榎戸 輝揚/尾崎 直哉
榎戸 輝揚(宇宙物理学者)
私は、宇宙を飛び交う光や粒子(宇宙放射線)を駆使して、中性子星やブラックホールなど研究する宇宙物理学者です。私たちは研究に最適化した観測装置を自分たちで設計、製作して、自らの手で観測、解析にする文化を大切にしています。このノウハウを活かして、月の水資源を探すMoMoTarO計画を進めています。この計画では、月面に衝突する銀河宇宙線がレゴリス中で発生する中性子を月面ローバーで測定し、非接触に水を探せます。実は、このための装置は、水探しだけではなく、月周回機に搭載して中性子の寿命を測定したり、ガンマ線バーストの観測から重力波宇宙論に使うなど、月を使った基礎科学としても活躍できます。このシスルナ科学の尖兵となる実験に、京都大学の辻直希研究員や複数の大学院生が挑戦しており、月周辺に到達するための計画策定に皆さんのお力添えを頂けましたら幸いです。
尾崎 直哉(宇宙ミッションデザイナー)
私は、JAXA宇宙科学研究所で、宇宙探査機が航行するルートを決めるための「軌道設計」を専門とし、そのスキルを活かして宇宙ミッションをデザインする研究をしてきた宇宙工学研究者です。シスルナ領域は、地球・月・太陽の重力が複雑に相互作用する領域であり、そこを航行する宇宙探査機の軌道設計には、高度な技術を必要とします。現実的なリソースの中で「シスルナ領域で、どのような実験ができるのか?」という検討を行うためには、軌道設計を含むミッションデザインが欠かせません。私たちの研究室では、軌道力学・最適化手法・機械学習に関する研究を遂行し、誰でもシスルナ領域のミッションデザインができるような世界を目指した研究を行っています。現在、生成AIを駆使した軌道設計研究に挑戦しており、こうした技術を駆使して、シスルナ科学の計画策定を進めたいと考えております。
アポロ計画をはじめとする有人探査や、世界各国の無人探査機によって、惑星科学としての月の理解は大きく進んできました。こうした成果は、国が主導した公的資金による大型プロジェクトが後押ししてきたと言えます。
しかし、ここ10年ほどで宇宙関連の予算配分が国家主体から民間へと移り、ロケットや小型衛星を開発する企業の増加や、打上げコストの低下が進んでいます。たとえば、低コストの打上げ枠を活用して新しいセンサー技術を検証したり、個人や大学の研究者が小型実験機器を搭載する事例も見られます。人類の月周辺への宇宙進出でも、企業や市民がより自由に挑戦できる機会が広がりつつあります。
こうした新たな潮流を活かし、地球と月を含む広大な空間を舞台とした科学―シスルナ(Cislunar)科学に取り組むことが私たちの目標です。地球と月の間に広がるシスルナ空間を実験フィールドとして活かすことで、地上や地球低軌道では実施が難しかった新しい物理実験を実現できる可能性があります。
さらに、この領域にさまざまな人々が参加し、誰もが宇宙実験にチャレンジできる仕組みをつくることで、研究のあり方は大きく変わるはずです。たとえば、大学や企業の研究者であれば自社技術を宇宙で試し、新しい観測データから学術的な発見を狙えます。小中学生の実験アイデアを宇宙で実現するような夢も叶えられるかもしれません。
こうして多様な立場の人々を巻き込みながら、2030年代までに月軌道上で多様な実験を展開し、ボトムアップ型の研究が可能なプラットフォームを築くことが、私たちの掲げるVisionです。
まず私たちは、月周回軌道でどのような科学実験が可能なのかを、具体的に示したいと考えています。たとえば、月の表面から染み出してくる中性子を観測することで、素粒子物理学で未解決問題となっている「中性子の寿命」を宇宙で測定できないか検討しています。さらに、宇宙遠方から到来するガンマ線バーストを、地球から遠い月の周辺で測定することで到来方向を決定し、将来の重力波宇宙論に貢献することも狙っています。私たちは中性子を用いて月の水資源を探索する装置を開発しており、中性子寿命やガンマ線バーストなどのシスルナ科学の実験を同じ観測装置を応用して挑みたいと考えています。
こうした多様な観測や実験の立案には、シスルナ領域で何ができるのかを検討するミッション設計が不可欠です。JAXAの尾崎は、軌道解析やミッション設計に強みを持ち、尾崎研究室では「どの軌道に宇宙機を置れば、どのような実験が可能になるのか」を綿密にプランニングしていきます。
一方で、京都大学の榎戸は、月面ローバーに搭載して月の水資源を探索できる中性子モニタ「MoMoTarO(Moon Moisture Targeting Observatory)」を開発してきました。その技術を活かすことで、月周回機で宇宙放射線の観測ができる小型汎用モジュールや、中性子の撮像・分光装置など、次世代の宇宙実験に使える観測装置を開発できると考えています。
観測装置の研究開発と、ミッション全体の設計を組み合わせることで、月軌道を舞台にしたシスルナ科学という新しい研究領域を切り拓いていきたい――この構想を実現するには、理学と工学の専門知識をしっかり噛み合わせる必要があります。理論から実際のミッションまで多角的に研究してきた私たちが連携し、議論を重ねることで、小回りが利きながらも大きなインパクトを狙う研究を成立させたいと考えています。
その第一歩として、2025年秋から約1年半かけて、観測機器の設計や軌道シミュレーションをまとめた「実験計画書」を作成します。宇宙ミッションで最も重要な要素であるこの計画書は、実験目的、その実現のための装置仕様やミッション設計、さらに必要となる衛星システムの概要などを明確に記載し、将来の複数の実験に応用できるプラットフォームとなるよう意識してまとめる予定です。この計画書の策定のために必要な実験や実証も行います。
2026年には、国際宇宙ステーション(ISS)での実験を通じて、小型の放射線モニタを宇宙環境下で検証します。具体的には、中性子やガンマ線を捉えるセンサーを試作し、ISS上でデータを取得することで、月周回軌道でも同様の手法が活かせるかを見極めます。
その後、2027年以降はいきなり月周回へ挑むのではなく、まず低軌道に小型衛星を打ち上げて運用試験を行いたいと考えています。地球周回で軌道制御や通信、電源管理などを確立し、衛星システム全体の信頼性を高めたうえで、2030年前後を目標に本格的な月周回ミッションへ「アジャイルに」ステップアップしていく計画です。
こうした段階を踏むことで、誰もが宇宙実験にチャレンジできる環境を徐々に整え、多くの研究テーマを柔軟に追加できるプラットフォームを確立したいと考えています。
私たちが今回クラウドファンディングを実施する背景には、企業や市民が自由に宇宙へチャレンジできる時代だからこそ、多くの方々とこのVisionを共有し、新しい宇宙科学を一緒に育てたいという想いがあります。大規模プロジェクトだけでは拾いきれないアイデアや、既存の枠にとらわれない視点を取り入れることで、物理学に限らず生命科学など他分野の研究にもつながる、従来とは異なる形の探求が生まれるはずです。
これまでも研究現場の一部では、小さく試しながら短いスパンで計画を修正していくという、アジャイル的な開発手法を模索する動きがありました。しかし制約が多く、実践が難しい面も見受けられます。特に技術やプレイヤーが次々登場するVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代には、10年先を見据えた一方向の計画だけでは対応しきれない場面が増えています。こうした環境下で臨機応変に路線を切り替え、無駄になった投資を再活用できる柔軟さこそが、宇宙開発の次の10年を乗り切る鍵だと考えています。
このプロジェクトで皆さまからいただくご支援は、2026年までに製作する実験計画書の作成や衛星システムの設計、さらにはそれに向けた若手育成に活用します。観測装置の検討や軌道設計のシミュレーションを統合し、ISSでの実験や低軌道運用を踏まえた最適解を導き出すことが目的です。制作プロセスは可能な範囲でオープンにし、進捗報告やオンラインでの交流を通じて、サポーターの皆さまと議論やアイデアを交わしたいと考えています。
私たちが描く未来は、ここにまとめた構想だけで到達しきれないと感じています。多くの企業や研究者、そして市民の方々と手を携え、さまざまな視点から月を舞台にした研究を広げることが必要です。ぜひ私たちと一緒にシスルナ科学を盛り上げ「宇宙実験の民主化」を目指していきましょう!
寄付金領収書について
日本国内にお住まいでご寄附いただいた皆様へ、確定申告により税制上の優遇措置が適用される領収書を京都大学より発行いたします。
なお、領収書の日付は、お申込み受付日やカード決済口座からの振替日ではなく、アカデミスト株式会社より京都大学に入金された日付となります。
【法人・団体様からのご寄附】
・全額損金算入が可能です。(法人税法第37条第3項第2号)
【個人様からのご寄附】
・所得税…寄附金額(総所得金額の40%を上限とする)から2,000円を差し引いた額を、当該年の課税所得から控除することができます。
・個人住民税…京都大学を寄付金控除の対象法人として条例で指定している都道府県・市区町村にお住いの方は、個人住民税の控除を受けることができます。
シスルナ科学。なんとも響きがカッコいいですが、中身はもっとスゴい。地球と月、その間の空間を舞台にした新しい宇宙科学の冒険が始まろうとしています。これって、SFの話じゃなくて、リアルな最前線の科学なんですよね。しかも、そんな壮大な挑戦に、クラウドファンディングという"みんなで支える仕組み"で参加できるなんて、これはもう、ただの研究じゃなくて宇宙市民のムーブメントだと思います。宇宙科学の未来に、一口乗ってみる。そんな軽やかさで一歩を踏み出す人が増えたら、きっと宇宙開発も、今よりもっと面白くなるはず。このプロジェクトの成功を応援するとともに、ここから"新時代の宇宙開発チームの一員"が生まれることを、期待しています!
榎戸さんはこれまでX線天文観測による中性子星の研究、雷のガンマ線観測など、幅広い分野で世界的な成果をあげてこられました。今回、その経験を生かして、中性子による月の水探査、中性子の寿命測定、さらには太陽中性子やガンマ線バーストの観測など、一見びっくりするような広い分野に研究の前線を広げようとされています。新しいアイデアや技術をこのような広い分野に応用していこうというその構想は大胆、かつ、面白いもので、将来性に満ちあふれています。皆さん一緒に応援しましょう!
月や火星に人を送り国旗を立てるだけが人類の宇宙開発の目的でしょうか。僕はそうは思いません。宇宙に数多く残る謎を解く科学探査ミッションも、ホモサピエンスを自称する人類にとって重要な目的の一つです。しかるに現在の政治的・経済的状況下で、日本もアメリカもなかなか科学ミッションに予算がつかないのが現状です。長年の友人である尾崎さんと榎戸さんの、クラウドファンディングを通しそのようなミッションを実現しようとする取り組みは、この状況を打開する新たな筋道を切り開いてくれるのではと期待しています。ぜひ応援をよろしくお願いします!
人類の宇宙進出に欠かせない月の探査。それを実行する上で、飲料水や燃料として活用できる水資源を月面で調達するというのは極めて重要です。今回、MoMoTarO計画で行うその挑戦に少しでも協力できることを大変光栄に思います。この研究が、将来の月面基地建設やさらなる宇宙探査の礎となることを期待しています。人類の新たな一歩に繋がる研究を、心より応援いたします。
絶対に実現してくれるという確信に近い期待をしています!私は宇宙物理の研究から現在はAIを主軸にIT業界におり、そこでよく使われるアジャイル開発を本研究で率先して進める姿にワクワクしております。この期待が確信に近いのは、榎戸さんとは研究者時代から近くで仕事をしていて、天文にとどまらず雷プロジェクトを推進され、小型衛星NinjaSatの開発スタートのタイミングには同じ研究室でその推進力の高さを目の前でみてきました。本当に尊敬する研究者の一人です。私もメディアを通してレポートしながら応援します。
時期 | 計画 |
---|---|
2025年秋 | 「実験計画書」作成(〜2027年3月) |
2026年 | 国際宇宙ステーション(ISS)で実験 |
2027年4月 | 運用試験(低軌道に小型衛星を打ち上げ) |
2030年前後 | 月周回ミッションを実施 |
研究メンバーからお礼のメッセージをお送りするとともに、実験計画書の縮約版をPDF形式で報告いたします。
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1,000円のリターンに加えて、紙媒体での気合いの入った研究紹介をお送りします。写真は以前に実施した「カミナリ雲からの謎のガンマ線ビームを追え!」でのクラウドファンディングでの実際の報告です。
※ 発送は国内限定となりますので、あらかじめご了承ください。
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5,000円のリターンに加えて、榎戸や尾崎ほかの研究者メンバーがオンラインでの活動報告会を開催してご報告します。また、本プロジェクトにご賛同いただいているVAIENCEさんとのコラボTシャツをお送りします。
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宇宙のプロジェクトでは、科学目標やそのための手法、実現可能性などを総裁に検討し、事前に「実験計画書」を作成します。これには相当のエフォートを注ぎ込み、科学者の努力の結晶ともいえます。10,000円のリターンに加えて、今回のクラウドファンディングで開拓するシスルナ科学に関する実験計画書のうち外部公開ができる部分をご報告いたします(PDF版を想定)。これが今回のメインの成果になり、将来の宇宙ミッションの提案につながります。ぜひ、宇宙プロジェクトを一緒に楽しんでいただければと思います。
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上記のリターンに加えて、論文出版した場合に謝辞にお名前を掲載します。複数論文が出版される場合は最初のいくつかの論文を想定しています。なお、この写真では以前に実施した「カミナリ雲からの謎のガンマ線ビームを追え!」からのプロジェクトで発表された Nature 論文での謝辞の実際の写真です。
※ 発送は国内限定となりますので、あらかじめご了承ください。
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50,000円のリターンに加えて、ミニチュア宇宙線モニタをお送りします。この写真は、研究プロジェクトメンバーが制作した宇宙線空気シャワーに含まれるミューオンという素粒子の通過をとらえる「ミニクラゲ」と呼ばれる装置です。宇宙の遥か彼方で生まれて地球に到達する宇宙線が大気にぶつかって生じる見えない粒子を可視化してくれる、他では購入できないモニタを特別にお送りします。なお、外観形状はこの形から修正される可能性があります。
※ 発送は国内限定となりますので、あらかじめご了承ください。
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100,000円のリターンに加えて、本プロジェクトに関連したシスルナ科学に関する個別ディスカッションに研究メンバーが参加できます。ディスカッションは、対面(国内限定)またはオンラインで1時間を想定しています。
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200,000円のリターンに加えて、榎戸、尾崎ほかの研究メンバーが企業・団体様向けの出張講義に伺います
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500,000円のリターンに加えて、ミッション検討に関わる重要な会議の議論に参画することができます。詳細は応相談です。
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