academistスタッフからの一言
近年、3Dデータを撮ることのできる顕微鏡の開発が進み、観察対象の3D表面形状の観察や測定ができるようになりました。しかし、そのデータを他者に伝えるときには、パソコンや紙などに表示するなど、2次元に焼き直さなければならない現状です。顕微鏡から得られた3Dデータをそのまま出力したい!と考えた慶應義塾大学のガリポン・ジョゼフィーヌさんは、ミクロトームという技術で作られた2Dの切片からディープラーニングを用いて3Dデータを作り、それをそのまま3Dプリンタで出力することを目指した研究を進めます。
担当者:柴藤亮介
顕微鏡は、微生物のように人間の目に見えないものを観察できるようにした技術として、広く知られています。目に見える生き物の場合でも、その細かい構造の解明を可能にしてきました。近年では、技術が発展したことによって、そのまま3Dデータを撮れる顕微鏡も出てきています。しかし、最終的にはPCや紙などに表示することになるため、その情報を他者に伝えるためには、2Dの情報に転換するしかない現状です。
顕微鏡データを3Dプリンターで出すことができれば、それを手で触りながらいろいろな角度から観察することができるようになります。それだけではなく、3Dバイオプリンターで内臓のデータも出せるようになるため、未来の再生医療にも役に立つことが期待できるのです。 そこで私は、さまざまな顕微鏡データを3Dプリンターで出せるようにしたいと思い、2014年の夏に開発をはじめました。
これまでに私は、共焦点レーザー蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、ミクロCTという3種類の異なる顕微鏡データを3Dプリンターで出すことに成功しました。2015年には東京大学の駒場博物館で展示を行い、2016年には雑誌「生物の科学 - 遺伝」に記事が2回掲載されました。 これだけで満足するのではなく、どんどん面白いことをしていこう!と考えました。
研究を進めていくなかで、上記のような顕微鏡を使わなくても、ごく普通の光学顕微鏡でも3Dデータを取ることが可能であることに気付きました。しかも、それはなんと18世紀からずっと知られていた技術でした!ミクロトームと呼ばれるその技術では、細かいナイフで標本を切り、数ミクロンの薄い切片を得ることができます。それらの切片を顕微鏡で観察すると、標本の中身の構造を知ることができるため、現在でも、基礎研究や病院でのがん診断などに広く使われています。
しかし、未だに手作業の部分が多いことから、ミクロトームから得られたデータのほとんどは、人間の手振れによってそれぞれの切片が数度回転してしまったり、多少形が変化したりしています。また、1 cmの標本から10 µmの切片を作る場合、なんと1,000個もの切片が得られます。切片を作るのも、顕微鏡で全て観察するのも、非常に手間がかかることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
そこで私たちは、ミクロトームの切片のデータから自動的に3Dモデルを計算し、他の顕微鏡データと同様に3Dプリンターで簡単に出すことを目的とした研究を進めています。
ミクロトームの切片から3Dモデルを計算するためには、ディープラーニング(深層学習)を使って、人間の手作業で発生した切片ごとの回転度や変換を自動で直せるようにしなければなりません。そのためには、まずは 「正解」がわかるようなデータで、コンピューターに学習させる必要があります。そのため現在、回転度などが事前にわかっているトレーニングデータを作成しているのですが、手元にあるデータで検討した結果、以下の二つの改善が必要であることがわかりました。
1)処理能力の向上
普通の計算はPCに元々内蔵されているCPUで処理できますが、機械学習の計算にはCPUの処理能力では不足してしまいます。そこで、Nvidia社が販売している最新版のグラフィックスカードにより処理能力を高めることで、この問題を解決します。本カードは日本では販売されていないため、海外から購入する際の費用(約18万円/台)がかかります。
2)標本の収集
機械学習を行うためには、なるべくたくさんのデータを集めなければなりません。ロータリー式ミクトロームを購入できれば、一番効率良く標本の作成ができるのですが、装置の価格が150〜200万円と高額です。今回は価格を抑えるために、ミクロトームで標本を切るサービスを提供する会社に、標本の作成を外注する予定です。なお、不要なロータリー式ミクトロームがありましたら、中古で寄付してくださると大変助かります。
この研究が実現できれば、世界中の博物館に保存されている古いミクロトームのデータをリサイクルして、立体化したものをユニバーサルデザインの展示という形で応用することができます。またそれだけではなく、さまざまな場所に眠るデータを活用することで、科学の基礎研究に使いまわしていくことも期待できます。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
初めまして。ガリポンジョゼフィーヌ(GALIPON Josephine)と申します。フランス・カナダの二次国籍で日本8年目です。フランスのキュリー研究所(パリ)で修士課程を終えてから日本国費留学生として来日し、2013年に東京大学理学系研究科の博士号を取得しました。現在は慶應義塾大学付属の山形県鶴岡市(庄内)にある研究所で、慶應の学生、地元の高校生、海外インターン生を含む元気な研究チームを指導しています。日本の「文武両道」という概念に憧れて格闘技もやっています。周りの店が妙に美味しくて出張から帰るたびに涙がでます。近くにいたらぜひ美味しい庄内料理を食べてください。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2017年04月 | クラウドファンディング挑戦 |
2017年07月 | 実験開始 |
2017年09月 | データ解析 |
2017年12月 | 論文執筆(〜2018年3月) |
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