感情のコントロールは社会適応のために大切なことですが、常に適切な対応を行うのは困難なことです。自身も感情コントロールが苦手だと感じている栗原さんは、感情が生じるメカニズムやコントロール失敗の原因を明らかにすることで、感情の障害によって生きづらさを感じている人の助けとなることを目標に研究を行っています。また研究を広く伝えることで、心理学を生活に役立ててもらうための橋渡しとなることも目指します!
私たちは小さい頃から「適切な場所で適切に感情コントロールをしなさい」と教わるかもしれません。特に大人になれば、何か嫌なことをされたとしても、人間関係を壊さないようにするため、感情的にならず冷静に対処しようとする機会も増えるでしょう。社会的に適応した人生を送るためにも、感情を上手くコントロールすることは重要になってきます。
しかし、私たちは常に感情を適切にコントロールできるわけではありません。感情の反応性が大きく、ポジティブな感情もネガティブな感情も人一倍大きく感じてしまう繊細な人は、安定的で良好な人間関係を築いたり、理性的で冷静な判断を行なうことが困難になることがあります。この傾向は気分障害などの精神疾患を抱えている方であれば、さらに大きくなります。
「なぜ感情コントロールに失敗をしてしまうのだろうか」「感情はどのように生じているのだろうか」という疑問に対して、私は現在、神経内分泌物質を操作したり、脳画像データを取得したりすることで神経科学的にアプローチをしています。そして、将来的には感情コントロールが難しくなる気分障害などの精神疾患の低減を図ることを目標にして研究を行っています。
感情コントロールに失敗してしまうような行動は、どのような神経内分泌物質によって生じているのでしょうか。
健常者でも精神疾患患者においても、感情コントロールの失敗には、神経伝達物質が深く関係していることがわかってきています。たとえば、セロトニンやドーパミンが不足すると、衝動的で感情的な行動をするようになることが明らかにされてきました。
私がイギリス留学中に行った研究では、「メラトニン」という睡眠ホルモンによって、理性や抑制制御に関わる前頭前野部分の活動が低下し、感情の制御能力が低下することが示唆されました。しかし、メラトニンが高まった時に、感情の制御能力だけでなく感情自体に変化が生じるのかどうかについてはわかりませんでした。
今後は身体的な指標を用いて、メラトニンによって心拍数が低下し、皮膚電気活動が上昇するというような強い感情反応が見られるのかどうかについて検討したいと考えています。これを明らかにすることで、健常者が感情制御に失敗するときの神経内分泌的なメカニズムについて明らかにでき、将来的には感情のコントロールができない障害を持つ方の神経内分泌的なメカニズムの解明も期待できます。
メラトニンがどのように感情や感情コントロールに影響しているのか調べるため、まずはメラトニンの操作法を確立しなければなりません。PhDでの研究では、メラトニンを光によって操作し、その後唾液からメラトニンを摂取したいと思います。薄暗い部屋、自然光のある部屋、明るい光のある部屋という3種類の光の明るさを使うことによってどのようにメラトニンの濃度が変化したのかを測定し、メラトニンの測定・操作法を確立する予定です。
その上で、メラトニンの変化によってどのように感情が変化するのかを調べるために、実験参加者が「最後通牒ゲーム」と呼ばれる意思決定課題に取り組んでいる時の身体的な反応を計測し、実際に感情反応が変化しているか判定します。メラトニンによって感情が強まっていると支持されれば、その後、fMRIと呼ばれる脳活動の変化を記録する技術を用いて、感情に関係する扁桃体や手綱核などの活動の変化を記録し、メラトニンはネガティブな感情を上昇させているのかどうかについて明らかにしたいと思います。
私の研究の将来的なビジョンは、感情がどのように生じ、なぜコントロールできなくなるのかについて明らかにし、生きづらさを感じている方、気分障害など感情の障害を抱える方の助けになるような研究成果を挙げることです。
今回、クラウドファンディングに応募しようと思ったきっかけは、主に2つあります。ひとつ目は、イギリスや中国で修士の研究の再現実験を行う予定でしたが、コロナの関係でなかなか進まず、フェローシップなどが提供される学振に応募もできないことで、生活費についても研究を続けていく上でネックとなっているためです。
2つ目は、アウトリーチに関心があることです。しばらくライターとして勤務していた経験から、一般の方にわかりやすく心理学の研究を届けることの楽しさと大切さを知りました。その経験を生かして、自らの研究を皆さんの生活に役立ててもらえるような橋渡しの存在としてもありたいと思っているからです。
いただいた支援金は、生活費と研究費に使わせていただきたいと思っています。研究費は、実験器具の購入や実験参加者の謝礼、学会の参加費や教材の購入費などに用いたいと考えています。
はじめまして。現在、名古屋大学の博士後期課程の学生をしている栗原実紗といいます。心理学と社会・感情神経科学と呼ばれる分野を専門に研究を進めています。日本大学心理学科を卒業後、イギリスのユニバーシティカレッジロンドン(UCL)に留学中、認知神経科学を専攻しました。帰国後、体調不良に陥り、ストレートでPhDの進学ができなくなったため、短時間勤務で、理化学研究所でリサーチアシスタントをしながら働いたり、Webメディアで心理学関係のライターとして勤務しながら、体調の回復を待っていました。今年度2021年4月から、ついにずっと夢だったPhDの進学が決定し、名古屋大学の心理・認知科学専攻で博士後期課程の学生を始めることになりました。研究以外に好きなことは、アート全般です。暇なときには、小さい頃からやっているバレエをしたり、小説を書くことを通して、日々自分の気持ちと向き合っています。私自身も、繊細で傷つきやすく気分のコントロールが苦手なタイプなので、繊細な方や気分障害の方などの気持ちがわかり、今回の研究テーマの重要性を感じています。応援よろしくお願いします!
時期 | 計画 |
---|---|
2021年7月 | パイロットスタディと本実験1−操作法の確立 |
8月 | 修士の論文投稿 |
9月 | 日本心理学会発表予定 |
9月 | 国際学会発表予定 |
10月 | 論文の投稿 |
11月 | パイロットスタディと本実験2−メラトニンと意思決定 |
2022年3月 | 論文投稿 |
4月 | パイロットスタディと本実験3−メラトニンと感情 |
5月 | 国際学会発表 |
9月 | 論文の投稿 |
9月 | 日本心理学会発表 |
2023年5月 | 博士論文執筆 |
4月 | 国際学会発表 |
5月 | 国際学会発表 |
2024年3月 | 博士号取得 |
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サポーター限定ページにて、毎月の活動報告を行います。研究の内容や進捗状況、学会発表の様子などをお届けします。
8人が支援しています。
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