東京大学大学院総合文化研究科修士2年の佐藤玲央(さとうれお)と申します。小さいころにホーキング博士の『宇宙への秘密の鍵』という本を読んで宇宙の広大さに強く惹かれ、漠然と宇宙科学を志して学部は慶應大学に進学しました。しかし大学受験時に化学にも面白さを感じていた自分は、その後物理学科に進んだものの、気づけば遠い宇宙ではなく身近な物質であるソフトマターなどにも興味を持つようになりました。そんな中、コロナ禍での大学院選択時に宇宙の氷を実験で研究できることを知り、まさに自分の興味の融合分野だと感じ、現在の研究室に辿り着きました。趣味は楽器演奏で、研究の合間にクラシック音楽から刺激を受けています。
標高が高く空気が綺麗な場所で夜空を見上げると、まるで空を埋めつくすように星々が瞬いているのがわかります。ただ実際には星々が全てではなく、その間の空間にも物質が存在することが知られています。星々の間の空間のことを星間空間といい、そこに存在する物質は星間物質と呼びます。星間物質は固体微粒子(星間塵)と大量のガスから構成され、固体微粒子自体は、鉱物を中心として温度が低い場合にはその上に水だけでなくアンモニアやメタノールも含む「氷」が覆っていると考えられています。星間空間の中で密度の濃い(それでも真空に近い)領域は星間分子雲と呼ばれます。星間分子雲は自己重力で収縮することで星を形成するため、星々の母胎となっています。
しかし、太陽や私たち生命が存在する地球が誕生することが、宇宙にとってユニークであるのかどうかはいまだによくわかっていません。この疑問に答えるためには、星間分子雲を含む星間物質の物理化学的性質を知ることが不可欠です。私はこうした星形成の謎について、星間物質の詳細を明らかにすることから迫りたいと考えています。
実際の宇宙は遠いため、研究者はこれまで観測を行うことによって星形成を理解してきました。その際に、観測で見ることのできなかった部分(星間塵の構造など)については平衡(時間経過で変わらない状態)凝縮モデルという仮定を導入しました。しかし近年の広い波長での観測、さらには先進的な工学技術による実際の星間空間に近い真空・低温の環境を室内の実験室で再現しての実験によって、こうした仮定とは異なる星間物質の詳細がより明らかになってきています。
そもそも星間塵については理解するためのツールである物理学すらも万全とは言い難い状況です。星間塵を構成する物質はたいてい非平衡(時間経過で大きく変わる状態)であり、またナノメートルと小さいために界面・表面といった固体内部と異なる状態も大きな寄与を果たします。非平衡、界面・表面とは未開明で最先端のテーマであり、それ自身も実験による研究を必要としています。
私は実験装置内に星間空間と同様な環境を作り、星間塵の模擬物質を用いて実験をおこないます。そうすることで理解に必要な知識の整備もおこないながら、実際の星間塵の物理化学的性質を解明していきたいと考えています。
星間分子雲はとても低い温度であり、その星間塵の氷の構造は結晶ではなくアモルファス(非晶質)であるとされています。これは赤外線を用いた観測のほかに室内での実験でも確かめられていて、最近ではMAIRSという赤外線を用いた最先端の実験手法によりアモルファス氷表面の水分子の向きやその量の推定もなされています。
一方で、具体的に氷の結晶構造を特定するためにはX線や電子を用いる回折という手法が必要です。また星間空間に近い環境での実験で生成した氷は、装置から取り出さずにその場での解析が求められます。さらに近年ではとても低い温度においてもアモルファスではなく結晶の氷が生成する現象が示唆されています。
これまで私はとても低い温度で回折が可能な実験装置を自ら開発し、まずはその現象で生成する結晶氷の構造を世界で初めて特定しました。今後はそのメカニズムを解明し、惑星科学的意義をはっきりさせることを目標としています。
これまで私はアモルファス氷しかできないと思われていた温度で結晶氷が生成する現象を世界で初めて明確にしました。この成果が得られた背景は、自ら開発した真空・低温その場の回折の実験装置のスペックも世界初であることにあります。というのも通常の結晶化温度は140 K(-133℃)程度で、これまでは主にその温度帯が目的でした。しかし今回の実験には6 K(-267℃)の環境が必要で、その条件を達成できる実験装置は現在私のものだけです。
今後も私は実験装置の保守・改良だけでなく、さらにまた新たに実験装置を開発していくことで学問を前に進めたいと考えています。そのためにはどうしても研究費が必要になります。しかし、少しでもあれば試料の購入や装置の拡張は可能であり、それで学問にとって大きな成果を得ることができます。
academist Prizeは研究に興味のある方にオンラインでご支援いただける優れた仕組みです。活動報告では研究の進捗のほか、学会の様子など普段の大学院生の活動も含めて報告します。ぜひご支援を通じて皆さまと一緒に研究活動を行なっていきたいです! どうぞよろしくお願いいたします。
挑戦者である佐藤玲央氏は、修士一年生から星間分子雲を模した極低温の実験装置を自ら設計・開発し、これまで結晶化がおこらないとされてきた極低温環境において結晶氷が生成する現象を発見しています。今後はこの発見を皮切りに、星間分子雲の氷の構造を解明し惑星系の形成についてより深い理解を得るために、さらに研究を進めていく予定です。このように佐藤氏は今後の成果が大いに期待できる優秀な実験研究者です。
佐藤君は、研究室の他の学生の実験にも興味を持ち、積極的に見学している様子から、幅広い分野の知識を身につけている学生です。また下の学年の学生にアドバイスすることを躊躇わないだけでなく、研究室に見学に来た学生に対しても積極的に話を聞いてアドバイスしていることから、高いコミュニケーション能力を有していることも保証します。以上のように、彼は向学心に富む人物であり、我が国の将来を担う十分な資質をもっております。どうぞ彼に飛躍の機会をお願いします。
時期 | 計画 |
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2022年11月 | 月額支援型クラウドファンディング開始 |
2022年11月 | 国内・国際学会(結晶成長学会など)で発表 |
2023年1月 | 論文投稿予定 |
2023年1月 | 修士論文発表 |
2023年4月 | 実験によるデータ収集・まとめ |
2023年6月 | 国内・国際学会で発表予定 |
2023年8月 | 論文執筆開始 |
2023年8月 | 月額支援型クラウドファンディング終了 |
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