学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」
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小林柚子

東京大学、博士後期課程

挑戦期間

2020/11/18 - 2023/09/30

最終活動報告

2024/07/01 17:46:45

活動報告

46回

サポーター

73人

経過時間

2020/11/18 10:00:00

クラウドファンディング、あれから6か月

私と父の関係はぎくしゃくしている。その根本的な原因に行きつくまでには幼少期までさかのぼらなくてはならないが、分岐点の一つは、私が京大理学部を受験すると決めたとき。新聞記者である父は、私が理系で受験をすることも、いつのまにか将来の夢が編集者から研究者になっていたことも信じられなかったらしい。議論の末「理系に行くのはいいが、女の子なのだからせめて資格の取れる薬学部なんてどうか」と私に勧めた。それが当時17歳の私の逆鱗に触れた。
以来、ただでさえ良好とは言えなかった親子関係は、ずっと冷戦状態にあったと言える。

それでもたまに帰省すると、父が私に「理系の」(と父の中では分類される)話題を振ってくることがあった。たとえば、「IT系のクラウドってやつ、あれは何なの?」などである。私の専攻は化学で、クラウド等はいちユーザーでしかないのだが、なんとか自分の知っている範囲で説明する。
「いやだから、さっきも言ったけどそういうことじゃなくて」
「もっとわかりやすく説明しろよ、理系だろ?」
「別に専門じゃないし」
「言い訳するな」
……サイエンスコミュニケーションとしては最悪の展開である。

そもそも開始時点から私は「なんでそんなことを教えるボランティアしなくちゃいけないの?」と不満を持っていたし、父は、「なんか偉そうだなこいつ」と腹を立てていた。そんなコミュニケーション、うまくいくはずがないのである。
でも、これって結構、サイエンスコミュニケーションが失敗する典型パターンではないだろうか。

例えば、大学院生が中高生に研究をわかりやすく伝えるボランティア活動。それ自体は素晴らしく私もやったことがあるが、研究が忙しくなってくると無償のボランティア活動は正直続かなかった。仲のいい友達に私の専門について解説していると、わかりやすく教えているはずなのにだんだん相手のテンションが下がっていき、感想は「へえなんか、すごいね」。対等の関係のはずが、だんだん先生みたいな言い方になってしまって互いに楽しめなくなったことがある。
この、ボランティアになってしまう問題と先生になってしまう問題を解消しなければ、「科学を誰もが楽しめるコンテンツにしたい」という志も実現しないだろうと考えていた。そこで心惹かれたのが、academistの月額型クラウドファンディングだ。チャレンジャーが自身の研究活動を報告することをリターンに毎月支援金を募るという仕組み。
なんかすごく対等で、非研究者との理想的な関係のひとつなのでは?!

いざ初めてみて、たしかにみなさんからのサポートが増えるにつれ、その分活動報告で返したいという気持ちになり研究が頑張れる。対等でいい関係を築くことができた。でもそれだけではない。想像以上だと思ったことが二つある。
ひとつは、様々なバックグラウンドの方に「伝わる」コミュニケーションができたこと。私のクラウドファンディングは、企業研究者の方をはじめ、研究職以外の社会人の方、文系出身という方、研究はよくわからないという主婦の方まで、研究室に籠っているだけでは出会えない方々との出会いの場となった。何よりすごいと思ったのがその方々に私が報告した内容がちゃんと届いたということだ。サポーターアンケートでは、60%以上の人が活動報告を毎回読んだと答えてくれた。読みものが溢れるこの時代、そこそこの長さの文章がちゃんと届くプラットフォームは、とても貴重だと感じる。金銭のやり取りがあるということは、ボランティアになってしまう問題を解消するだけではなく、サポーター側もその分しっかりと情報を受け取ろうというモチベーションになるのではないだろうか。
もうひとつは、未熟な研究者のままコミュニケーションができたこと。活動報告を見返すと、私は結構、ダメだった実験やうまくいかないことについて正直に吐露している。それらはプレスリリースや申請書、論文にはもちろん書けないし、最近ではSNSに書くのも難しいことだったりする。私のクラウドファンディングは、「すごい研究者である自分」ではなく、未熟な自分が難しい研究に挑んでいる様子を伝えられる貴重な場となっていった。自然体でコミュニケーションを取れたことで、先生になってしまう問題が解消されただけでなく、私自身、未熟な自分と向き合い進んでいく術を考える重要な時間を得ることができた。

academistの月額型クラウドファンディングで、私は、課題だったボランティアになってしまう問題と、先生になってしまう問題を解消することができた。研究者の私とサポーターの皆さんの間で対等なサイエンスコミュニケーションができ、つながりが生まれ、それが研究の活力と安心感に変わった経験は、これからの私の研究活動とサイエンスコミュニケーション活動の糧になるだろう。サポーターの皆さんにとっても日常の中に、「化学反応の研究を知る」という新しい楽しみが生まれていたらいいなと思う。

実はもうひとつ、すこしだけ進歩したことがある。それは父との関係だ。
父はこの月額型クラウドファンディングをこっそり支援してくれていたらしい。私が2年9カ月にわたって毎月書き綴った私の研究や研究生活のことを、少しずつ理解してくれたようだった。面と向かって話すと確実に喧嘩になる父と娘も、クラウドファンディングを通したゆるく対等な関係であれば、(サイエンス)コミュニケーションができた。
博士号を取得したあと、父が家族で食事に行こうと言い出した。デザートには、「Dr. Yuzu Congratulations」の文字が書かれていた。(父には博士課程進学も反対されたし…)正直わだかまりが全部なくなったわけではない。でも、academistの月額型クラウドファンディングは私と父のコミュニケーションも、少しだけよくしてくれたと思う。

小林柚子 2024/04/08 18:53:15
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