挑戦期間
2019/04/18 - 2025/03/31
最終活動報告
2024/11/25 21:45:30
活動報告
59回
サポーター
18人
経過時間
2019/04/18 12:00:00
理化学研究所・数理創造プログラム (iTHEMS) 基礎科学特別研究員。トポロジー専門。22歳で東京大学理学部数学科を卒業し、その後9年間ソフトウェアエンジニアとして民間企業で勤務。31歳にして再び数学を志すため、東京大学大学院・理科学研究科修士課程に進学。3年かけて修士課程を修了し、続けて同研究科の博士課程に進学。37歳で博士号(数理科学)取得。数学が与えてくれる喜びを、できるだけ多くの人と共有したいと願っています。(2022年4月更新)
「トポロジー」は数学の一分野で「柔らかい幾何学」と呼ばれることもあります。小学校や中学校では三角形と四角形は異なるものとして扱いますが、トポロジーではこれらを「同じもの」とみなします。対象の図形をグニャグニャと動かして移し合えるものは同じということにするのです。
奇妙に感じられるでしょうか? でも実は数学者でない人でも日常的にこのようなものの見方をしています。「まぁるい緑の山手線♪」という歌があるように、山手線は路線図では丸く描かれています。しかし地図で見てみると「丸」とはかけ離れた形をしています。それらを「同じ山手線」だと思えるのは、私たちは頭の中で2つのものを変形して移し合えるからです。私たちには潜在的にトポロジカルな認知能力が備わっているのです。
18世紀のオイラーによる先駆的な仕事の後、20世紀にポアンカレによってトポロジーは創設されました。トポロジーでは紐だったり曲面だったり、日常的に触れられるものが多く出てきます。それにも関わらず、20世紀になるまで「トポロジーは数学でなかった」のです。これはなぜでしょうか?
数学は感覚的に理解することも大切ですが、同時に論理的に正確でなければなりません。「グニャグニャと動かして移し合える」というのは感覚的な表現で、数学としてはその関係性を数式で表す必要があります。その具体的な方法は......少なくとも中学校や高校で学ぶ数学の延長線上にはなさそうですよね。歴史的にも「トポロジーが数学になる」まで、数々の天才たちによる数学の革新が必要だったのです。トポロジーには「手で触れて動かせるような楽しさ」と「それを正確に扱うための奥深い理論」があり、僕はその二面性に強い魅力を感じています。
ポアンカレの名は「ポアンカレ予想」で聞いたことがあるかもしれません。ポアンカレ予想は1904年にポアンカレによって提出された「単連結な3次元閉多様体は3次元球面と同相か?」という問題です。詳細はここでは触れませんが、これは大変な難問でした。多くの数学者が人生を賭けて証明に挑み、約100年の時を経てようやくペレルマンによって証明が与えられました。
この証明に至るまでにはどのような過程があったのでしょうか? ポアンカレ予想以前から、1次元・2次元では対応する主張が正しいことが知られていました。下図は2次元の場合に、「単連結な閉曲面は球面に限る」ことを示すイメージ図です(画像はWikimedia commonsより引用)。次は3次元、その次は4次元......となるかと思いきや、現実は違いました。1960年にスメイルによって5次元以上の場合が、1982年にフリードマンによって4次元の場合が証明され、なんと3次元が最後に残った「最も難しい次元」だったのです!
どうやらトポロジーの観点では、私たちの住む3次元空間と時間も入れた4次元空間には「特殊な複雑性」があるようです。この3次元・4次元にフォーカスしてトポロジーを研究するのが「低次元トポロジー」と呼ばれる分野です。
低次元トポロジーの研究においては、「結び目」が、「3次元多様体の骨格」としての重要な役割をもちます。結び目とは3次元空間に浮かぶ絡まった輪っかのことです(下図はKnot atlasより引用)。結び目はそれ自体として興味深い研究対象でもあります。
結び目に関係する身近な現象として、イヤホンやネックレスが絡まってほどけなくなることはよくありますよね。数学的にも「与えられた結び目がほどけるか?」はとても難しい問題です。2000年、数学者コバノフは結び目を研究する革新的な手段「コバノフホモロジー」を考案しました。これは結び目の射影図を使って構成される代数的な対象なのですが、結び目のコバノフホモロジーを計算することで、その結び目が「ほどけるかどうか」が判定できてしまうのです。コバノフホモロジーはコンピュータでも正確に計算できます。
僕はプログラマでもあり、コンピュータを使った数学の研究に興味があります。修士課程の研究ではコバノフホモロジーの計算プログラムを開発し、その実験結果をとおして「ラスムッセン不変量に類似する結び目の不変量」を数学的に構成しました。博士課程ではこの結果をさらに深め、コンピュータを駆使して低次元トポロジーの謎に迫っていきたいと考えています。
僕は一度数学から離れ、9年間ソフトウェアエンジニアとして働いてから再び数学に戻ってきました。その過程ではさまざまな葛藤がありましたが、一度大学を離れたことは結果的によかったと思います。
大学を去った当時は、僕が好きな数学の分野を学び続けることが将来につながるように思えず、仕事に数学を使う気もありませんでした。その後ソフトウェア技術を巡る動向は年々変わっていき、VR/AR 技術の普及やAIブームを背景として、プログラマたちの間で数学に対する関心が高まっていることが感じられました。2015年に「プログラマのための数学勉強会」を開催したことをきっかけに、再び数学を学びなおす決心をしました。
31歳で大学院に進学し、入学後はずっと学力不足を埋めるのに必死でしたが、3年かかって書いた修士論文は「研究科長賞」を頂くこともできました。指導してくださった先生や、助けてくださった先輩方や仲間たち、支えてくれた家族に心から感謝しています。
近年は学び方・働き方に対する価値観も変わってきているなかで、再び学生となって専門知識を身に付けたいと望んでいる社会人も増えているようです。しかし生活に必要な収入と学業に必要な時間のトレードオフは重大な問題です。僕は所属していた企業を退職して研究と育児を両立してきましたが、家計はずっと赤字でした。企業に所属しながら学位の取得を目指す「社会人ドクター」の道もありますが、そちらは研究に充てられる時間が制限されてしまいます。
この困難を乗り越えるうえで学術系クラウドファンディングは強力な助けとなるではないかと思い、このファンクラブを立ち上げることにしました。在学期間中に継続的なご支援をいただくことができれば、経済的・精神的により安定して研究に集中できるようになります。僕がクラウドファンディングでご支援をいただきながら博士号を取る事例となり、後続の方々にも道を開ければと思っています。
僕のチャレンジを応援してくださる場合は、ご支援をいただけるとありがたく思います。ご支援のお返しとして、毎月活動報告をお送りさせて頂きます。僕のチャレンジが他の方の助けとなり、多様な学びのあり方を促進する一助となれたら嬉しいです。
(2020年4月 追記) 博士課程二年目となる 2020年4月より日本学術振興会の「特別研究員(DC2)」に採用されることとなりました。特別研究員には月額 20万円 の研究奨励金が支給されます。上に書いた「経済的困難」に対する不安は解消されることとなりましたので、追記しました。今後もこれまでと変わらず、サポーターの方々には毎月研究報告書をお送りさせて頂きます。ご支援頂けましたら幸いです、どうぞよろしくお願い致します。
(2022年4月 追記)2019年4月、博士課程進学と同時に当ファンクラブを開設し、3年を経て数理科学の博士号を授かることができました。これまで累計100名を超すサポーターの方々にご支援頂き、経済的にも精神的にも支えて頂きました。本当にありがとうございます。こちらから3年間の研究成果をまとめた活動報告をご覧頂けます。
2022年4月より理化学研究所・数理創造プログラム (iTHEMS) の基礎科学特別研究員に着任しました。これまでの数学の研究を継続しながら、教育やアウトリーチ活動にもさらにコミットして行きたいと思います。今後の活動も応援して下さる方は、ご支援頂けましたら幸いです。
時期 | 計画 |
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2019年4月 | academist fanclub開始 |
2019年4月 | 修士論文の内容について学術誌への論文投稿 |
2019年5月 | 研究集会で講演(京都) |
2019年6月 | 研究集会で講演(金沢) |
2022年1月 | 博士論文提出 |
2022年3月 | 博士課程修了・学位取得 |
2022年4月 |
academist fanclub 継続(+3年)
(以下、2022年4月追記) |
2023年3月 | 論文1 完成 |
2024年3月 | 論文2 完成 |
2025年3月 | 論文3 完成 |
2025年3月 | academist Fanclub 終了 |