子どもは遊びや生活のなかでのさまざまな体験を通し、あるいは環境と対話することで、さまざまな感受を得ています。そしてその経験は、豊かな表現にもつながっています。
たとえば、ただ元気よく大きな声で『夕焼け小焼け』を歌っていた5歳児の声も、歌詞に描かれた情景を体験(すべり台の上から夕日を眺めたり、鐘の音に耳を澄ませたり)することで、「(ぶつぶつ切らないで)つなげて歌った方がいいと思う」と歌い方の工夫をみつけ、「なんだか寂しい感じがしてきた」と歌のイメージを言葉にするようになるのです。また、園内で風の音をみつける活動を行なった5歳児は、その後、壁や床に耳を当てて音の変化を感じ取り、「赤ちゃんの耳は床にあるんだから、静かに歩くようにしよう」と声を掛け合うようになりました。さらに、遊戯室で遊ぶ5歳児に「目を閉じて、まわりの音を聞いてみよう」と保育者が問いかけると、「先生、風の優しい音が聞こえてきた」や「オレ、自分の命の音が聞こえてきた」といった気づきがありました。
このように、感性的な体験は感情に働きかけ、それらを言葉にしたり実際に表現に反映したり、あるいは行動が変容するなど、豊かなアウトプットにつながっています。
私はこれまで、子どもの音の感受についての研究を行ってきました。たとえば、10種類の「ハイ」の音声を制作し、その録音を聞いた5歳児が、どんなときにどんな感情で発せられた「ハイ」なのか、その状況を具体的に想像し説明できることが明らかとなりました。また音響の異なる場での行動分析により、その場の響きが子どもの遊びに影響を及ぼしていることなども見出しました。このように、子どもが身の回りの音や自ら生み出す音、人の声、音楽からその印象を感じ、共鳴し、感情が起こり、さまざまな連想を引き起こす行為を「音感受」と命名しました。
さらに、音感受を用いた保育の実践も行っています。グランドピアノの音に耳を澄ませた2~3歳児に、保育者が「この蓋の中には何があるのだろう」と問いかけ、閉じた蓋の中を想像し、絵に描いてもらいます。その後蓋が開けられると、子どもたちの眼はピンと張った弦と打ち上げられるハンマーに釘付けになり、弦の太さと音の高さとの関係や音の出る仕組みに興味を示すのです。
こうして「音」を切り口に研究や実践を進めるなかで、子どもの多感覚的な感受が、思考力や想像力、科学への芽生えにつながるのではないかという推測に至りました。
今後は、感受の対象を「音」から拡大し、多感覚的に環境と関わることから得た感性的なインプットの蓄積が、子どもの主体的な思考、発想や連想、言葉や表現といった豊かなアウトプット、そして意識の変容や科学する心につながっていることを明らかにしていきます。
そのために、5歳児およそ30人を対象とし、保育者の協力を得て継続的な観察調査を行なっていきます。具体的には、感性的な出会いのある環境と子どもがその環境に入り込んでいく働きかけを構成し、それによる子どもの変容について調査をします。
1)「気づき」の体験の可視化と言語化
子どもに「気づき」の体験をカメラで撮影してもらいます。その写真の量的分析から気づきの対象の変化を見出すとともに、撮影した写真についての説明を子どもに求め、思考力や語彙、言語表現の変化を量的・質的に分析します。
2)多感覚的な感受体験から広がる表現・思考の深化
ある絵画や写真を見た印象を、言葉で表現したり音で表したりしてもらいます。逆に音楽を聴いた印象を、絵や色で表したり物語に表現したりすることを求め、複数の分析者と共に、子どもの感受と表現、思考の変化を明らかにしていきます。
これらの研究成果は論文にまとめるとともに、動画や講演を通し、日常の風景を体の諸感覚で感受することが、子どもの豊かな感性・表現に加え、学びに向かう力、思考力・判断力を育むことを保育者や保護者に伝え、実践に役立てていきたいと考えています。
今回いただいた支援は、調査のなかで子どもに使用してもらうカメラの購入費用として使う予定です。子どもが目を止める日常の風景は、砂場の水遊びのなかにあったり、水たまりであったり、あるいは雨の日の風景であったりするため、子ども用の防水カメラを考えています。
近年の保育では、出来栄えや見栄え、早期教育に保護者の関心が寄せられがちです。保育者の指示通りに音を出したり、ドレミの音を言い当てたりする体験よりも、遊びや生活のなかでの感性的な出会いや心動かす体験を大切にする本来的な保育の姿、そのことが子どもの「感じる・考える・工夫する」表現のプロセスの質の充実、思いや意図を持って表現すること、さらには学びに向かう力や思考力・判断力につながるということを広く社会に訴えていくことが、本研究の最終目的です。
共同研究者
立川泰史・東京家政学院大学・教授
柳瀬洋美・東京家政学院大学・准教授
和田美香・東京家政学院大学・准教授
原田晋吾・東京家政学院大学・助教
末松加奈・東京家政学院大学・助教
佐藤冬果・東京家政学院大学・助教
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時期 | 計画 |
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2022年2月 | 調査計画を倫理委員会に提出 |
2022年3月 | 協力園での打ち合わせ、予備調査 |
2022年4月 | 調査開始 データ収集 |
2022年8月 | データ検討・学会発表等準備 |
2022年9月 | 研修動画制作 |
2022年秋~2023年春 | 学会発表及び論文発表 |
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