櫃割仁平
ドイツ、ヘルムートシュミット大学の櫃割仁平です。実験心理学や神経科学の手法を用いて、美的感性、特に俳句の余白やいけばなの「間」の美しさなどを定量的に検討してきました。日本文化と美の研究を重ねるうちに、その核心にあるのは言い切らないこと、すなわち「曖昧さ」だと気づきました。2024年からは心理学研究コミュニティ「あいまいと」を主宰し、研究者ではない市井の方々と一緒に研究を進めています。academistの月額支援プロジェクトでは「美は世界を救う」を掲げ、現在も挑戦を続けています。今回の挑戦は、その歩みの先にあります。美の研究が導いてくれた「曖昧さ」という核心に取り組みます。
曖昧さを受け入れ、味わえる人を増やしたい。これがわたしのビジョンです。
世界はますます「すぐに答えが出ること」を求めるようになりました。動画は倍速で、本は要約で、問いにはAIが即答する、ショートでファストな時代です。しかし、疫病、災害、紛争など、本当に重い課題は、正解が決まっていない曖昧なものであることが多いです。正解を出す力は、これからAIがますます引き受けてくれます。だからこそ、答えを急がず、曖昧さを受け入れて生きる力(心理学では「曖昧さ耐性」や「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼ばれます)が、いっそう大切になると考えています。
曖昧さを受け入れられる人が増えると、世界はどう変わるでしょうか。まず、自分や相手の主張を絶対と思い込むことから生まれる争いや、わからなさに耐えかねてそれらしい答えに飛びつく陰謀論が、少しずつ減っていくはずです。実際、わたしたちは、曖昧さを受け入れられる人ほど陰謀論を信じにくいことを実証しました。そしてその先にあるのは、白黒のつかないことを認め合ったうえで、違う考えの相手と対話を続けられる社会——わたしの目指す「対話と寛容の社会」です。
わたしはこれまで、俳句やいけばななど、言い切らない「余白」をもつ日本文化を対象に、曖昧さの心理学を研究してきました。余白とは、読み手の想像に委ねられた部分、すなわち曖昧さです。わたしたちの研究では、俳句の鑑賞と創作によって、物事に白黒をつけたがるこころの傾向が和らぎ、その効果が1週間後も続くことを実証しました(Hitsuwari & Nomura, 2023)。曖昧さを受け入れる力は、大人になってからでも育てられる。そして、そこに日本文化が寄与する。これがこれまで取り組んできた研究の柱です。
さらに今回新しく取り組むのは、これとは別の角度からの問いです。検査をしても原因のわからない不調や、いつ来るともしれない災害など、正体のわからない不安に直面したとき、わたしたちは白黒をはっきりさせたくなります。しかし日本の文化には、わからないものを無理に解明するのでも、目をそらすのでもなく、別のすがたを与えて共に生きるという道がありました。その代表が「妖怪」です。江戸時代の人々は、正体のわからない疫病をアマビエという妖怪に描きました。コロナ禍でアマビエが再び広まったのは、この知恵が今も生きている証だと思います。妖怪は、曖昧さを受け入れるための方法論なのではないか。この仮説を、心理学の実験で確かめます。
そして、この歩みは研究室に閉じません。心理学研究コミュニティ「あいまいと」では、市井の方々と仮説づくりから論文化まで共同で行い、国際誌での発表も実現してきました。今回も、研究の一部をみなさんと一緒に進めていきます。
妖怪は本当に、曖昧さを受け入れるための方法論なのでしょうか。この問いの芽は、ある妖怪の展示で出会った解説にあります。妖怪とは、見えない不安に名を与え、追い払わずに共に生きるための知恵である——わたしが追いかけてきた「曖昧さ」と、日本文化が育てた妖怪が、そこで結びつきました。
もっとも、妖怪として具現化することで白黒がついてしまうなら、それは曖昧さを受け入れているのではなく、消しているだけです。しかしわたしたちが行った調査では、妖怪の印象には「怖い」と「可愛い」が同じ人の中に共存していました。名前と姿を与えられてもなお、曖昧さは完全には消えないのです。
では、曖昧なものを曖昧なまま受け入れられるかたちにすると、人の何が変わるのでしょうか。ここで鍵になるのは、妖怪が「命あるもの」として描かれてきた点、すなわち擬人化です。最新の研究では、AIや森を擬人化しこころを見出した人ほど、感謝や対象を大切にする行動につながることが示されました(Chang et al., 2026)。本研究では、妖怪という文化的な枠組みもまた、恐れや不安の対象に親しみを混ぜ、ともに生きることを可能にするのか、検証したいと考えています(下図)。
幅広い年代のおよそ300名を対象に、オンライン実験を行います。参加者には、「原因も治療法も不明の架空の感染症が広がっている」というような状況の短い文章を読んでもらいます。このとき、感染症の情報だけを読むグループと、その感染症を妖怪として描いた姿と物語もあわせて読むグループに分けます。そしてこの2つのグループで、1. 不安の強さ、2. わからないままの状態への耐性、3. 対象への親しみ、4. 予防や情報収集などの行動への意欲、がどのように変わるかを比べます。つまり、妖怪は曖昧さを消す方法ではなく、曖昧さに手がかりを与える方法である、という仮説の検証です。
さらに第2段階として、与えられた妖怪を読むだけでなく、参加者自身に妖怪を想像して、描いてもらう実験も計画しています。自分の不安に、自分の手で姿を与えるとき、何が起こるのでしょうか。
わたしを含め多くの研究者は、世界を平和にしたいと願って研究をしています。しかし、これまで続けてきた美的感性の研究は、その願いとの結びつきがどうしても弱く、どうすればこの命を、世界が平和に近づくために使えるのかと、考え続けてきました。いま、その入り口に立っている手応えがあります。主張を絶対と思い込まず、わからなさを受け入れて対話を続ける力が、平和に繋がっている、という仮説です。
この挑戦は、論文を書くだけでは完成しません。曖昧さを受け入れ、味わえる人が増えることがゴールだからです。クラウドファンディングを通して、一緒に研究を面白がり、語り合ってくれる人の輪を広げていきたいと思っています。ご支援は、調査・実験の実施費用、英文校正、国内外での学会発表、「あいまい会議」などの対話イベントに、大切に使わせていただきます。
リターンには、「あいまいと」への参加権をご用意しました。研究の進捗を間近で見守っていただけるほか、研究会や共同研究にご一緒いただける機会もあります。この輪の中で、曖昧さを一緒に面白がっていただけたら嬉しいです!
「曖昧さ」を避けるべきものと捉え、それを取り除くことで発展してきた現代文明。そのような時代のなかで、あえて「曖昧さ」の価値に照準を合わせ、さまざまな文化を横断しながら学際的な心理学研究を展開する櫃割さんの研究や活動には、いつもワクワクさせてもらっています!
櫃割さんなら、「曖昧」だけれども、どこか優しい、新しい社会や文化のあり方を見つけ出してくれるはずです。そんな期待を胸に抱きながら、今回のクラウドファンディングも全力で応援しています!
研究力も発信力もある櫃割さん。きっと世の中に響きを与えてくれる研究になることは間違いないです! 今回の「妖怪」という日本独自の「知恵」に着目した挑戦は、正体不明の不安や分断と向き合い、他者と寛容に対話できる社会をつくる大きな一歩となるはず。僕自身も研究として安易な二項対立について考察を続けており、櫃割さんのプロジェクトから学ぶことはとても大きいです。応援しております。
「タイパ」や「コスパ」などの言葉と共に効率性が重視される昨今、私たちは美しいものを美しいと感じる心の余裕を失いつつあると感じます。一方で、効率だけを追求するのであれば人間はAIには叶わない。そんな時代の中で「人にしか生み出せない、人にしか与えられない価値」を追求し「真の豊かさ」を考えるための大切な問いが、櫃割さんの研究には含まれていると感じます。ここからどんな未来が見えるのか、楽しみにしています!
櫃割さんは、「曖昧さを味わえれば、自分を絶対視せず、白黒にこだわらない対話が生まれ、それが平和にもつながる」と語ります。私も、寺で手を合わせ願い事をする、坐禅を組むといった、曖昧さと余白を含む行為が、心身の平穏や平和につながると考えており、その思想に強く共鳴します。現在、櫃割さんと両足院は、寺院文化が人に与える影響を実証する論文執筆にも協同で取り組んでいます。日本的な「曖昧さ」が秘める可能性を、この挑戦を通じて世界へ広めたい。そう願い、心より推薦いたします。
| 時期 | 計画 |
|---|---|
2026年9月 |
クラウドファンディング開始 |
2026年9月 |
妖怪・幽霊の印象調査研究、論文投稿(Poeticsなどの国際誌) |
2026年10月 |
心理学研究コミュニティ「あいまいと」で研究プロジェクト募集(既にこれまでに8つのプロジェクトが進行しています。今回は、私が主導するのではなく、引っ張っていって頂くメンバーにお願いしつつ、同時進行的にさまざまな研究を興していきます!) |
2026年12月 |
あいまいと内プロジェクト始動 |
2027年1月 |
あいまいと内プロジェクト調査・実験など |
| 研究計画をもっと見る | |
2027年2月 |
あいまいと内プロジェクトデータ分析 |
2027年3月 |
あいまいと内プロジェクトデータ分析 |
2027年3月 |
あいまいと内プロジェクト論文執筆・投稿 |
2027年3月 |
あいまいと内プロジェクトろんぶんしpp |
2027年3月~9月 |
一時帰国のタイミングに合わせて、「あいまい会議」開催 |
オンラインで櫃割の研究進捗や今後の展望について聞いて頂き、質疑応答や対話を行う交流会に参加頂けます。心理学研究コミュニティ「あいまいと」のメンバーにもご参加頂く予定です。現時点では、2026年11月27日(金) 夜を予定しています。
オンライン交流会参加権 / お礼のメッセージ
| リターン | 実施予定日 |
|---|---|
| オンライン交流会参加権 | 2026年11月 |
1人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
心理学研究コミュニティ「あいまいと」に、2030年12月31日までご参加いただけます。研究の進捗をいち早く共有するほか、オンライン研究会や、共同研究プロジェクトに参加できる機会(不定期)もあります。研究が育っていく過程を、間近で見守り、ときに一緒に進めていただけたら嬉しいです。
心理学研究コミュニティ「あいまいと」参加権 / お礼のメッセージ / オンライン交流会参加権
| リターン | 実施予定日 |
|---|---|
| オンライン交流会参加権 | 2026年11月 |
3人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
このプロジェクトの助成を受けて、出版された論文の謝辞欄にお名前を記載させて頂きます。
論文謝辞にお名前記載 / お礼のメッセージ / 心理学研究コミュニティ「あいまいと」参加権 / オンライン交流会参加権
| リターン | 実施予定日 |
|---|---|
| オンライン交流会参加権 | 2026年11月 |
1人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
櫃割がオンラインでのイベントや研修会などでお話します。1時間の使い方はお任せします。
オンライン登壇権 (1時間) / お礼のメッセージ / オンライン交流会参加権 / 心理学研究コミュニティ「あいまいと」参加権 / 論文謝辞にお名前記載 / 櫃割との1on1権(オンライン・1時間)
| リターン | 実施予定日 |
|---|---|
| オンライン交流会参加権 | 2026年11月 |
1人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
オンラインで1時間、櫃割と一対一でお話しできます。内容は自由です。曖昧さや妖怪の研究の話、心理学の研究・キャリアの相談、あいまいとの活動の話、あるいは気ままな雑談でも。ご関心に合わせて準備してのぞみます。音声や動画を公開して頂いてもかまいません。日程は個別にご相談のうえ調整します(ドイツ在住のため、時差を考慮して決めさせていただきます)。
櫃割との1on1権(オンライン・1時間) / お礼のメッセージ / 心理学研究コミュニティ「あいまいと」参加権 / 論文謝辞にお名前記載 / オンライン交流会参加権 / オンライン登壇権 (1時間)
| リターン | 実施予定日 |
|---|---|
| オンライン交流会参加権 | 2026年11月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
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