挑戦期間
2022/11/01 - 2025/03/31
最終活動報告
2024/11/11 22:34:23
活動報告
51回
サポーター
42人
経過時間
2022/11/01 10:00:00
村田治著『大学教育の経済分析』は、私にとって目の覚めるような本でした。
本プロジェクトにも関わる書籍なので、学んだことを記録しておきます。
この本は、大学教育の機能は
・人的資本の蓄積なのか(人的資本理論)
それとも
・大学教育を受けた人=優秀な労働者だというシグナリングに過ぎないのか(シグナリング理論)
という問いから始まります。
これは実は大変重要な問いです。
もしも前者であるなら奨学金などの支援は社会全体の労働生産性を上げることになります。
しかし、もし後者が当てはまっているなら、奨学金はより能力の低い個人がシグナルを発信できるということになり、社会全体の労働生産性は下がる、という真逆の示唆が生まれてしまいます。
果たしてどちらが当てはまっているのか?というシリアスな問いに、膨大な先行研究と実証的なデータで迫るのは非常にスリリングです。
本書は、さらに踏み込んで、個々人の能力の格差をモデルに織り込んだうえで、奨学金などの支援が生産性にどう影響するかを検証します。
そこから、大学教育に関連する様々な問いを立て、それらに実証的に迫っていきます。
例えば1991年以降の日本において、大学への志願率を決める非常に大きな変数として大学収容率がある、つまり供給側が制約になっているということを示します。
(これは、社会的共通資本の需要がかなり大きく、多くの場合において供給が制約になる、ということと整合的だなと思いました)
加えて私が度肝を抜かれたのは、日本の労働生産性が低迷している原因をデータから分析したうえで、無形資産、特にeconomic competencies(=ブランド資産、企業特殊人的資本、組織改編への投資)の蓄積によるTotal Factor Productivity(TFP)の成長が重要であることを指摘した7章以降の怒涛の展開です。
日本のデータを使って、企業トップが大学院を修了していることの企業業績への影響から、大学院教育の生産性効果を検証し、イノベーションの実装にとっての大学院教育の重要性を指摘していきます。
最後に、これらの研究がすべて一つの線でつながってきていることが示されます。
大学人として、大学教育が社会に与える影響を考えるにあたっては必須の書籍だと感じました。
また、大学関係者だけでなく、イノベーションや社会的共通資本に関心のある方にもお勧めできる書籍だと考えています。
本書の内容は、研究への寄付募集を研究することで高度化していこう、それによって日本の研究をより良いものにしていこう、という私たちのプロジェクトにとっても非常に大きな励ましになります。
ご関心をお持ちくださった方は、ぜひご覧ください。
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著者の村田治先生は、関西学院大学の学長、現在はあしなが育英会の会長代行も務める中で本書のもとになる研究を手掛けてきており、高度な実務・研究を両立されているという面で、大変尊敬している研究者でもあります。
果てしなく遠い目標ですが、それを追いかけて自分も実務・研究の道を進んでいきたいと思います。