「恐怖、感動、驚き——さまざまな感情体験で鳥肌が生じるのはなぜ?」は、7月18日をもって目標金額を達成しました。ご支援いただいた皆さま、Twitterでの情報発信にご協力いただいた皆さま、本プロジェクトの実施をサポートいただいた皆さまに心より御礼申し上げます。
これまでの期間中には、「自分の意思で鳥肌が立てられる」能力をお持ちの11名の方に、研究へのご協力をいただくことができることとなりました。また、Twitterで実施したアンケートでは、これまでの研究結果と比較するうえで重要なデータを得ることもできました。このチャレンジ自体が研究プロセスの一部として大変意義あるものとなっており、クラウドファンディングを通じた市民科学の可能性を垣間見たような思いがしています。ご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
皆さまからいただいたご支援金につきましては、当初の計画通り、実験協力者の方への事前調査や、実験実施機関までお越しいただく際の交通費として活用してまいります。また、今回のチャレンジでは目標額を上回るご支援をいただいており、機材の調達や、将来の論文・学会発表の費用としても活用させていただきたいと考えております。さらに充実した研究となりますよう、短くはありますが、残り期間も引き続きご支援をよろしくお願い申し上げます。
なお、「自分の意思で鳥肌が立てられる」能力をお持ちの方につきましては、チャレンジ終了後も募集を継続いたします。研究への参加にご興味を持たれた方は、k.katahirum@gmail.com まで、是非ご連絡ください!
(研究の詳細についてまとめました⇒https://sites.google.com/site/kenjikatahirashomepage/home/project_goosebumps)
academist編集部
恐怖のあまり鳥肌が立った——みなさんは、こんな経験をしたことはありますか? 感動的な演奏で鳥肌が立った——こちらの場合はどうでしょうか? 私たちは特に強い感情を体験するときに、しばしばこのような「鳥肌」が起きているのに気づくことがあります。
このとき私たちの体では、毛穴のそばにある立毛筋という小さな筋肉が自律神経の働きによって収縮し、体の毛が逆立つ「立毛」と呼ばれる現象が起きています。立毛が生じると毛穴の周辺が少しだけ隆起するのですが、私たちはこれを鳥肌として目にしています。
立毛の現象は古くから知られていたようで、たとえばシェイクスピアは「毛が逆立つ」という表現を多用していますし、もっとさかのぼれば仏教の経典や古代インドの叙事詩のなかに同様の表現を見つけることができます。昨今ではニュースやSNSのなかで、恐ろしい出来事や感動的な出来事をきっかけとした鳥肌の体験談をしばしば目にすることがあるのではないでしょうか。今も昔も、鳥肌や立毛は印象深い感情体験を象徴するような身体の反応だといえるでしょう。
この立毛という反応は哺乳類で広く見られるものです。毛皮を持った動物の場合、逆立てられた体毛は寒い環境で体温を保ったり、外敵などの脅威に対して威嚇をしたりするのに役立っています。後者については、ネコが怒ったり怖がったりして毛を逆立てているのを思い浮かべるとよいでしょう。人間が恐怖を感じたときに鳥肌が立つのも、まだ毛皮を持っていた祖先から同様の反応を受け継いでいるからだと考えられています。もっとも、人間の場合はほとんどの体毛が退化していますから、毛が逆立つという身体の末端(末梢)の変化がその役割を果たすことはありません。
それにも関わらず今も私たちに立毛が生じるのはなぜでしょうか? ひとつの考え方は、祖先から受け継いだ脳内(中枢)の「脅威に対処するシステム」が私たちのなかにも息づいているからだというものです。立毛はこのシステムとよほど強く結びついているために、その活動の副産物として生じてくるというわけです。
しかし、このような考え方は私たちが経験する鳥肌のすべてを説明するようには思われません。私たちの鳥肌の経験を考えてみると、強い恐怖を感じたときだけでなく、深い感動を覚えたときにも鳥肌が立つということは見落とせません。また、鳥肌と感情の関係を調べた先行研究では、驚きや畏敬の念といった感情でも鳥肌が生じるということが報告されています。これらは感動とあわせて、先に出てきた怒りや恐怖とはちょっと違う感情であるように思いませんか? 「鳥肌は怒ったときや怖いときに生じる反応です」という説明だけでは、これらの多様な感情で生じる鳥肌を理解することは難しいのです。
では、私たちが経験する鳥肌について、いったいどのように考えるとよいのでしょうか? ひょっとすると、私たちが祖先から受け継ぎ、鳥肌という末梢の反応を生み出している中枢の仕組みは、先ほど紹介した「脅威に対処するシステム」よりもう少し広い役割を持ったものなのかもしれません。そして、実はその仕組みが感動のような感情体験にも関わっているのではないでしょうか。
つまり、私たちの体験する恐怖や感動は、それが成立する際に脳内の何らかのメカニズムを共有している——これはあくまで仮説に過ぎませんが、もしそのような仕組みがあるとすれば、異なる感情で生じる鳥肌について脳内の活動を調べ、比較をすることで、共有されたその仕組みを浮き彫りにできるはずです。このように考えると、鳥肌は恐怖や感動といったバリエーション豊かな感情体験を支える脳内メカニズムについて、その未知の側面を探索するための重要な「覗き窓」になり得るのです。
さて、そのような探索を進めるためには、鳥肌が生じているときの脳の活動の様子を調べることが有効です。ところが、これがなかなか簡単ではありません。現在では脳波やfMRIといった脳の活動を測定するいろいろな手法がありますし、鳥肌がどれくらい立っているかを数値化する手法も開発されています。基本的にはこれらを組み合わせればよいのですが、問題は「狙い通りに鳥肌を立てられるか?」ということです。
音楽を題材にした先行研究によると「この曲を聴くと鳥肌が立つ」という方を選んできたとしても、不慣れな実験室の環境だと本当に鳥肌が立つのは4割程度にとどまります。しかも毎回立つわけではなく、10人が10回、つまり全100回測ったとき、実際に鳥肌が立つのは20回にも満たないそうです。脳活動を測定するというさらに慣れない環境だと、鳥肌はもっと立ちにくくなることを覚悟しなければならないでしょう。これでは実験データを集めるだけでも気の遠くなる仕事になってしまいます。こうした事情から、鳥肌を測定して脳の活動と関連づけるという研究はこれまでのところ行われてきていないのです。
そこで私は、自分の意志だけで鳥肌が立てられるという能力が突破口になるのではないかと考え研究に取り組んでいます。この「意図的な鳥肌」の能力を持つ人は、別に寒くもなく、特に恐怖や感動を覚えていなくても、ただ「鳥肌を立てよう」とする意図を持つだけで自由に鳥肌を立てることができます。もしかすると、テレビなどで珍しい特技として紹介されるのを見たことがある方もいるかもしれません。
この能力は研究の世界でも100年ほど前からポツポツと紹介されており、最近の研究で一定数の人々がこの能力を持っているという可能性が示されていました。そして私自身の研究では、鳥肌を実際に測定することを通じてこの能力を客観的に確かめることに成功しています。そこでは、鳥肌を一定のペースで繰り返し、自在に立てられる複数の方を確認することができました。これを活用すれば、実験のなかで確実に鳥肌を観察することができ、関連する脳活動を明らかにすることに大きく役立つはずです。
このプロジェクトでは、「意図的な鳥肌」の能力に着目して、そもそも鳥肌の生成にはどういった脳活動が関与しているのかを明らかにすることを目的に研究を行います。
そのためにまず、「意図的な鳥肌」の能力を持つ方を見つけられることが大前提となります。私のこれまでの研究では、このような方が人口の約0.5%程度いらっしゃることがわかっています。以前の研究でこの能力を持った方を探し出す調査方法を確立していますので、今後はさらに多くの候補者を確保できるよう調査を拡大します。
脳活動の検討については、fMRIという手法を用いて鳥肌が生じているときの神経活動の様子を計測します。この研究は、神経科学的研究の豊富な実績を持つ生理学研究所の共同利用実験に採択されているので、万全の体制で実験を進めることができると考えています。
これまで着目されてこなかった研究テーマというのは、学術としての蓄積が少なく、ともすれば「海の物とも山の物ともつかない」ものに映りがちです。公的な研究費や民間財団の助成金は一定の成果が「期待できること」を重んじますので(これはもちろん大切なことですが)、新規の領域を目指した研究が最初の一歩を踏み出すためのチャンスを得ることが思いのほか難しいことがあります。そこで今回の鳥肌の研究では、研究のアイデアを広く世に問うことで、興味・関心を共有していただける方、研究者の思いに賛同していただける方からご支援をいただけないかと考えて、クラウドファンディングにチャレンジをいたしました。
それに加えて、この研究では「意図的な鳥肌」ができる方を見つけ出し、ご協力をいただくことが不可欠です。そのため、今回のチャレンジには「このような研究があるよ」ということを多くの人に知っていただく機会としても期待をしております。研究費のサポートだけでなく、「自分も自由に鳥肌が立てられるよ!」という方の研究へのご参加も大歓迎です。お心当たりがおありの方は、ぜひご連絡ください。
このプロジェクトでは、ご支援いただいた支援金を「意図的な鳥肌」の能力を持った方を特定する調査の実施費用や、研究対象者となる方を生理学研究所での実験にお招きする際の交通費に充てる予定にしております。ここで得られた成果を足がかりとして感情に伴う鳥肌の謎を解明し、私たちの感情的な体験についての理解を深める研究を発展させてまいります。みなさまのご支援をぜひお願いいたします。
片平建史
時期 | 計画 |
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2020年5月 | クラウドファンディング挑戦 |
2020年5月 |
調査開始
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2020年9月 |
実験開始
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2021年9月 | 学会にて研究発表(予定) |
2021年12月 | 論文を国際学術誌に投稿(予定) |
研究の詳細な進捗などをレポートにまとめてお送りします。鳥肌の謎が解明されていく様子をタイムリーにご報告したいと考えています。
研究報告レポート(PDF版)
7人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
プロジェクトの成果を学会にて発表する際、謝辞にお名前を掲載させていただきます。また、発表資料(電子版)をお送りいたします。学会発表は2021年度を予定しておりますが、翌年度以降になる可能性もご承知おきいただけますと幸いです。
学会発表資料の謝辞にお名前掲載 / 研究報告レポート(PDF版)
4人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
オンラインで研究紹介をさせていただきます。鳥肌の研究についてお話しいたしますのでご参加をお待ちしております。本年度の研究成果に基づいて、2021年度頃の実施を予定しております。研究の進み具合に応じて実施時期が計画と異なる場合もございますので、ご承知おきいただけますと幸いです。
オンラインで研究紹介 / 学会発表資料の謝辞にお名前掲載 / 研究報告レポート(PDF版)
3人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
研究のなかで使用している「ポータブル型鳥肌計測装置」1台を貸し出しし、鳥肌の測定を体験していただける機会をご提供いたします。ご自身の鳥肌を測ってみたい方、研究の雰囲気を体験してみたい方におすすめです。ご希望の方には測定データの解析を実施し、結果をお送りいたします。お貸し出しの時期につきましては別途ご相談のうえ調整させていただきます。
鳥肌測定体験(個人向け) / オンラインで研究紹介 / 学会発表資料の謝辞にお名前掲載 / 研究報告レポート(PDF版)
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
プロジェクトの成果を論文として発表する際、謝辞にお名前を掲載させていただきます。鳥肌の仕組みを徹底的に究明し、ずっと先まで残るような論文を目指したいと考えています。※論文の発表の時期につきましては計画と異なる場合もございます。ご承知おきいただけますと幸いです。
論文謝辞にお名前掲載 / 鳥肌測定体験(個人向け) / オンラインで研究紹介 / 学会発表資料の謝辞にお名前掲載 / 研究報告レポート(PDF版)
10人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
「ポータブル型鳥肌計測装置」をお持ちして出張し、複数の方(最大15名程度を予定)を対象とした鳥肌測定を行います。映画や音楽の鑑賞会、お化け屋敷などのイベントで実際に鳥肌を測定してみるのはいかがでしょうか? ご希望の方には測定データの解析を実施し、結果をお送りいたします。※旅費等は別途頂戴いたしますのでご留意ください。また、会場利用費が発生する場合にはその費用をご負担いただきます。開催時期につきましてはご相談のうえ決定させていただきます。
鳥肌測定体験(団体向け) / 学会発表資料の謝辞にお名前掲載 / 研究報告レポート(PDF版)
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
当サイトは SSL 暗号化通信に対応しております。入力した情報は安全に送信されます。
研究報告レポート(PDF版)
7
人
が支援しています。
(数量制限なし)
学会発表資料の謝辞にお名前掲載 他
4
人
が支援しています。
(数量制限なし)
オンラインで研究紹介 他
3
人
が支援しています。
(数量制限なし)
鳥肌測定体験(個人向け) 他
0
人
が支援しています。
(数量制限なし)
論文謝辞にお名前掲載 他
10
人
が支援しています。
(数量制限なし)
鳥肌測定体験(団体向け) 他
0
人
が支援しています。
(数量制限なし)