2016年度の雷雲ガンマ線の観測結果を論文として発表しました
2016年10月から2017年4月にかけて、石川県金沢市・小松市・珠洲市と新潟県柏崎市にガンマ線検出器を設置して、雷雲における電子の加速とガンマ線放射の観測を実施しました。アカデミストでのクラウドファンディングでみなさんにご支援いただいた研究費や、クラウドファンディングからステップアップして獲得した科学研究費補助金をもとに、合計10台の検出器を設置することができました。
その結果、1シーズンの観測で12例のガンマ線放射現象を捉えることができました。これは1シーズンあたりの検出数が平均2-3例だった過去の観測と比べて、ひじょうに大きな飛躍です。
その中でも、2017年2月6日に柏崎市で観測されたガンマ線放射現象を詳細に解析したところ「雷放電で加速された電子が、ガンマ線を放出し、そのガンマ線が大気中の窒素や酸素の原子核と衝突して、原子核から中性子がはじき出されている」という、いままではっきりと観測されていなかった、とても興味深い物理現象を観測していたことがわかりました。とくに窒素から中性子がはじき出される場合、あとに残される不安定な窒素の放射性同位体からは、電子の反粒子(反物質)である陽電子が放出されることが原子核物理学の研究から知られています。今回の事例では、そのような放射性同位体が風に乗って私たちの検出器の上空を通過していったと考えられます。その途中で放出された陽電子は、大気中の電子と衝突して消滅するさいに「電子・陽電子対消滅ガンマ線」という、決まったエネルギー(0.511 メガ電子ボルト)をもつガンマ線が放出します。私たちの検出器はこの「電子・陽電子対消滅ガンマ線」の存在も、はっきりととらえていました。これにより、雷雲や雷放電は、自然界の加速器であるとともに、反粒子(反物質)の生成装置でもあることが明らかになったのです。
私たちは2017年3月からこの観測データの詳細解析と論文執筆を、東京大学馬場・中澤研究室の中澤知洋講師、大学院生である和田有希さん、古田禄大さん、日本原子力研究開発機構の土屋晴文研究副主幹や、ほかの共著者のみなさんと進め、7月にNature誌に投稿しました。2名のレフェリーによる査読と改訂をへて、9月にLetter論文として受理されました。広範な読者を対象とした論文雑誌に掲載されることが決まったことは、この研究成果が雷雲や雷放電の研究者だけでなく、より広い研究領域に対してインパクトをもつことが認められたのだと考えています。
今回の論文で発表した成果については、京都大学などからプレスリリースを出しています。プレスリリース資料では、観測された物理現象や生成される窒素や炭素の同位体の重要性について、さらに詳しく解説しているので、ぜひ参照してください。
【京都大学プレスリリース】
「雷が反物質の雲をつくる!? — 雷の原子核反応を陽電子と中性子で解明 —」
・プレスリリース資料
https://thdr.info/files/20171123_雷が反物質をつくる_京大プレスリリース.pdf
・スライド
https://thdr.info/files/20171123_雷が反物質をつくる_記者発表スライド.pdf
【論文】
著者:
Teruaki Enoto, Yuuki Wada, Yoshihiro Furuta, Kazuhiro Nakazawa, Takayuki Yuasa, Kazufumi Okuda, Kazuo Makishima, Mitsuteru Sato, Yousuke Sato, Toshio Nakano, Daigo Umemoto, Harufumi Tsuchiya
タイトル:
Photonuclear Reactions Triggered by Lightning Discharge"
Natureの公開ページ:
http://dx.doi.org/10.1038/nature24630
論文本体(Read-onlyアクセス):
http://rdcu.be/y9JC
論文のPDFは、Natureのウェブサイト(購読料が必要)だけでなく、プレプリントサーバ(論文の無料公開サーバ)であるarXivからも閲覧することができます。
arXivの公開ページ:
https://arxiv.org/abs/1711.08044
今回の論文のほかにも、2016年度の観測データの解析を進めています。今後も研究成果は論文や学会発表として公開していきます。ご期待ください。
2016年度の冬季観測を開始!
2016年度冬期の観測は、石川県内の複数地点で雷雲ガンマ線を観測し、雷雲ガンマ線の空間的・時間的な広がりを詳細に調べることを目的としています。そのため、複数地点への検出器の設置・半年におよぶ屋外での観測運用を迅速に信頼性高く実施できるよう、検出器の小型化と観測を実行するソフトウエアの整備を進めてきました。
その結果、これまでの装置で使用していた装置の半分程度のサイズで同等以上の性能を持つ信号処理・記録システム(写真1)を製作することができました。雷雲や自然界の放射性同位体が発するガンマ線がセンサで吸収されたときに出る微弱な可視光を、この電子回路で増幅し、小型PC (Raspberry Pi 3)で記録します。今年度の検出器システムの全体像を写真2に示します。
※検出器システムの詳細は発表スライド:「 冬季雷雲のガンマ線測定を狙う多地点観測システムの新規開発」も参照してください。
そして10月10日に金沢大学角間キャンパスの屋上に新しい検出器システムの第1号を榎戸・湯浅で設置してきました (写真3)。この金沢大学への設置を皮切りに、東京大学の和田君を中心に、10月12日-14日で金沢泉丘高校、金沢大学附属高校、小松高校、サイエンスヒルズこまつを訪問して、合計5台の検出器を設置してきました。これでいよいよ本観測の開始です。
昨年から引き続き観測にご協力いただいた金沢大学附属高校に加え、今年度は新たに3ヶ所で設置協力を頂き、金沢泉丘高校と小松高校ではアカデミストでの研究費を用いて電源工事を行うことができました。またアカデミストでの挑戦の際にリターンとして約束していた支援者の皆様の名前が入ったネームプレートを製作し、サイエンスヒルズこまつに設置した検出器へ組み込みました (写真4)。
検出器は順調に稼動を続けており、安定して環境放射線や宇宙線信号を検出しています。雷の本格的シーズンとなる12月・1月にはまだ少し時間がありますが、わずかなチャンスも逃さないように準備してきましたので、観測結果にご期待ください。
※今回の進捗報告の執筆には東京大学 和田さんにも加わってもらいました。
乗鞍岳と富士山で夏季高山の観測を完了!
2016年の夏には、昨年度に製作していた装置を活用し、高山での観測を行いました。
3000 m級の高山では大気が薄い分、冬季の海沿いの観測よりも多くのガンマ線の検出が期待できます。また、富士山のような独立峰では、観測場所そのものが雷雲の中に突入することもあるため、雷雲の中でガンマ線を放射する電子自体を捉えられる可能性もあります。夏の間にも装置を稼動させ、冬季の観測に向けて運用実績を蓄積していくことも重要です。
7月11日には岐阜県高山市と長野県松本市の境にある東京大学乗鞍観測所 (標高2770 m) に1台、7月15日には気象庁富士山特別地域気象観測所 (標高3776 m) に2台の検出器を設置してきました。これらの作業には東京大学中澤研究室の学部生・大学院生も参加しました。
乗鞍観測所では9月末まで、富士山観測所では8月末まで観測を行いました。現在は得られたデータから、雷雲ガンマ線が検出できたかどうかなどの詳細解析を行っています。
アカデミストでの挑戦の際に約束していました、日本地球惑星科学連合 2016年連合大会での雷雲プロジェクトの発表を、2016年5月23日(月曜)に幕張メッセで行いました!
発表スライド:「 冬季雷雲のガンマ線測定を狙う多地点観測システムの新規開発」
当日は、この発表を聞くためだけに来ていただいた方もいたようで、たいへんありがたかったです。
そしてご報告!昨年度は暖冬のために雷雲活動が弱いという逆境の中で、なんと2月9日のお昼ころに付属高校の屋上で約1分間程の間に雷雲からのガンマ線を86個ほど検出することに成功しました!カメラも設置していたので、このときに上空を動いてく雷雲の様子を見ることができます。これについても学会の中で報告しました(発表スライドの9ページ目を参照)。
今年度は乗鞍岳などでの高山観測に加えて、金沢市周辺での本格的な冬季雷雲観測を行う予定です。観測実験の進捗や得られた結果は進捗報告のページに随時掲載していきます。
【2015年度の試験観測を完了しました】
2016年2月18-19日に金沢大学と金沢大学附属高校を訪問し、試験観測の位置付けで進めてきた今冬シーズンの雷雲ガンマ線の観測を終了しました。装置の撤収作業には、榎戸・湯浅に加えて共同研究をしている東京大学 中澤研究室の大学院生の奥田くんも参加してくれました。
金沢大学附属高校と金沢大学角間キャンパスで得られた試験観測のデータは、研究グループ内で詳細なデータ解析を進めているところです。同じデータが、雷雲ガンマ線プロジェクトのデータ公開ページ http://thdr.info から見られるようになっています。雷雲によるガンマ線計測数の増加の有無や、ウェブカメラ画像の天候の分類作業に参加できるので、ぜひチェックしてみてください。
【データ公開ウェブサイトのα版を公開しました】
雷雲プロジェクトの2015-2016年の冬の試験観測が進行中です。みなさんにも観測データを見てもらって、データの解析に参加してもらえるよう、新しいウェブサイトを作りました。
Classify - Thundercloud Project
http://thdr.info
2月5日の時点で、2015年11月下旬〜2016年1月末の期間の観測データが登録されています。1回のアクセスごとに、1シーン30分のガンマ線の計測数のデータとそのときの空カメラの様子が表示され、計測数の増加の有無と気象の分類結果を送信できるようになっています。MacやPCのウェブブラウザはもちろん、iPhoneやAndroid端末からもアクセスして、分類に参加できます。
今季は暖冬のため、北陸地方でも雷雲の発生頻度が少ない状況が続いています。いままでのところ、雷雲起源のガンマ線に由来すると思われる計数率の顕著な増加はみられていませんが、2016-2017年の冬の本観測を目指して、改良を進めたいと思います。
みなさんのご参加お待ちしています。
【1. リターンの発送について】
2016年1月25日に雷雲プロジェクトのリターンの第一便を発送しました。
2月上旬までには全てのリターンの発送が完了する予定です。リターンが届いてすぐにSNSで写真をアップロードしてくれた方もいて、私たちもそんな報告を楽しく拝見しています。今回のリターンの発送では、支援額に応じたリターンに加えて、研究背景や現時点までの進捗をまとめた簡易版の研究紹介パンフレットも同封しています。ぜひご覧ください!
【2. 研究の進捗】
昨年の秋から観測装置の開発を進め、2016年1月7日に観測装置2台を金沢に送り、金沢大学と金沢大学附属高校の2ヶ所に設置(図)して本年度の観測をスタートしました。設置した検出器はすべて正常に動作を続けており、ガンマ線・宇宙線の計測数データを記録し続けています。
今年は暖冬のためか、石川県でも雷雲の発生頻度が低く、まだ雷雲からのガンマ線放射現象を観測することはできていませんが、引き続き2016年度の本観測に向けて観測装置の運用スキルの向上や、データ解析のためのソフトウエアの準備を進めていきます。
写真: 金沢大学附属高校に設置させていただいたときの様子。足元の白い箱が観測装置を封入した防水ボックス。
新しく始まった Academist Journal で、私たちの雷雲ガンマ線プロジェクトもインタビューで取り上げていただきました。https://academist-cf.com/journal/?cat=5 このジャーナルにも期待です。
この冬に観測装置を設置できる高校さんがあるのかの交渉のために、1泊2日で金沢市と小松市を巡ってきました。そのときの写真の様子をアップしてみます。初日は金沢の西の高校、2日目は、東の高校と小松市の高校に行ってきました。金沢大学附属高校さんをはじめ、どの高校でもご理解いただいて、前向きに議論していただけました。
難しいのは屋上や野外は、高校の場合だとあまり電源コンセントがないので、どうやって電源系を作るかということでしょうか。一ヶ所だけなら、配電盤等で工事してもよいのですが、多数の箇所だと工夫しないといけなさそうです。
雷雲ガンマ線プロジェクト「カミナリ雲からの謎のガンマ線ビームを追え!」は、たいへんありがたいことに、目標額の100万円を達成することができました!
ご支援いただいたサポーターも100人を超え、研究費のサポートをいただいた多くの皆様、Facebookや twitterなどのソーシャルネットでシェアしてくださった皆様、また直接・間接的に応援や激励をしてくださった皆様に、厚くお礼申し上げます。本当にありがとうございます!!
アカデミストさんの学術系クラウドファンディングのシステムでは、目標額に到達しないと研究費は全く入りません。私たちは、プロトタイプの観測装置を一台を製作できるギリギリの線で最低達成額と設定して挑戦しました。ドキドキしながら見守りましたが、想像した以上の反響をいただいて、少し驚いています。
この段階まで到達したので、さっそく理化学研究所で試作機の一部の製作を開始しました。さらに、観測装置を設置させていただけそうな石川県の3つの高校と連絡をとり、10月7,8日に現地を訪問してくる予定です。
目標額を達成し、1台目の製作を始められました!さらに夢であった分散型の観測システムとして稼働させるべく、2台目の製作も可能になる「150万円を目標」に、引き続きサポートの募集を継続したいと思っています。
あと少しの期間ではありますが、ぜひ引き続きご支援をよろしくお願いいたします!
2015年10月4日
榎戸・湯浅
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気合いのはいった研究紹介(電子版)
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雷雲ポストカード and others
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検出器に氏名掲載 and others
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論文謝辞 and others
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全部セット+手書きのお礼状とお楽しみプレゼント and others
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