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渡邉文隆

京都大学、研究員

挑戦期間

2022/11/01 - 2025/03/31

最終活動報告

2024/11/11 22:34:23

活動報告

51回

サポーター

42人

経過時間

2022/11/01 10:00:00

#32 本プロジェクトの手法と理論の妥当性を考える

みなさま 新年から大変な情勢が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

「緊急的な寄付」が必要とされる今ですが、東日本大震災の頃と比べると、はるかに寄付について専門的な発信をされる方が多いように見えています。自分たちの社会は少しずつでも前に進んでいる、と感じます。

私の方では今年も引き続き、「長期的に必要とされる寄付」について研究と実務を進めていこうと考えております。

改めてですが、このプロジェクトは、日本の研究を担う大学・研究機関(という社会的共通資本)の寄付募集をより良いものにするために、実務者の方々と協力して科学的な寄付募集を目指すものです。

手法としてはアクション・リサーチを採用しています。

が、アクション・リサーチというと、客観性に欠けるという印象を持つ研究者の方も多いのではと思います。

実際、私自身がそうでした。が、その認識は先行研究調査によって完全に覆りました。

いくつかの分野では、アクション・リサーチが適切な手法として認知されています。

例えば、下記の論文では、マネジメント領域におけるアクションリサーチがテーマとなっており、システマティックレビューで選ばれた先行研究のうち、オペレーション研究での活用が非常に多かったということが見出されています。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1609406920917489

特に、リサーチクエスチョンが「ある行動がどのように、どんなプロセスで、あるシステムのある側面の働きを変えたり改善したりできるのか?」というようなものである場合は、オペレーション研究におけるアクションリサーチの利用が適切だとされています(p227)。
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/01443570210417515/full/html

本プロジェクトは、まさに大学の寄付募集(寄付のマーケティング)におけるオペレーション改善のためのものであり、科学的な寄付募集が大学というシステムの資金調達をいかに改善できるか?という問いに答えるものですので、分野と手法が整合していることが確認できます。

さて、オペレーション研究においては、どのような理論が活用されているのでしょうか。

下記の論文は、International Journal of Operations & Production Managementという非常にハイレベルな学術誌に掲載されているものですが、オペレーション研究において制約理論(Theory of Constraints)が統一理論(unifying theory)であると主張しています。
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/01443570810903122/full/html

従って、本研究がTOCを活用して寄付募集を改善しようとしていることは、上記の面でも妥当であると考えています。

一方で、TOCは、現象間の因果関係については現場のデータや実務者の経験・直観的判断に頼る傾向があります。

既に実務者が相当な経験を積んでいる領域や、現場のデータが豊富な領域ではこれが通用しやすいと思われますが、日本の大学への寄付は未成熟な分野ですので、この限界を越えるために、Evidence Based Management(EBMgt)を取り入れるというのが本研究のポイントです。

日本での寄付募集に使えるエビデンスとしては、下記の書籍が昨年末に出版され、私も執筆に参加させていただく機会を得ました。

『日本の寄付を科学する―利他のアカデミア入門』
https://amzn.to/47vR4bo

「第12章 なぜ人々は大学に寄付をするのか?」(福井文威先生執筆)をはじめとして、本プロジェクトに活用できる情報が満載になっており、本当に良いタイミングの出版だったと感じています。

なお、マーケティング分野においては、アクション・リサーチの可能性がEuropean Journal of Marketingなどで20年前から指摘されていました。
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/03090560410518567/full/html

しかし、マーケティング研究でのアクションリサーチの活用はオペレーション研究と比べてはるかに少ないことも事実です。

2020年、Journal of Service Marketingで改めてアクション・リサーチについてガイドライン等が提案されており、実務との乖離が指摘されてきたマーケティング分野でも、今後アクション・リサーチが適切な形で活用され、より実務者にとっても有意義なアウトプットに繋がっていくことが望まれます。
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/JSM-11-2018-0350/full/html

そのような中、「TOCとEBMgtを用いて、寄付マーケティングのオペレーションを改善する」という本研究が果たすべき役割は、サービスマーケティングの領域において学術的にもありそうだ、と考えています。

先行研究を通じて、自分の研究プロジェクトの意味や貢献できそうな部分が見えてくるというのは、やはり楽しいことです。

今年もコツコツ頑張って参りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

Fumitaka Watanabe 2024/01/07 23:52:43
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