必要があります。

1)Longitudinal study(Huber, 1995)であること

2)Action researchであること

3)Multiple case comparisonであること

4)Science of Fundraisingに関する研究であること

5)Evidence-Based Managementを題材にしていること

6)研究に関する研究(Research on research)であること

これらのうち、1)、2)、3)は修士課程で取り組んだプロジェクトと共通した、3)と4)は博士課程で取り組んだプロジェクトと共通した特性です。

しかし、5)や6)については予備知識がかなり不足しており、その分野の中心的な文献を探して読み込むことに取り組んできました。(また、修士の頃の取り組みは文献検索があまりできない環境にいたこと、文献検索スキルがまだ低かったことから、1)と2)についても再度文献をチェックしなおしています)

これまでのところ、
・Action researchの厳密性を確保する上で、ComparativeなLongitudinal studyであることは利点がある

・FundraisingについてのAction researchやEBMgtについては文献があまり多くない

・特に、Strategic Managementなどのマクロな領域においてはEBMgtの必要性は高い(しかし、観察研究が多い分野のため、Meta-AnalysisなどでのSynthesisが図りにくく、Case comparisonは有益)

など、本プロジェクトが(もし実現できたならば)筋の悪いものではない、ということが言えるように思っています。

6.データと分析手法の検討の進捗

本研究で最も重要な点の1つは、データを提供してくださる組織がどれくらい確保できるかという点です。これが本プロジェクトの実現可能性を決めます。

現時点では、いくつかの大学と研究機関が前向きな検討をしてくださっており、アクション・リサーチが実施できる可能性が出てきています。

また、パイロットプロジェクトとして、教育へのファンドレイジングに関するアクション・リサーチも2件ほど、実施する予定です。

本研究では、インタビューデータ、観察データ、アーカイバルデータ(寄付募集活動の結果の数値など)などを入手することを想定しています。

また、アクション・リサーチの中でアンケートや実験的な取り組みを行う場合には、アンケートデータや実験データも入手できる可能性があります。

本研究は、最終的には各大学においてファンドレイジングの実務者が自分たちでデータを分析し、EBMgtを実践していくことを想定しています。そのため、データの分析方法としては、できる限り平易なものを用います。

アクション・リサーチの第2期では、各大学のファンドレイザーからもアクション・リサーチャーを募りますが、寄付募集をする人々が研究者的な活動を行うことで、「寄付募集の科学」が社会実装されると考えています。

7.今後の予定

2023年5月
・パイロットプロジェクトとして、教育へのファンドレイジングに関するアクション・リサーチの開始予定。

2023年6月
・寄付募集の科学に関連した研究をサービス分野の国際カンファレンスであるQUIS18(ベトナム・ハノイ)にて発表予定。

2023年7月
・寄付募集の科学に関連した研究を、非営利組織関係の国際学会にて発表予定。
・第1期アクション・リサーチ参加大学等を募集(約3~5校)、説明会実施。

(その後の予定はacademistのページをご参照ください)
https://academist-cf.com/fanclubs/274?lang=ja

8.参考文献

Coughlan, P., & Coghlan, D. (2002). Action research for operations management. International Journal of Operations & Production Management, 22(2), 220–240. http://www.dep.ufmg.br/old/disciplinas/epd804/artigo3.pdf

Erro-Garcés, A., & Alfaro-Tanco, J. A. (2020). Action research as a meta-methodology in the management field. International Journal of Qualitative Methods, 19, 1609406920917489. https://doi.org/10.1177/1609406920917489

Huber, G. P. (1995). Longitudinal Field Research Methods: Studying Processes of Organizational Change (Vol. 1). Sage.

Madhavan, R., & Mahoney, J. T. (2012). Evidence-based management in “macro” areas: The case of strategic management. In D. M. Rousseau (Ed.), The Oxford Handbook of Evidence-Based Management. Oxford University Press.
https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780199763986.013.0005

Name-Correa, A. J., & Yildirim, H. (2013). A theory of charitable fund-raising with costly solicitations. American Economic Review, 103(2), 1091. https://doi.org/10.1257/aer.103.2.1091

Rousseau, D. M. (2006). Is there such a thing as “evidence-based management”? Academy of Management Review, 31(2), 256–269.

Sauermann, H., Franzoni, C., & Shafi, K. (2019). Crowdfunding scientific research: Descriptive insights and correlates of funding success. PLOS ONE, 14(1), e0208384. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0208384

Whillans, A. V. (2016). A Brief Introduction to the Science of Fundraising. https://www.case.org/system/files/media/file/Whillans_whitepaper_2016_FINAL.pdf

渡邉文隆. (2022). 寄付市場の成長ドライバー・断片化・公正性―SCP パラダイムと市場の質理論の視点から―. ノンプロフィット・レビュー, 22(1), 33–48. https://doi.org/10.11433/janpora.NPR-D-22-00004

渡邉文隆. (2023). 医学研究への個人高額寄付募集の戦略に関する考察―効用ベース・アピールベースのアプローチの統合と実務への示唆─. 研究 技術 計画, 37(4), 449–465. https://doi.org/10.20801/jsrpim.37.4_449

※写真は、全く関係ありませんが季節感があっていいかなと思い追加しました。

Fumitaka Watanabe Tue, 09 May 2023 20:49:15 +0900
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