挑戦期間
2022/11/01 - 2026/03/31
最終活動報告
2025/04/09 16:15:00
活動報告
28回
サポーター
10人
経過時間
2022/11/01 10:00:00
今回は、久々の論文紹介をしてみたいと思います。また腸内細菌とアスリートの話です。
先日、科学的な腸活の普及に尽力している東京科学大の千葉さんが、「アスリートに役立つ腸活」に関する記事を寄稿していました(https://baskemeshi-eiyou.com/gutmicrobes/)。
なので便乗してみます。
アスリートの能力は、「心・技・体」で語られる事が多いですよね。
「体」に関しては食・栄養の側面が大きく関わるので、腸内細菌からアプローチすることが大いに可能です。
千葉さんの記事のように、体づくりやエネルギー利用に関わる代謝能力を向上させることが多くの研究で示され、科学的には常識となりつつあります。
「技」、つまり体の動かし方、運動工学(バイオメカニクス)については、腸内細菌との関連性を見た研究などはほとんど無いのが現状です。確かに、普段のトレーニングでいかに集中して反復練習を積めたかが重要そうです(経験談としても最近、陸上の練習時間が取れず走りの技術力が低下しています…)。
「心」に関する特に興味深い研究として、腸内細菌が作る物質が腸の神経を通じて脳へ働きかけ、運動意欲と運動能力に関わることがマウス実験で示されています(Dohnalova et al., Nature, 2022)。
この研究では、Eubacterium rectaleやCoprococcus eutactusという細菌がN-オレオイルエタノールアミドという脂肪酸アミド(FAA)という物質を作り、この細菌またはFAAをマウスへ経口投与することで脳内のドーパミン量が増え(メカニズムは不明)、マウスの自発的な運動量が増えて運動意欲が向上したり、走らないと電気ショックを与える実験で強制的に限界まで走らせる場合でも走行距離や走行時間が増えて運動能力が向上する、ということがわかりました。
特に持久系の運動能力の向上効果が見られたわけですが、この要因を論文では身体能力が向上したというよりも、あくまでも運動意欲が高まったためだとしています。苦しくても粘る、キャッチーに言えば「根性」につながったという感じなのかもしれません。
確かに、私の経験則でも、特に陸上競技の400m走のように、限界まで自分の体を酷使して、最後まで粘ってペースを落とさず走りきる際には、根性が重要な気もします。苦しいけど脳内のリミッターを外して粘る、という心持ちを持てるか持てないかは競技力に直結しそうです。
ちなみに、自分の腸内にはEubacterium rectaleやCoprococcus eutactusはいないようですが(参考:Body granolaの検査結果)、持っている人のために、どのような食事によって増やせるのか、ざっくり調べてみました。
やはり、一般的に腸内細菌の多様性を向上させることが知られる食物繊維をとることが重要らしく、例えばEubacterium rectaleには難消化性デンプン(Zhang et al., eBioMed., 2023)、Coprococcus eutactusにはガラクトオリゴ糖(Azcarate-Peril et al., 2021)をとることで増加するらしいです。
難消化性デンプンとガラクトオリゴ糖双方を含む食材としては豆類が知られているので、積極的に食事に取り入れて、多様な食材とともに摂ってみましょう。
まとめとして、今回はアスリートのパフォーマンスを上げる様々な切り口のうちのほんの一部を紹介させていただきました。スポーツのパフォーマンスには様々な要素があり、それらが相互に関連していて、そして個人差もある。
科学の進歩によって、各要素が与える影響になぜ個人差が生まれるのかが解明されたり、だれでも普遍的に競技力を向上できる手法(もちろん健康的に、ドーピングにならない程度で)、が開発されることにつながることを期待したいですし、そこに部分的にも貢献する研究ができればと思っています。