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クイズ×認知科学:早押しクイズに潜む人の知性を実験的に検証したい

Monthly academist Prize 3rd adopted

Masaru SHIRASUNA

追手門学院大学、Specially-appointed Assistant Professor

Challenge period

2023-05-22 - 2024-08-30

Final progress report

Sun, 12 May 2024 16:41:59 +0900

Progresses

46 times

Supporters

29 people

Elapsed time

Mon, 22 May 2023 10:00:00 +0900

【祝】共著論文、あくせぷと!!!

いつも我々の研究をサポートしてくださり、誠にありがとうございます。
心より感謝申し上げます。


さて、本題の前にまずは1つご報告、
実は2月中旬~下旬にかけて、僕はコロナ陽性となりました…。
人生初コロナでした。これまで無事だったのに、連勝記録がストップした感じで悔しい。
ただ幸いにして、そこまで重症にはならなかったです。
僕の数日後に双子の兄にも同じような症状が出たのですが、双子の兄はなぜか陰性だったにも関わらず、僕よりも重症かつ高熱でした(感染しているけれども検出されなかった、いわゆる「偽陰性」だと勝手に思っています)。

とはいえ、1週間ほどは身動きが取れずに過ごしておりました。すみません。
メッセージなどを送ってくださった皆様、ご心配いただき誠にありがとうございます。


さて、本題です。
昨日、僕が長年お世話になっている本田秀仁(ほんだひでひと)先生の論文がpublishされました!!!
僕も共著者として入れていただいております

Honda, H., Kagawa, R., & Shirasuna, M. (2024). The nature of anchor-biased estimates and its application to the wisdom of crowds. Cognition, 246, 105758. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2024.105758
掲載先の『Cognition』誌は、認知科学・認知心理学では非常に著名で権威のある学術誌です(本田先生ご自身もCognition掲載は初とのこと)。おめでとうございます!

※ 本論文の概要は、本田先生が先月の研究会(お疲れ様でした!)でご発表された公開資料p10~25にも掲載されています
https://babalab.notion.site/9729d60621ae4e98b3a31d8386f24913


この論文の内容をひと言で表現するならば、
「よい集合知を実現するうえで、アンカリング効果が使えるよね」
というものです。

これを説明するうえでは、まず「アンカリング効果」と「集合知」という2つの現象についてお話しする必要があります
(ご存知の方は読み飛ばしていただいて構いません)。

===
▽ 集合知 (wisdom of crowds):
「複数人の意見を集約(例: 多数決、平均化)すると、集団としての判断が個人の判断よりも正確になる」という効果のことです。例えば、
「目の前にいる1頭の牛の体重が何ポンドかを当ててください」という問題について、個人がそれぞれ個別に推定します。このとき、「個人で最も正答に近かった人の推定値」よりも、「参加者全員の推定値を平均した値」の方が、より正答に近づいた という例が報告されています。
個々人全員が画一的な意見を出しても、それを集約したところで集団の判断の精度は変わりません。そのため集合知の達成には、集団内で「多様な(ばらつきのある)意見」を出すことが、1つの重要な鍵だとされています。
※ 「集合知」というと、昨今は「web上に転がっている、あるいは募ることができる『不特定多数の意見』(例えばYahoo知恵袋の活用など)」といった意味で使われることが多いです。しかし我々の分野での「集合知」は、それとは意味合いが異なります。ご注意ください。

▽ アンカリング効果 (anchoring effect; anchoring bias):
「最終的な推定値が、事前に呈示された数値に引っ張られる」という効果のことです。例えば、
・「国連加盟国に占めるアフリカの国の割合は、『10%』(または『65%』)より多い?」という質問をまず行い、
・その後「では、国連加盟国に占めるアフリカの国の割合は何%?」と問うと、
・事前に「10%」(低アンカー)を呈示された人は値を低く見積もり(例: 25%)、「65%」(高アンカー)を呈示された人は値を高く見積もる(例: 45%) 傾向があります。
この傾向は、非常に強く(頑健に)現れることが知られています。
===

本論文の話に戻ります。

本論文のメインアイデアは、「アンカリング効果を活用すれば、個人間で『多様な推定値』を導くことができ、集合知を実現しやすくなるのでは」というものです。
例えば、事前に「10」というアンカー(低アンカー)が呈示された人の推定値は小さい値に、「200000」というアンカー(高アンカー)を呈示された人の推定値は大きい値に なりやすいと考えられます。これらの、「十分に離れたアンカーから導かれた推定値」を集約(平均化)することで、より正確な推定値を得やすくなる(集合知の達成)のではないか、と考えました。

本論文では、この手法の有用性を、計算機シミュレーションと2つの行動実験から詳細に検証しました。

「平均化した値が正答に近づく」というのは、もちろん「必ずそうなる」わけではありません。特に「実際の正答値」に強く依存します。
例えば正答値が非常に大きれば、(低アンカーの人を混ぜずに)高アンカーで推定した人だけを集めた方が、正答に近づくと考えられます(逆もしかり)。

▽ 統計モデルを駆使して「仮想的な数値推定課題」を行った(計算機シミュレーション)結果、確かに、低/高アンカーを混ぜた集団も、必ずしもベストな推定値を生み出すとは限らないことが分かりました。しかし総じて、低/高アンカーを混ぜた集団は、低アンカーのみ集団・高アンカーのみ集団と比べて、推定値の誤差が小さくなる傾向が見えてきました。

では、実際の「人」の判断はどうなるでしょう?

▽ 計算機シミュレーションで想定したのと同様の数値推定課題を、人に行ってもらいました(行動実験1)、その推定値を様々に組み合わせて集約した(集団判断のシミュレーション)結果、計算機シミュレーションで得られた理論的知見と同様の結果が得られました。

▽ さらに、実世界の「未来のことに対する予測」にも本手法は応用できるのか。この点も検証しました。具体的には、「新型コロナウイルスの1か月後の感染者数」を実際の医者に推定してもらいました(行動実験2)。結果として、(後述の通り「想定外」の事態も生じましたが) 低/高アンカーを混ぜた集団はおおむねよいパフォーマンスを見せるという、ここまでの結果を再現することができました。
このことから、本手法は、実験室場面のみならず、実世界における予測にも有用だといえます。
—---------


アンカリング効果は、一般に「認知バイアス」の一種だと考えられています。すなわち、「人は、単に数値を見せられただけでそれに引きずられてしまうなんて…」というように、ネガティブに捉えられてきました。
しかし本研究は、アンカリング効果が単なるバイアスではなく、「集合知の効率的な達成」に活用できる(ひいては人々に『多様な視点』を引き出させるのに有効)というポジティブな側面に光を当てました。

先述の通り、集団の判断(平均化した値)は、アンカーと正答値が近ければよくなるし、離れれば悪くなります。これは当たり前のことですが、しかしよく考えると、アンカーと正答値は、現実問題において我々の手では全くコントロールできません(そして本田先生曰く「そういうことを先行研究は一切議論していないことにその時気がついた」そうです)。
つまり、こういう「不確実性 (アンカーの正答値の関係はコントロールできず、実際にはどうなるかわからん)」の中でも有効に機能する手法、というところに、本提案手法の大きな利点・意義があると考えています。

余談ですが、上記の「アンカーと正答値の関係は全くコントロールできない」に関連して、
実は行動実験2の「コロナ感染者数の予測」について、実験を作成した2022年6月時点では、当時の最大感染者数が「105,586人」でした。そのため「高アンカーとしては『200,000人』もあれば十分だろう、もしかしたら大きすぎるかもしれない」くらいに見込んでいました。
しかし蓋を開けると、予測の対象となった「2022年8月1日」の前後1週間の平均感染者数はなんと「211,495人」(!?)、高アンカーを大きく上回る数でした。
そのため、実は「高アンカーのみの集団」が、推定値の誤差が最も小さくなりました。しかしそれでも、「低/高アンカーを混ぜた集団」も比較的よいパフォーマンスを見せていた。少なくとも、正答から大きく外れるような推定にはならなかった(高アンカーのみ集団と遜色ない)、という結果でした。
実際の感染者数がこちらの想定したアンカーを上回ったことは、それだけ現実世界が「不確実性」に満ちていること、しかし結果的には、それが「不確実性の高い現実世界でも、本手法は有効!」という主張をより裏付けることにも繋がったかな、と我々は考えています。なんとまぁ。


既存の有名な現象を組み合わせて、人の知性を引き出す新たな手法を提案する。
そしてその手法の有用性を、理論(計算機シミュレーション)と実践(行動実験)の両側面から検証する。
まさに「これぞ認知科学!」と思える、お手本となるような研究だと思っています。

僕も先生方の後に続けるよう、精進してまいりたいです。


## きょうのもんだい ######

Q. 中国・前漢時代の思想書『淮南子(えなんじ)』に収められた、ある動物を飼っていた老人のエピソードに由来する、人生は幸せも不幸せも予測ができないことを意味する故事成語は何でしょう
A. 塞翁が馬(さいおうがうま) (人間万事塞翁が馬; にんげんばんじさいおうがうま)

【ひとこと】塞は「とりで」、翁は「おきな、老人」の意味です。不幸かと思った出来事が後に幸せな方向に転じたり、また逆もしかり。世の中はまさに「uncertainty(不確実性)」です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027724000441
実は今回publishされた研究、ここまで紆余曲折ありました。昨年の国際会議では評価素点は高かったのになぜかrejectされ、同時期に海外の有名研究グループが同テーマに着手していることが判明し、などなど……。しかしそれでも、本田先生ご自身は可能性を見捨てず、むしろ行けるんじゃないかと信じ続けていたそうです。publishのご報告の際に本田先生が話していた言葉が、この「塞翁が馬」でした。本論文は、昨年夏に「rejectの怒りに任せて」急いで書き上げたそうです。国際会議で採択されていたら、もしかしたら今も書き終えていなかったかも…、とのことでした。
改めて、本当におめでとうございます!!!

白砂大 Tue, 05 Mar 2024 12:04:18 +0900
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