こちらでご支援いただいた資金をもとにおこなった調査にもとづく論文が、このたびJournal of Economics and Management Starategyという企業経営に関連する経済政策の分野上位誌に無事受理されました。最新のプレプリントは以下のサイトで閲覧することができます。https://osf.io/preprints/socarxiv/cnqmr/
この論文では、今回のコロナ禍のような政策決定のためのデータが不足する危機下でどのようにエビデンスにもとづく意思決定をすればよいかについて一つの分析フレームワークを提示しています。
持続化給付金や雇用調整助成金などの補助金の支給やその額を決定するためにはそれが中小企業の存続などの政策目的にどれだけ資するものかを考慮する必要がありますが、そうした政策の効果は、通常、実際に支給を行って事後的にデータを収集して因果推論を行って初めてわかるものです。
しかし、結果の実現を待っていては危機下の政策決定には間に合いません。そこで、この論文では、企業の経営者に企業の存続確率などの業績予測を聞き取り調査し、その業績予測を結果変数に用いた因果推論を行うことで、結果の実現前に迅速に政策評価を行うという方法を提案しました。また、そのようにして行った事前の因果推論の結果と、事後的にデータを収集して行った因果推論の結果が、方向性においておおむね一致することを、持続化給付金と雇用調整金を例として示しました。
残念ながら、今回の分析が直接的に政府の政策決定を助けるということにはなりませんでした。しかし、こうした研究を積み重ねていくことによって、次の危機が生じたときに、より迅速に、より正確な現状把握と政策決定ができるようになればと考えています。皆様のご支援で実現する今回の分析がよりよい政策決定のための一筋の光明にでもなればと願っております。改めてご支援ありがとうございました。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延にともなって、移動制限、都市封鎖、自宅待機などの社会・経済活動への大幅な制約をともなう政策が、各国政府によってとられています。米国での失業保険申請の急増などの指標にすでにあらわれているように、こうした政策がさまざまな企業や家計の経済状況に深刻な影響を及ぼすことは十分に予測されています。米国を中心に、即時性の高い経済指標を用いて、その影響の評価が進んでいます。
ところが、日本では、即時性の高い経済指標が少ないことから、GDPがおおよそ20%ほど失われるのではないかといった粗い予測を除いて、正確な影響評価がなされていません。また、緊急事態宣言を1週間延ばすとどの程度の経済的な影響が生じるのか、オリンピックが開催できなくなるとその影響はどの程度広範にわたるのか、持続化給付金などの救済策は企業の事業継続の手助けになったのか、などといった個別の政策効果の分析も進んでいません。
また、特に深刻な影響が予想される、自営業や自由業を含む小規模企業の経営については、そもそもの統計調査が乏しく、今後も分析が進まない恐れがあります。こういった状況が、専門家会議での実証的な証拠にもとづいた議論を推進する妨げとなっています。今回の研究を始めたきっかけは、この政策意思決定上の大きな穴を誰かが埋めなければならないと考えたからです。
今回は、コロナ禍のような危機の影響を最も受けやすい、自営業者や自由業者を含む小規模企業の経営者に対して実証研究を行い、政策意思決定に役立てたいと考えています。目的はいくつかの細目に分かれます。
第一の目標は、4月から5月にかけて全国で実施された緊急事態宣言と休業要請がもたらした経済への短期的な影響を明らかにすることです。休業要請を受けた企業の4月の売上げはどの程度減少したのか。5月に緊急事態宣言が部分解除されたとき、企業の第二四半期の業績予測や投資、雇用などの計画はどの程度改善したのか。こうした点を調査することで、防疫と経済のトレードオフを明らかにすることがここでの目的です。
第二の目標は、緊急事態宣言とあわせて新設された持続化給付金や臨時に強化された雇用調整助成金などの給付金が、感染症対策の短期的な経済的影響を軽減することに役立ったのかを検証することです。具体的には、持続化給付金の受給の見込みがたつことで、年度末まで事業を継続できる見込みは高まったのか、雇用調整助成金を受給できることで雇用者の休業は増えたのか、といったことを検証します。
第三の目標として、2020年末に向けて、企業が中期的にどのような業績の展望を抱いているのか、その展望は、感染の終息やオリンピックの開催見込みといった新型コロナウイルス禍の中長期の展望とどのように関係しているのかを明らかにします。これによって、今感染症体制を強化することの、経済への中期的な便益をある程度見積もることができるようになります。
また、第四の目標として、今後、第三四半期、第四四半期と時間を経ていくにつれて、実際の企業の業績がどのように推移していくのか、現時点での予測と実績はどの程度乖離するのか、各時点での将来展望はどのようにアップデートされていくのか、特に、秋から冬にかけて再来するとされている、感染の次の波に対して経済はどのように反応するのか、ということを把握していきたいと考えています。
第1回の調査結果の分析から、一つ目の目標から三つ目の目標にかけてはある程度の答えを得ることができました。まず、5月8-9日調査と15-17日調査の間には緊急事態宣言の部分解除があったため、全国的な解除時期の予測がこの期間だけで早まるとともに、その不確実性も減少しました。これに関連して、わずか1週間足らずのあいだに、売上げ予測や投資計画にも改善が見られています。
次に、持続化給付金の効果については、1-4月の売上げ前年同期比が50%を下回るか否かという閾値で、回帰不連続デザインという手法を用いることで、企業の継続確率を19%ポイントほど押し上げることがわかりました。
一方、雇用や投資の計画への影響はなく、ほどよい金額であったと評価できます。雇用調整助成金については、そもそも受給できると考えている企業がほとんどなく、効果がでていません。日ごろから雇用者と経営について相談している企業の場合は受給見込みが高くなっていることから、経営者と雇用者の関係が良好な企業でない限り効果が見込めないのかもしれません。
調査対象の企業の経営者たちは、新型コロナウイルスの感染者数が0になる時期の前後で売上げ成長率予測が3.2%ポイント改善することを見込んでいること、オリンピックが開催される確率を高く見積もっている企業は、企業の予測の楽観制を統制したうえでも売上げ予測を4.5%ポイントほど高めに見積もっていることがわかりました。短期的な経済を多少犠牲にしてでも防疫を進めることは中長期的には経済にも良いことである可能性が示唆されました。
現時点での課題は、これらの分析があくまで一時点で取得したデータによるところです。今後、パネルデータを構築することで、企業固有の要因によるバイアスをより適切に統制することで、分析の精度を上げることが必要です。また、分析が経済への実績への影響よりも、企業の業績予測への影響に偏っています。これは、危機下において迅速に経済への影響を見積もるためには最善の手段ですが、やはり、事後的に、実際の経済にどのような影響があったのかを把握していくことが、今後の、経済と両立する感染症対策の立案には必須です。
そのためにも、今回の調査を1回限りで終わらせるのではなく、四半期ごとに、最低でも2020年末までは継続したいと考えています。今回のクラウドファンディングでいただいた資金は、2020年10-12月期の実績に関する第4回調査の実施費用に充てたいと考えています。現状では、第2回までの資金しか用意できておらず、第3回以降は各種競争的資金に申請することで充当したいと考えています。
今回、クラウドファンディングの利用を思い立ったのは、そうした現実的な面もありますが、同時に、このようなリアルタイムの政策意思決定に寄与する社会科学的な実証研究の重要性について、広く知ってもらいたいと考えたからという面もあります。
また、調査を複数回継続するなかで、実際に自営業、自由業を含む小規模企業経営者の方々からのフィードバックをいただくことで、調査やデータ解析の面で改善が見込めるかもしれないとも考えています。今回の支援をきっかけに、今後も、小規模企業の経営状況などに関するさまざまな研究を進めていくためのご縁が構築できればなお幸いです。
時期 | 計画 |
---|---|
2021年4月 | 論文のワーキングペーパーを著者ホームページなどで公開 |
2021年6月 |
学会発表
|
2021年7月 | 論文投稿 |
データ集計結果をまとめた論文の解説レポートをacademist Journalに掲載し、そこに謝辞としてお名前を掲載いたします。
academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
36人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
調査結果報告後、期間限定でチャットツールSlack上のオンラインコミュニティにご招待いたします。参加者間で自由に意見交換できれば幸いです!
オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
22人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
研究結果を解説するセミナーとして、オンラインで論文の詳細を紹介する機会を設けます。日時は2021年の春を想定しています。当日ご参加いただけなかった場合には、アーカイブ動画のURLを共有いたします。みなさまのご参加をお待ちしてます!
オンラインセミナー参加権 / オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
39人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
academist限定オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(90分×3回)」のアーカイブ視聴URLをお渡しいたします。調査研究レポートの執筆に関心を持つ会社員、役人、学生(学部卒レベル)さん向けの講義となります。
講義内容は下記を想定しています。
第1回講義「調査研究の基礎的な理論と手法について」
第2回講義「調査票の設計方法、データ探索方法について」
第3回講義「分析方法とまとめ方について」
オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(全3回)」アーカイブ視聴権 / オンラインセミナー参加権 / オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
21人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
academist限定オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(90分×3回)」にご参加いただけます。調査研究レポートの執筆に関心を持つ会社員、役人、学生(学部卒レベル)さん向けの講義となります。
日程は下記の通りです。
第1回:2020年9月20日(日)13:00-14:30
講義テーマ「調査研究の基礎的な理論と手法について」
第2回:2020年9月27日(日)13:00-14:30
講義テーマ「調査票の設計方法、データ探索方法について」
第3回:2020年10月04日(日)13:00-14:30
講義テーマ「分析方法とまとめ方について」
オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(全3回)」参加権+アーカイブ視聴権 / オンラインセミナー参加権 / オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
3人のサポーターが支援しています (限定 10 個)
個別ディスカッションの機会を設定いたします。今回のチャレンジャー3名のうち1名が対応予定です。論文や講義内容に関する質問も大歓迎ですので、この機会にぜひご登録ください。
個別ディスカッション権 / オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(全3回)」参加権+アーカイブ視聴権 / オンラインセミナー参加権 / オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
5人のサポーターが支援しています (限定 6 個)
講演会や企業様の打ち合わせなどに出張いたします。新型コロナウイルスの影響やあるべき政策対応などについて、ご要望にお応えする形で講演させていただきます。時期は2021年2月下旬〜5月下旬を想定しております。(※旅費・宿泊費等は別途頂戴いたしますのでご留意ください)。
出張講演 / オンラインセミナー参加権 / オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 / academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
2人のサポーターが支援しています (限定 2 個)
当サイトは SSL 暗号化通信に対応しております。入力した情報は安全に送信されます。
academist Journalに掲載予定の解説レポートにお名前掲載
36
人
が支援しています。
(数量制限なし)
オンラインコミュニティ(Slack)にご招待 他
22
人
が支援しています。
(数量制限なし)
オンラインセミナー参加権 他
39
人
が支援しています。
(数量制限なし)
オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(全3回)」アーカイブ視聴権 他
21
人
が支援しています。
(数量制限なし)
オンライン特別講義「ミクロ実証経済学に基づく調査研究入門(全3回)」参加権 他
3
人
が支援しています。
(限定 10 個)
個別ディスカッション権
5
人
が支援しています。
(限定 6 個)
出張講演 他
2
人
が支援しています。
(限定 2 個)