サポーターのみなさま
大変遅くなりましたが、ウィーンで開催されたワークショップ“Wittgenstein and Hegel on the Foundations of Logic”への参加レポートをお送りします。お楽しみいただければ幸いです。
【ワークショップについて】
ワークショップは、9/11-9/13の3日間にわたって開催されました。合計35人によるプレゼンテーションがあり、合計40人程度の参加者がありました。発表者の所属大学は、ヨーロッパ圏が中心でした。アジア圏からは、我々日本以外にも、インドからの発表者が2人いました。(アジア系の参加者はもう3人程度いましたが、それぞれ、中国からアメリカの大学、シンガポールからロンドンの大学へと進学しており、所属大学はアジアではありませんでした。)
全体のジェンダー比率はあまり良くありませんでした。発表なしの参加者をあわせても、女性の数は、見る限り5人でした。(ちなみに、「女性」とはここではなんらかの仕方でフェミニンな見かけをしている人のことです。もちろん、参加者の中にはノンバイナリーの方もいたかもしれません。)
発表言語は、ほとんどが英語でしたが、中にはドイツ語での発表も2枠ありました。
発表内容の傾向としては、もっぱらウィトゲンシュタインのみ、ヘーゲルのみを取り扱った発表もあれば、両者を比較する発表もありました。槇野が参加した2019年のワークショップ(チェコ、カレル大学開催)から引き続き、ネオプラグマティズム、特にブランダムに言及する発表がいくつか見受けられました。(議論の中でも、ブランダムやマクダウェルの名前が出ることがありました。)今回のワークショップに特徴的だった点は、前期ウィトゲンシュタイン哲学に関する研究発表が一定数見受けられたことです。これは、“Logic”がテーマに入っていたことが理由だと考えられます。
全体として、規模が大きく様々な研究者が集まる総合的な学会においてであれば、ニッチすぎるものとして避けられそうな研究発表に対しても、オーディエンスが発表者の話を傾聴する雰囲気が形成されていました。槇野がかつて参加したWittgenstein Symposium(オーストリア、キルヒベルグ開催)では、キャッチーでわかりやすい発表に人が集まり、議論が盛り上がる様子も時々見受けられましたが、今回のワークショップではそのようなあからさまな対比は生じていませんでした。(ただし、ドイツ語の発表には、それほどたくさんの人は集まらなかったかもしれません。)もちろん、多くの研究者と知り合いになれる大規模学会の良さもありますが、安心して発表したり議論したりできる小規模なワークショップの良さも認められてよいように思われました。
《参考》
発表者の所属大学とその国:チェコ(カレル大学、チェコ科学アカデミー、マサリク大学)、ドイツ(チューリッヒ大学、ダルムシュタット工科大学、アイヒシュテット・インゴルシュタット・カトリック大学、エアフルト大学、ライプツィヒ大学、テュービンゲン大学)、スペイン(バルセロナ大学)、オーストリア(ウィーン大学)、アメリカ(ピッツバーグ大学、シカゴ大学、パデュー大学、ウエストバージニア大学、ジョージタウン大学)、日本(東京都立大学、千葉大学)、フランス(ポアティエ大学、ボルドー・モンテーニュ大学)、インド(北ベンガル大学、ハイデラバード大学)、ノルウェー(トロムソ大学)、クロアチア(ザグレブ大学)、イタリア(ヴィータサルーテサンラファエレ大学、カターニエ大学)、ポーランド(ワルシャワ大学)、ベルギー(ブリュッセル大学)、チリ(ディエゴ・ポルタレス大学)、イングランド(ダラム大学)、ポルトガル(リスボン大学)
【ウィーン滞在について】
・Haus Wittgensteinの見学
槇野と木本、双方とも発表原稿の作成が出国までに終わっておらず、ウィーン滞在中ほとんど観光をすることはできませんでした。観光することができたのは、ウィトゲンシュタインが姉のマルガレーテのためにパウル・エンゲルマンと共同で設計したHaus Wittgenstein(現・ブルガリア大使館兼文化会館)です。外観のみですが写真を撮りましたのでアルバム(最後にURLあり)をご覧ください。ミニマリズム建築の代表作と言われているように、装飾を廃した厳しい出で立ちをしています。綺麗な監獄のようにも見えます。
Haus Wittgensteinから受けた印象は、一階の玄関のドア、窓、部屋同士を仕切るドアが、どれも三メートルくらいあり、ドアノブがその真ん中についているので、非常に使いにくそうな邸宅だなというものです。槇野の身長だと、ドアノブが顔くらいの高さにきます。マルガレーテが実際には住まなかったことも納得できます。また、外観のみならず内装もいたってシンプルで、部屋の真ん中にポツンと机と椅子のみが置いてある様子は、まるで尋問部屋のようでした。とはいえ、ブルガリア大使館が1975年にこの家を買い取ってから改築したようですので、私が見た光景は、1928年に完成した当時のままではないということには注意したいと思います。
建物の中は撮影禁止でしたので、言葉で説明します。一階は主にイベント・観覧用といった様子で、ピアノやテーブルくらいしかありませんでした。二階はブルガリア大使館の職員の方々が使用しており、図書室や洗濯場、会議室、またPrivatと書かれた部屋がいくつかありました。観覧可能な範囲は一階と二階のみでしたが、地下と三階もあるようでした。
なお、見学には事前予約が必要で、見学料は8ユーロ(非学生)です。
【食べ物について】
・ヴィーガンフードの多さ
スーパーマーケットでも、ホテルの朝食でも、またケータリングでも目を引いたのは、ヴィーガン向けフードです。スーパーマーケットでは、どの食品でもほとんど必ずヴィーガン向けのものが用意されています。ホテルの朝食では、ヴィーガン向けのチーズ、ハム、ヨーグルトが提供されており、これらは非ヴィーガン向けの食品と比べて遜色ないものでした。ワークショップでのケータリングでも、ヴィーガン向けのサンドイッチ(一部動物性食品を含むが、その場合は明示されている)が提供されました。
例外的に、レストランでは、必ずしもヴィーガン向けメニューが提示されないことがありました。ただ、ひょっとするとヴィーガン向けメニューを要求すれば、提示があったかもしれません。また、そもそもお店全体がヴィーガン向けのメニューを提供しているファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)のレストランでは、ほとんどのメニューがヴィーガン向けでした。
ヴィーガンフードの入手しやすさの背景には、10代から20代の若者を中心とした世代に、ヴィーガンが増えているということがあるようです。オーストリアのウィトゲンシュタイン研究者であるAloisia Moser氏によると、10代から20代の若者の約半数が、ヴィーガンだということです。
【その他】
・シカゴ大学の学生さんの話
アメリカでは、博士課程の学生には給与が出るということでした。シカゴ大学における博士課程の平均在籍期間は6〜7年だそうで、この間、博士課程の学生は、経済的な不安なしに研究ができるようです。ただし、そのような良い環境にはたくさんの応募者が集まってきます。シカゴ大学では、全世界から300人程度の人が毎年出願するようですが、たった6人しか採らないとのことです。さらに言うと、博士号取得後、ファカルティに残ることができるのは4人とのことです。(これらは一人の学生さんから伝聞で得た情報ですので、不正確な点がある可能性があります。)
・三重大学でドイツ語を教えていた方との出会い
ワークショップの初日、かつて三重大学でドイツ語を教えていたというFriedrich Mühlöcker氏と知り合いになりました。アジア系の参加者が極めて少なく、不安を感じていた中、Mühlöcker氏は日本語で話しかけてくれ、和ませてくれました。
【来年の東京ワークショップについて】
・開催時期について
2024年の9月に開催するつもりで準備を進めています。
・テーマについて
これまでヨーロッパで、「ウィトゲンシュタインとヘーゲル」というテーマで何度もワークショップが開催されてきたため、同テーマでは、発表できる人がほとんど残っていないのではないかと予測されます。しかし、これまでのヨーロッパでのワークショップの蓄積により、普段ほとんど関わりのないウィトゲンシュタイン研究者とヘーゲル研究者とが集まって議論できる貴重な空間が形成されてきたことも認められます。現在、どちらの研究者も参加できそうなタイトルを検討中です。
【本レポート以外の公開物について】
・フォトアルバム:https://drive.google.com/drive/folders/19QGn8aPxU2oYwPtquWzWJ0K4M-wY6KlC?usp=sharing
動物性の食品が写っておりますので、ヴィーガンの方は閲覧にご注意ください。
・槇野・木本の発表資料
2023年12月までの公開とさせていただきます。なお、二次配布はご遠慮ください。
槇野:https://drive.google.com/file/d/1Gq-8JIBTmb9_i8WcbV1NkPlPP7zUnbIU/view?usp=sharing
【本レポートの独占的公開期限について】
本レポートは、クラウドファンディングのサポーターの方々に対しまず独占的に配信・公開されるものです。しかしながら、今後、サポーター以外の方々にも、紀要やnoteなどの媒体を利用して、本レポートを公開する可能性があります。というのも、海外での学術イベントのレポートを、国内向けに公開することには、一定の利益があると考えられるからです。恐れ入りますが、サポーターの方々には、この点をご理解いただけますと幸いです。
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研究報告レポート(PDF版)
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