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「研究への寄付募集」の研究で、日本の大学の10年後を変える

月額支援型 academist Prize 2nd 採択

渡邉文隆

京都大学、研究員

挑戦期間

2022/11/01 - 2024/08/30

最終活動報告

2024/04/05 19:28:21

活動報告

43回

サポーター

43人

経過時間

2022/11/01 10:00:00

#20 なぜ、科学的な寄付募集によって日本の大学の10年後が変わるのか

本プロジェクトでは、科学的な寄付募集を様々な大学に実施してもらうことを目指しています。

このプロジェクトに取り組むためには、まず「科学的な寄付募集」とは何を指すのか、を考える必要があります。

経営学においては、Rousseau(2006)やPfeffer and Sutton(2006)らが医学におけるEvidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)を手本にしながらEvidence-Based Management(EBMgt:根拠に基づくマネジメント)の必要性を説いてきたという面があります。

これは、最良のエビデンスに基づく原則を、組織運営における実践に反映させることを指します(Rousseau, 2006)。

これまで、経営上の意思決定は、古くなった知識、個人的経験、ドグマなどに基づいていたり、他の優良企業の事例を深く考えずに模倣する、といった形で行われてきたといいます(Pfeffer & Sutton, 2006)。

EBMgtは、科学的な思考と最新のデータに基づき、経営上・実務上の意思決定をより良いものにしようという取り組みです。

私が今回目指しているのも、日本の大学における研究のための寄付募集を、経験やカンではなく、科学的な根拠に基づいて行おうというものです。これを指して「科学的な寄付募集」と呼んでいます。

したがって、本プロジェクトは、EBMgtを日本の大学の寄付募集に適用する、というプロジェクトとも言えます。

一方で、私が2006年から企業や非営利組織で働いてきて感じるのは、EBMgtは「言うは易し、行うは難し」であるということです。

Pfeffer and Sutton(2006)が指摘するように、日々生まれるエビデンスは膨大です。寄付募集だけを取っても、膨大な論文がある中、どれがうまく自分の団体に適用できるエビデンスなのかを把握するのは至難の業です。日本での寄付募集を扱った研究が多いわけでもありません。

ただ、大学ファンドレイジングにEBMgtを導入していくにあたっては、いくつかの有利な点も見えます。

1)大学はエビデンスを探すことに長けた人材と論文のデータベースがある
→ これは、例えば中小企業でEBMgtを実践するよりも恵まれている点の1つだと思われます。

2)大学は公的な非営利組織であり、EBMgtによって得られる正統性(Rousseau, 2006)に対するニーズがある
→ 医療、教育、警察活動など、非営利組織の行う活動においてエビデンスを重視した実践がなされてきた(Rousseau, 2006)という点では、共通点があります。

3)ファンドレイザーは職業であり「看護師」や「医師」などの学び続ける文化を参考にできる
→ マネジメントは職業ではないのでEBMgtをマネージャーに売り込むのは難しい(Rousseau, 2006, p262)ということは、逆に言うとファンドレイザーのプロ意識がプラスに働く可能性があると考えます。

4)ConcensusやBing AI、Perplexityなど、エビデンスを収集するために使えるサービスが増えた
→ エビデンスを探して整理する部分の手間は、AIによってこれまでよりも削減できるように思われます。(残念ながら現時点の性能はそこまで高くない印象がありますが、これから改善すると思います)

5)ファンドレイジングは資金が入ってくる業務であるため、再投資の判断が容易
→ 寄付募集という、収入の原因となる業務が効率化し、より多くの寄付が得られるようになれば、EBMgtは組織内で評価されるようになり、さらなる投資(たとえば博士号保持者を寄付募集のEBMgtのための補助者として採用する、エビデンスをまとめてくれるAIサービスを契約する等)ができるようになるかもしれません。また、他の部門での(他の業務への)導入も進む可能性があります。

この「他の部門での(他の業務への)導入」が、とても重要です。

大学において行われている研究と教育は、当然ながら、時間の経過とともに質が向上していくことを期待されています。

教育については「教育学」という学問体系があり、中でもhigher educationという分野があるわけですが、「研究学」という言葉はほとんど聞いたことがありません。

研究の方法やあり方についての研究は、まだ教育学ほどの歴史はないように思われます。

最近、Meta-ScienceやResearch on researchといった分野が目立つようになってきて、「研究についての研究」が蓄積されてきていますが、これも実際の政策や大学における実務に実装されなければ、あまり大きなインパクトにはならないと思います。

大学のあり方が良い方向に変わるためには、「研究についての研究」に基づくエビデンスと、それを根拠としたEBMgtが日々の大学運営や研究活動において実践される必要があると考えています。

より多くの学部や研究所や研究室が、より豊富な資金を得て、より質の高い情報やエビデンスに基づいて運営されるようになる、だからこそさらに資金が集まる、というのが本プロジェクトの目指すところです。

ここまで述べたことが達成されていくことで、「日本の大学の10年後が変わる」のではと思っています。

Hodgkinson(2012)が言うように、EBMgtを導入するというのは、ある意味で政治的な取り組みです。
「カンではなく根拠を持って業務にあたろう」というのはほとんどの人にとって反論しにくい正論だと思われますが、「そんなこと言ってもさ…」と言いたくなるファンドレイザーも多いはずです。

(私自身も、外部から来た人が「業務上の判断について、あなたのカンじゃなくて根拠を出してください」などと言おうものなら、面倒臭いどころの騒ぎではありません)

私たちは、EBMgtを実装するための戦略(Speicher-Bocija & Adams, 2012)を持つ必要があります。それは、#19で紹介したImplementation Scienceもヒントになります。

この点については、引き続き関連する文献を読み込みながら、計画したいと思います。

Fumitaka Watanabe 2023/05/05 11:18:37
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