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齋藤 貴之
北海道武蔵女子短期大学、准教授
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目標金額: 500,000 円
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107 %
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50
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進捗報告 vol.04

ご無沙汰いたしております。齋藤です。

2023年度夏に実施いたしました調査等について報告いたします。
以前実施した秋田県、山形県ならびに青森県津軽地方での調査を受け、主として、お盆における昆布の利用の実態を把握するため、岩手県および青森県三八上北・下北地方を対象に、各市町村の教育委員会や郷土資料館等の協力を得ながら実施いたしました。
まだまだ途中ではありますが、今回は、岩手県のおける調査結果を中心に報告いたします。

【鏡餅・正月のお供えにおける昆布の利用】
利用する・した    :0市町村
利用しない・事例がない:23市町
調査中        :10市町村(陸前高田市、葛巻町、岩手町、矢巾町、住田町、岩泉町、普代村、軽米町、野田村、九戸村)

鏡餅(カガミモチ、オソナエ)に昆布を利用する事例は1件も確認することができず、市町村史等においてもそのような記載はほとんどないことがわかりました。唯一、確認できたのは、『日本の民俗 岩手』のなかにあった「陸前高田市に編入された旧矢作村大島部では正月に魚形の藁苞に入れた餅に松とこんぶを添えてお水神さまに供える」という記載のみです。このため、過去においても鏡餅に昆布を利用するといった風習はなかったものと考えられます。関連するものとして、山田町では、正月に、神棚に、松の葉や田作りなどと一緒にミツイシコンブ(黒昆布)を供える、とのことでした。
また、青森県三八上北・下北地方においても、鏡餅(カガミモチ、オソナエ)に昆布を利用する事例は1件も確認することができず、関連するものとして、旧士族が多く住んでいた内丸で昆布を三方に載せ、床の間に飾っていた事例(八戸市)と、鏡餅を包む藁苞に昆布を挟み込んでいた事例(むつ市)があるのみでした。
「太平洋沿岸地域では、鏡餅に昆布を利用する事例が少ない」ということを裏付ける結果になりましたが、三陸海岸沿岸地域や津軽海峡付近は天然昆布の生息地であり、昆布の生産地であるにもかかわらず、鏡餅に昆布を利用する事例がほとんど見られないということは、北海道と同様であり、それが何を意味しているのかについて詳しく調べる必要があると感じています。京都や大阪で生まれた昆布文化が昆布ロードを通じて経由地にもたらされ、その周辺地域で発展した、というのもひとつの有力な説なのかもしれません。

【正月飾り等における昆布の利用】
としな(年縄)や、しめ縄・しめ飾りに昆布を利用する事例が、12市町(宮古市、花巻市、北上市、遠野市、一関市、八幡平市、押収し、紫波町、金ケ崎町、山田町、洋野町、一戸町)にありました。
としな(年縄)は、しめ縄・しめ飾りと混同されていることも多いですが、わらでなった30cmくらいの太めの縄を縦に吊すもので(縦年縄ともいう)、その上部に昆布や松葉、にぼしなどが挟み込みます。例えば、紫波町では、稲藁に、上から松、昆布、にぼしの順で挿すそうです。
しめ縄・しめ飾りは玄関や神棚に張り、わらでなった縄に直接挟み込むところと、縄から伸びた藁の先に結びつけ吊すところ(洋野町)があったほか、門松と門松の間にしめ縄を張り、昆布やにぼしを挟み込むまたは吊すところ(宮古市、花巻市、北上市、一戸町)があり、遠野市では切昆布と田作りを和紙にくるんで、縄の真ん中に吊していたそうです。また、一関市では、門松の「はばき」(根元に添える割り木)のところに、紙を三角に折ってその上にたづくり、短冊に切った大根、昆布を載せて、置いたそうで(『岩手の旧正月調査報告書』p.69)、奥州市では、門松に供え物として、御神酒、オボコモチ二つ、昆布、煮干、するめ、栗、柿等を供えていたそうです。

参考:一関市の鳥居型門松とはばき
https://www.iwanichi.co.jp/2018/12/16/266849/

旧藤沢町(現一関市)では、大晦日に、神前に新箕を置き、12個の餅(閏年は13個)に12膳の箸を立て、串柿、栗、昆布、海苔、飴、その他菓子等をあげて祀る、「おみたまさま」という風習があったそうです(『岩手の旧正月調査報告書』p.107)。

また、小正月の行事に昆布を用いる事例が7市町(久慈市、二戸市、雫石町、平泉町、山田町、洋野町、一戸町)にありました。
雫石町には、かつて、「のさ打ち」という風習があり、新しい年を迎えてから初めて山仕事をする日に、年縄に12個の結び目をつけて、これに田づくり、昆布、餅等をつけたものを持って出かけ、家の裏の「あきの方角」の木の枝を折り、そこにそれをかける、というものです。二戸市の旧暦1月8日の「山入り」でも、藁で作った年縄和(大豆を模し、松葉、昆布、炭を刺し、トシナ紙をつける)を持って外に出て、家の近くの芝垣か桑の木に結いつけていたそうで(『岩手の旧正月調査報告書』p.159)、旧東和町(現花巻市)でも旧暦の1月8日に「農作(のさ)打ち」を行っていて、その際に昆布や田つくりや豆からのはしを焼いて黒くこがしたものを挟んで年縄を作っていたそうです(『岩手の旧正月調査報告書』p.45)。
また、かつて、県内の多くの地域で、「やっかがし」や「戸窓フタギ」と呼ばれる風習があり、これは、15日の夕方に、クルミの木などを削って串を作り、餅、豆腐、にぼしなどを刺したものを松の根を燃やした火にあてて黒くいぶし、家の入り口に刺したり、挟み込んだりなどして厄除けとするもので、この串に餅や豆腐などとともに昆布を用いる事例が5市町(木地師、二戸市、山田町、洋野町、一戸町)で見つかりました。

参考:やっかがし(埼玉県嵐山町)
http://www.ranhaku.com/web07/c2/1_04yakkagashi2.html

このほか、平泉町には、「15日の飾りもの」として、15日の朝、山からとってきたカツノキ(接骨木)を一尺くらいの長さに切り、紙を四手状に切り、吊したりしてハナをつくり、栗の木の枝の芯につけます。この飾りものを16日に外庭に立て、この木から軒下へしめ縄をはり、この縄に馬沓、白くおしろいを塗った瓢箪、昆布などをかけ並べるそうです。
これらは、鏡餅・お供えやしめ縄とは異なるものの、「昆布を用いた正月飾り」であるため、同様の風習が見られる青森県を含め、その広がりなどについて引き続き調査を続けていく必要がありそうです。

このように、岩手県では、鏡餅に昆布を用いる事例は見つからなかったものの、しめ縄等の正月飾りに用いる事例は数多く見つかり、特に小正月行事において昆布を用いる風習を数多く見いだすことができました。「のさ打ち」は秋田県での調査でもいくつか事例が得られており、「ミダマ飯」も山形県での調査でもいくつかの事例が得られており、また宮城県にも同様の風習があるとのことなので、それらについては何らかの関係性があることを念頭に、分布範囲などについてもう少し詳しく調べてみたいと思っています。「やっかがし」は岩手県や青森県以外では、節分の風習として、特に東日本各地にあるようですが、昆布を用いる事例は限られているようですので、そのあたりに着目しながら情報を収集していきたいと考えています。岩手県は広く、地域ごとに特色があることが分かってきましたので、それを上手くまとめることができれば、歴史的な関係性やそれぞれの起源などに辿りつくための手がかりが得られるかもしれません。そのような可能性を感じた今回の調査でした。

【お盆における昆布の利用】
利用する・した    :15市町(盛岡市、宮古市、花巻市、北上市、久慈市、遠野市、一関市、釜石市、二戸市、奥州市、紫波町、平泉町、山田町、洋野町、一戸町)
利用しない・事例がない:8市町(大船渡市、八幡平市、滝沢市、雫石町、西和賀町、金ケ崎町、大槌町、田野畑町)
調査中        :10市町村(陸前高田市、葛巻町、岩手町、矢巾町、住田町、岩泉町、普代村、軽米町、野田村、九戸村)

岩手県内では、お盆に昆布を利用する事例を数多く確認することができました。
盆棚に昆布を利用する事例は8件ありましたが、秋田県や山形県のような飾りつけではなく、栗の木の枝や花などとともに盆棚の柱や仏壇に吊して飾るというものであり(宮古市、一関市、遠野市、釜石市、平泉町)、棚に供えるというところ(久慈市、一関市、一戸町)もありました。緑色のいがぐりのついた栗の木の枝を用いる理由も大変興味深いのですが、これについても理由はよくわかっていないとのことでした。また、紫波町では盆棚の柱を安定させるために柱の一番上のところを昆布で結わえるという利用でした。
お盆における昆布の利用で最も多かったのは、送り盆での利用であり、かつては、お供え物をコモで包み、昆布で結わえて川などに流していた、川などに置いてきていたところが9件(宮古市、久慈市、一関市、釜石市、二戸市、紫波町、山田町、洋野町、一戸町)あり、遠野市では昆布も他のお供え物と一緒にコモの中に入れて川などに流していたそうです。

参考:一関市の盆棚
https://www.center-i.org/%E6%83%85%E5%A0%B1%E7%B4%99idea/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%87%AA%E7%94%B1%E7%A0%94%E7%A9%B6/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%87%AA%E7%94%B1%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E7%9B%86%E6%A3%9A/

そして、最も興味深いのが、花巻市周辺の事例で、墓石の上に長い昆布を載せ、その上から水をかけ、拝むというもので、現在は墓石が汚れるなどの理由からほとんど見られるなくなったものの、花巻市のほか、盛岡市の一部や北上市、奥州市の江刺東部などで行われていたそうです。その理由は定かではありませんが、送り盆での昆布の利用と同様に、また以下の動画にもあるように、お供えものをコモで包み、ご先祖さまの背負い縄として昆布で結わえるための一環としてそのような風習が生まれた可能性も高いのではないか、と考えています。

参考:
https://togetter.com/li/1249594
https://www.youtube.com/watch?v=r6P_GShDpWI

また、紫波町では、お墓の間に棚を作りお供え物をあげ、昆布を棚から地面に垂らしてお供えするそうです。お墓の前に棚を作るのは秋田県の藤里町でも見られました。

こうした盆棚や送り盆に昆布を利用する事例は、青森県三八上北・下北地方にも見られ、また、盆棚に昆布を利用する事例は仙台藩であった南部地域にも見られたことから、その分布範囲などを含めて、青森県や宮城県などの太平洋岸地域との関連性も検討しつつ、さらに調査を進めて行きたいと考えています。

なお、青森県についても、令和4年度および令和5年度の調査を通してだいぶ情報が集まってきましたので、後日改めて報告いたします。

以上、今回も前回に引き続き、まだまだ中途半端な状態で、画像もなく、わかりづらい報告となってしまいましたが、現時点での進捗状況を報告させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします。

齋藤 貴之 2023年11月
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