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日本の新型コロナ対策は経済状況にどう影響を及ぼしているか?

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川口康平(香港科技大学)、田中万理(一橋大学)、児玉直美(日本大学)
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こちらでご支援いただいた資金をもとにおこなった調査にもとづく論文が、このたびJournal of Economics and Management Starategyという企業経営に関連する経済政策の分野上位誌に無事受理されました。最新のプレプリントは以下のサイトで閲覧することができます。https://osf.io/preprints/socarxiv/cnqmr/

この論文では、今回のコロナ禍のような政策決定のためのデータが不足する危機下でどのようにエビデンスにもとづく意思決定をすればよいかについて一つの分析フレームワークを提示しています。

持続化給付金や雇用調整助成金などの補助金の支給やその額を決定するためにはそれが中小企業の存続などの政策目的にどれだけ資するものかを考慮する必要がありますが、そうした政策の効果は、通常、実際に支給を行って事後的にデータを収集して因果推論を行って初めてわかるものです。

しかし、結果の実現を待っていては危機下の政策決定には間に合いません。そこで、この論文では、企業の経営者に企業の存続確率などの業績予測を聞き取り調査し、その業績予測を結果変数に用いた因果推論を行うことで、結果の実現前に迅速に政策評価を行うという方法を提案しました。また、そのようにして行った事前の因果推論の結果と、事後的にデータを収集して行った因果推論の結果が、方向性においておおむね一致することを、持続化給付金と雇用調整金を例として示しました。

残念ながら、今回の分析が直接的に政府の政策決定を助けるということにはなりませんでした。しかし、こうした研究を積み重ねていくことによって、次の危機が生じたときに、より迅速に、より正確な現状把握と政策決定ができるようになればと考えています。皆様のご支援で実現する今回の分析がよりよい政策決定のための一筋の光明にでもなればと願っております。改めてご支援ありがとうございました。

Comment from academist staff
小規模企業の経営者に対する実証研究を行い、政策意思決定に役立てたい

academist編集部

新型コロナウイルス感染症対策として、社会・経済活動への大幅な制約をともなう政策が世界各国でとられていますが、日本では正確な影響評価がなされているとは言い難い状況です。特に深刻な影響が予想される小規模企業の経営については、そもそもの統計調査が乏しく、今後も分析が進まない恐れがあります。川口さんらの研究グループは、この政策意思決定上の大きな穴を埋めるべく、今回の研究をスタートしました。小規模企業の経営への新型コロナウイルスパンデミックの影響や、緊急事態宣言をはじめとする政府の対応の影響、持続化給付金などの救済策の効果などを明らかにすることで、第二波への対応や将来の感染症対策と経済活動のバランスをいかにとるべきかの意思決定に役立てることを目指します。

日本では新型コロナ対策の経済への正確な影響評価がなされていない

新型コロナウイルスの世界的な蔓延にともなって、移動制限、都市封鎖、自宅待機などの社会・経済活動への大幅な制約をともなう政策が、各国政府によってとられています。米国での失業保険申請の急増などの指標にすでにあらわれているように、こうした政策がさまざまな企業や家計の経済状況に深刻な影響を及ぼすことは十分に予測されています。米国を中心に、即時性の高い経済指標を用いて、その影響の評価が進んでいます。

ところが、日本では、即時性の高い経済指標が少ないことから、GDPがおおよそ20%ほど失われるのではないかといった粗い予測を除いて、正確な影響評価がなされていません。また、緊急事態宣言を1週間延ばすとどの程度の経済的な影響が生じるのか、オリンピックが開催できなくなるとその影響はどの程度広範にわたるのか、持続化給付金などの救済策は企業の事業継続の手助けになったのか、などといった個別の政策効果の分析も進んでいません。

また、特に深刻な影響が予想される、自営業や自由業を含む小規模企業の経営については、そもそもの統計調査が乏しく、今後も分析が進まない恐れがあります。こういった状況が、専門家会議での実証的な証拠にもとづいた議論を推進する妨げとなっています。今回の研究を始めたきっかけは、この政策意思決定上の大きな穴を誰かが埋めなければならないと考えたからです。

小規模企業はコロナ禍の状況をどう捉えているか?

今回は、コロナ禍のような危機の影響を最も受けやすい、自営業者や自由業者を含む小規模企業の経営者に対して実証研究を行い、政策意思決定に役立てたいと考えています。目的はいくつかの細目に分かれます。

第一の目標は、4月から5月にかけて全国で実施された緊急事態宣言と休業要請がもたらした経済への短期的な影響を明らかにすることです。休業要請を受けた企業の4月の売上げはどの程度減少したのか。5月に緊急事態宣言が部分解除されたとき、企業の第二四半期の業績予測や投資、雇用などの計画はどの程度改善したのか。こうした点を調査することで、防疫と経済のトレードオフを明らかにすることがここでの目的です。

第二の目標は、緊急事態宣言とあわせて新設された持続化給付金や臨時に強化された雇用調整助成金などの給付金が、感染症対策の短期的な経済的影響を軽減することに役立ったのかを検証することです。具体的には、持続化給付金の受給の見込みがたつことで、年度末まで事業を継続できる見込みは高まったのか、雇用調整助成金を受給できることで雇用者の休業は増えたのか、といったことを検証します。

第三の目標として、2020年末に向けて、企業が中期的にどのような業績の展望を抱いているのか、その展望は、感染の終息やオリンピックの開催見込みといった新型コロナウイルス禍の中長期の展望とどのように関係しているのかを明らかにします。これによって、今感染症体制を強化することの、経済への中期的な便益をある程度見積もることができるようになります。

また、第四の目標として、今後、第三四半期、第四四半期と時間を経ていくにつれて、実際の企業の業績がどのように推移していくのか、現時点での予測と実績はどの程度乖離するのか、各時点での将来展望はどのようにアップデートされていくのか、特に、秋から冬にかけて再来するとされている、感染の次の波に対して経済はどのように反応するのか、ということを把握していきたいと考えています。

これまでの調査で明らかになっていること

第1回の調査結果の分析から、一つ目の目標から三つ目の目標にかけてはある程度の答えを得ることができました。まず、5月8-9日調査と15-17日調査の間には緊急事態宣言の部分解除があったため、全国的な解除時期の予測がこの期間だけで早まるとともに、その不確実性も減少しました。これに関連して、わずか1週間足らずのあいだに、売上げ予測や投資計画にも改善が見られています。

次に、持続化給付金の効果については、1-4月の売上げ前年同期比が50%を下回るか否かという閾値で、回帰不連続デザインという手法を用いることで、企業の継続確率を19%ポイントほど押し上げることがわかりました。

一方、雇用や投資の計画への影響はなく、ほどよい金額であったと評価できます。雇用調整助成金については、そもそも受給できると考えている企業がほとんどなく、効果がでていません。日ごろから雇用者と経営について相談している企業の場合は受給見込みが高くなっていることから、経営者と雇用者の関係が良好な企業でない限り効果が見込めないのかもしれません。

調査対象の企業の経営者たちは、新型コロナウイルスの感染者数が0になる時期の前後で売上げ成長率予測が3.2%ポイント改善することを見込んでいること、オリンピックが開催される確率を高く見積もっている企業は、企業の予測の楽観制を統制したうえでも売上げ予測を4.5%ポイントほど高めに見積もっていることがわかりました。短期的な経済を多少犠牲にしてでも防疫を進めることは中長期的には経済にも良いことである可能性が示唆されました。

現時点での課題は、これらの分析があくまで一時点で取得したデータによるところです。今後、パネルデータを構築することで、企業固有の要因によるバイアスをより適切に統制することで、分析の精度を上げることが必要です。また、分析が経済への実績への影響よりも、企業の業績予測への影響に偏っています。これは、危機下において迅速に経済への影響を見積もるためには最善の手段ですが、やはり、事後的に、実際の経済にどのような影響があったのかを把握していくことが、今後の、経済と両立する感染症対策の立案には必須です。

Why we need your support

そのためにも、今回の調査を1回限りで終わらせるのではなく、四半期ごとに、最低でも2020年末までは継続したいと考えています。今回のクラウドファンディングでいただいた資金は、2020年10-12月期の実績に関する第4回調査の実施費用に充てたいと考えています。現状では、第2回までの資金しか用意できておらず、第3回以降は各種競争的資金に申請することで充当したいと考えています。

今回、クラウドファンディングの利用を思い立ったのは、そうした現実的な面もありますが、同時に、このようなリアルタイムの政策意思決定に寄与する社会科学的な実証研究の重要性について、広く知ってもらいたいと考えたからという面もあります。

また、調査を複数回継続するなかで、実際に自営業、自由業を含む小規模企業経営者の方々からのフィードバックをいただくことで、調査やデータ解析の面で改善が見込めるかもしれないとも考えています。今回の支援をきっかけに、今後も、小規模企業の経営状況などに関するさまざまな研究を進めていくためのご縁が構築できればなお幸いです。

Profile

川口康平、田中万理、児玉直美

川口康平です。私は香港科技大学のビジネススクールの経済学部で経済学を教えています。専門は産業経済学といって、企業や消費者の行動データを分析することで、競争政策などの各種政策についての含意を導くことが仕事です。また、計量マーケティングといって、消費者データなどにもとづいたマーケティング施策を立案するたぐいの研究も行っています。ただし、こうした狭義の専門にとらわれずに、ビジネスや経済政策に関連する実証研究を幅広く行っています。共著者の田中万理(一橋大学 / 講師)は、ミャンマーでの小規模企業での労働環境が、国際貿易への制裁解除後にどう改善したかなど、開発経済学と国際貿易の交錯する研究テーマを主に扱っているほか、企業の経済予測と経営パフォーマンスの関係など、今回の研究とも関連する、不確実性と企業の経営行動の関係についても研究しています。もう1人の共著者の児玉直美(日本大学 / 教授)は、日本企業の中小企業に関する実証的な研究を進めています。

Project timeline

Date Plans
2021年4月 論文のワーキングペーパーを著者ホームページなどで公開
2021年6月 学会発表
  • Econometric Society North American Meeting, Asian Meeting,日経学会などで、口頭発表する予定です。
2021年7月 論文投稿

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講義内容は下記を想定しています。
第1回講義「調査研究の基礎的な理論と手法について」
第2回講義「調査票の設計方法、データ探索方法について」
第3回講義「分析方法とまとめ方について」

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日程は下記の通りです。
第1回:2020年9月20日(日)13:00-14:30
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第2回:2020年9月27日(日)13:00-14:30
講義テーマ「調査票の設計方法、データ探索方法について」
第3回:2020年10月04日(日)13:00-14:30
講義テーマ「分析方法とまとめ方について」

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