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齋藤 貴之
北海道武蔵女子短期大学、准教授
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進捗報告 vol.07

2024年2月に、共同研究者である西谷が長﨑県および福岡県において調査等を実施し、報告書を作成しましたので、報告いたします。

調査者:西谷榮治 個立利尻Dしま博物館

■長崎県・福岡県調査 2024年2月23日~28日
長崎県諫早市、平戸市、佐世保市及び福岡県福岡市において昆布を用いた正月飾りについて現地調査を行った。当所は12月10日から15日までの予定が、利尻島からのフェリー、飛行機が悪天候で欠航したことから、調査日程を改め2月23日から5泊6日となった。
進捗報告 vol.07では、長崎県諫早市、佐世保市、平戸市、波佐見町と福岡県福岡市での調査について報告する。

❐諫早市曹洞宗天祐寺調査 2024年2月24日
曹洞宗天祐寺を訪れ、住職から正月飾りや位牌堂への昆布のお供えを伺った。江戸時代の肥前国佐賀藩諫早領の領主の菩提寺である天祐寺には諫早家の家紋が入った三宝がある。正月飾りとして三宝に玄米を盛りつけ、その上に紅白の水引で結んだ筒状の昆布を置く。もう一つの三宝にはウラジロを敷き、その上に鏡餅、その上に橙を載せる(p1)。飾る場所は、玄関などお客様を迎えるところ。この飾り方は住職の父が行っていたものを継続しているとのことで、諫早領内の公家、武家、商家は玄米ではなく米に筒状の昆布を飾っていたとの情報があることから、玄米を飾るようになったのは新しいのかもしれないと言っていた。この正月飾りはお寺に来る人たちを歓迎することで餅あげの12月29日から餅さげの1月4日まで行う。
また、天祐寺の位牌堂(p2)に年末のお参りで昆布と干し柿を、お盆参りには昆布と素麺をお参りする人たちがお供えすると言ってた。素麺は乾麺そのものをお供えする。

❐平戸市生月町博物館・島の館と松浦史料博物館調査 2024年2月25日
平戸市生月町博物館・島の館と松浦史料博物館を訪れた。長崎県北部の生月島にある生月町博物館・島の館では、保管している島内の民家でのお正月飾り写真を数枚見せていただいたが、仏壇にウラジロを敷きその上に鏡餅を重ね、その上に橙を載せていた。生月島ではお正月飾りに昆布が使われている事例を把握できなかった。(p3)
松浦史料博物館では、松浦家の年中行事が出入りしている商家によって描かれている絵巻が展示されていた。行事の正月の部分が見えなかったので博物館の職員に正月の鏡餅が描かれているか、描かれているのであれば飾りとして昆布が描かれているかを聞いてみた。すると、鏡餅には昆布を飾らないが、正月に松浦家に年始の挨拶に来た人たちに昆布とスルメを渡す「御手掛(おてかけ)」があり、昆布は小さく細く切って、ゆずり葉をつけた橙・熨斗あわび・焼き栗・干し柿などを米を盛った錫鉢に乗せていたという。松浦家の正月の年中行事は『家庭画報』1月号(第66巻第1号 2023年1月号 世界文化社)に「平戸・松浦家のお正月」として載っているのを見せてくれた)そこには「御手掛」が掲載されていた。(p4)

❐波佐見町歴史文化交流館調査、佐世保市白岳神社、佐世保市教育委員会遺跡発掘調査事務所、2024年2月26日
波佐見町歴史文化交流館では波佐見町生まれの館長代理が幼い頃からの自宅でのお正月の鏡餅飾りを教えてくれた。部屋ごとに、ウラジロを敷きその上に大小二つの平たい球状の鏡餅を置き、鏡餅の重なるところに昆布とスルメを置き、その上に干し柿、鏡餅の最上部にみかんを置いたという。三宝への飾りは最近になってからという。(P5)
館長代理が小値賀島での正月飾りについて情報を提供してくれた。樫の木または松の木に大根、人参、昆布等を平年は12本、閏年は13本をぶら下げ、五穀豊穣、無病息災を願うとのこと。こうしたヤサイなどをぶら下げる木の棒を小値賀島では「幸木」(さわぎ)と言っているという。
佐世保市にある白岳神社を訪れた。
宮司の父の正月飾りなどを引き継いでいるという。三宝に半紙を敷き、その上にウラジロ、鏡餅を載せる。鏡餅の間に昆布を入れ、その両端にスルメを置く。鏡餅の一番上に橙を置く。(P6) 白岳神社には現在の宮司の祖父で平戸市の亀岡神社で宮司をしていたが要請があって白岳神社に移ってきた。現在の正月の神前での飾りは父のやり方を受け継いでいるが、それが平戸市の亀岡神社の飾り方なのか、白岳神社にあった飾り方なのかはわからないとのこと。白岳神社の神前の飾り方と自宅での飾り方で違いがあったという。それは干し柿で、神前の鏡餅には飾らないが自宅の鏡餅には飾っていた。なぜ、神前と自宅で違うのかはわからないようだ。
ハレの神事には昆布やスルメをお供え物として使うことが多く、特に個人の家の地鎮祭のお供え物として昆布とスルメが使われたが、より高齢の大工さんからの依頼はあるが若い大工さんたちからはお供えの依頼は少なくなっているという。
佐世保市教育委員会文化財課の遺跡発掘調査事務所を訪れた。そこで佐世保生まれの主査の幼い時の思い出として正月の鏡餅の飾り方を思い出してくれた。鏡餅は三宝に載せず、床の間に半紙を敷きその上にウラジロと昆布を置き、その上に鏡餅、その上に橙を置いていたという。今は実家では飾られていないとのこと。遺跡発掘事務所で働いている佐世保市内に住む60代の女性の方が正月飾りについて話してくれた。ここでも同じく三宝は使わず、床の間に半紙を敷きウラジロを置き,その上にユズリハをハの字に置く。さらに、ウラジロ、ユズリハの上に昆布とスルメを置き、その上に鏡餅を、最上部にみかんと干し柿一個を置くという。

❐福岡市博物館訪問 2024年2月27日
午後の福岡空港から新千歳空港に向かう前に、福岡市にある福岡市博物館を訪れた。常設展示「10福博人生」に「博多結納飾り」の展示があった。(p7) 解説パネルには「昆布で作った「二見ヶ浦」は、筑後地方の風習を博多に取り入れたものである」と書かれている。「二見ヶ浦」とは玄海国定公園内の福岡県糸島市志摩桜井の海岸にある「二見ヶ浦」で、大注連縄で結ばれている夫婦岩がある。夫婦岩を形づくった昆布は「子生婦(こんぶ)」と表示されている。福岡県糸島市・二見ヶ浦・夫婦岩は筑前、福岡県の奥部の有明海に面するのが筑後。筑前の夫婦岩が筑後で子生婦:昆布で形づくられて筑前に戻る。この結納の風習はどの時代まで遡ることができるのか、公家・武家などの限られた風習であったのかなど、さらなる調査を要する。
福岡市博物館のミュージアムショップでアクロス福岡文化誌2『ふるさとの食』(アクロス福岡文化誌編纂委員会編 2008)を購入した。「食のスタイル」の「行事と食」に「よろずかけ」が載っていた(126頁)。(p8) そこには次のように書かれている。「よろずかけ(福岡市博物館提供)。志賀島の漁村では、塩ブリもしくは塩サワラ、スルメ、コンブ、干し柿など山海の幸を荒神棚の下につり下げ、航海安全と大漁を祈願する」。(p6) 同じくミュージアムショップで購入した『博多のくらし』(森弘子 海鳴社2023年)の「お正月を迎える」には「お年玉は米と昆布・スルメの小さく切ったものを半紙で包み、紅白の紐で結んだもの」と書かれている。

■まとめ
今回の長崎県諫早市、平戸市、佐世保市及び福岡県福岡市において食べること以外での昆布がどのように使われているのか、どのような意味があるのかが把握できたことを整理すると次のようになる。

1.形容
1-1.正月飾り
①玄米の上に昆布を筒状にして飾る
②鏡餅に昆布を飾る 平たくして鏡餅の間に敷く 鏡餅・橙・昆布・スルメ・干し柿・ウラジロ
③幸木、よろずかけ つり下げた木の棒に山海の幸を飾る 昆布をつり下げる
1-2.結納
①昆布を子生婦と表す 昆布を使って夫婦岩をつくる
1-3.位牌堂への供物
①年末のお参り 昆布・干し柿
②お盆参り 昆布・素麺
1-4.歓迎とお年玉
①御手掛 年始の挨拶に来た人たちの歓迎
②お年玉 昆布とスルメを小さく切って半紙に包んで子どもたちに渡す 

2.用途
2-1.正月飾り
2-1-1鏡餅
1)橙 「だいだい」→「代々」だいだい家が繁栄すること
2)昆布 「よろこぶ」・「子生婦(こんぶ)」として正月を迎えられたことへの喜びと子孫繁栄
3)ウラジロ 葉の裏側が白いのは心が清く、私利私欲をもたないこと
4)ユズリハ 新葉がそろってから古い葉が落ちること、代々相譲るという縁起を祝う 家が切
れ目無く続くこと
5)スルメ 「寿留女」は家庭の円満
6)干し柿 幸せを「かき」集める 嘉来(かき):よろこび・幸せが来る
2-1-2幸木、よろずかけ . 五穀豊穣、無病息災、航海安全、大漁祈願
2-2. 位牌堂のお供え
2-2-1.昆布、素麺 その由来はわからないとのこと
2-3. 歓迎とお年玉
2-3-1.歓迎 御手掛では年始挨拶来客への歓迎と昆布やスルメなどを半紙で包んで渡していた
いという。家と来客の繋がりを慶び、関係が円満であることを願・祝う
2-3-2.お年玉 『博多のくらし』には、半紙で包んだ上に干し柿を載せる家もあり、子どもたちには「年神さまからのプレゼント」と書かれている

それぞれの調査地で聞き取れたことを整理してみたが、飾りつけている人たちには、飾る個々の物の意味や由来などが充分にわかっていないことが多かった。祖父や父親がやっていたので、そのまま飾りつけていることが多かった。
鏡餅の飾りつけは、橙・昆布・スルメ・ウラジロが共通しているが、干し柿またはユズリハは場所によって飾りつけの有無があった。幸木またはよろずかけは長崎県の小値賀島、志賀島での情報に接したが、これまでの調査で同じような飾りは島根県松江市の曹洞宗法眼寺にあった。天井から竹棹を吊して、その中央に4㍍近い昆布を垂らし、両側にそれぞれ白カブ一対、津田カブ一対、大根一対、ジンバ(ホンダワラ)・吊るしミカンをかけていた。(p9) この飾り方は進捗報告vol.06で群馬県みなかみ町東峰地区の例が報告されている。長崎県での調査事例のさらなる詳細な調査を要することはもちろんであるが、その事例を国内各地と比較検討していかなければならない。地道に取り組んでいきたい。

齋藤 貴之 April, 2024
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