大野 周平/マーティン・ミケルセン
大野 周平
横浜市立大学大学院・博士後期課程3年、理化学研究所・大学院生リサーチ・アソシエイト。小学校ではゲーム開発、高校では物理シミュレーションに没頭し、以降はプログラミングを活かした学術研究に取り組んできました。現在は、少数多体系物理学における国際的な開発コミュニティを率いて、プログラミング言語「Julia」を用いたオープンソースソフトウェア(OSS)の開発を主導しています。
Martin Mikkelsen
私はコペンハーゲン大学の博士課程に在籍しており、テンソルネットワークアルゴリズムに関する研究を行っています。私たちは、少数多体系物理学に関するオープンソース・コミュニティへの共通の関心を通じて出会いました。このワークショップで皆さんにお会いし、一緒に取り組めることをとても楽しみにしています!
科学の進歩は、子どもの頃に思い描いていたよりも遥かに遅い。もっと早く未来を見たい。これが私たちの根底にある考え方です。その実現のために、物理学や化学の現場で行われているプログラム開発をできるかぎり効率化することによって、これらの分野全体の発展を、やがては科学全体の発展を加速することを目指しています。
物理学者ポール・ディラックの言葉によれば「物理学の大部分と化学のすべては量子力学によって説明できる」ものとされています。量子力学とは、電子などの小さな物体の運動を説明する理論です。身近な例では、花火のさまざまな色を説明することができ、医薬品の作用を予測したり、半導体の動作原理を説明する際に役立ちます。そのため、物理学や化学では、コンピューターを使って量子力学の方程式を解くためのプログラムが開発されてきました。しかし、このような研究の現場では、技術や法律、文化などの、さまざまな理由から車輪の再発明が繰り返され、そのたびに重複して開発コストが支払われています。
こうした無駄を減らすためには、研究の現場にある保守的・閉鎖的な文化を変えていく必要があります。しかし、その前には、古いプログラミング言語に由来する技術的な障壁と、著作権に由来する法律上の制約が立ちはだかっていると考えています。そこで、技術・法律・文化の三層構造のうち、根底にある技術と法律に由来する2つ課題の解決に取り組みます。
技術と法律に由来する課題を解決する方法として、新しいプログラミング言語「Julia」を採用したオープンソースソフトウェア(OSS)の開発が最善策であると考えています。
Juliaのメリットは、その速度や柔軟性そのものではなく、これらの性質を両立する点です。たとえばスーパーコンピュータ「富岳」のために設計された新しいCPU「A64FX」では、半精度(16ビット)演算がネイティブサポートされています。しかし、旧来のプログラムでは富岳の性能を引き出すどころか、半精度での計算を行うことさえできません。これに対して、柔軟な型システムを備えたJuliaは、半精度演算に対応するだけでなく、富岳の性能を限界近くまで引き出すことができました。このように、パフォーマンスを犠牲にすることなく、計算資源や数値表現の多様化に柔軟に対応することができ、プログラム開発を効率化することができます。
OSSのメリットは、プログラムの共有を合法化する点です。伝統的な大学の研究室では、代々書き足されてきた「秘伝のソースコード」が継承されています。このようなプログラムの利用や共有にあたって、卒業、異動、退職、失踪、他界した全ての開発者とその相続人に利用許可を取ることは困難です。真に価値のある研究は誰かが真似するものであることから、作者がプログラムを共有しない限り、誰かがプログラムをゼロから作り直すことになってしまいます。このように、開発がスタートした時点でOSSライセンスを付与しておくことが、著作権にまつわる多くの問題を解決し、車輪の再発明を防ぎます。
また、OSS開発における機能追加や外部貢献の受け入れでは、言語仕様の柔軟性と、自動テストを含むCI/CD等の現代的な開発手法が重要です。Juliaは速度と柔軟性を両立するだけでなく現代的な開発技法にも対応しており、いさらには、書きやすさ、数学との親和性、豊富なライブラリといった、欲張りな科学者たちの要求に応える懐の広さを備えています。このように、Julia×OSSの組み合わせが科学者同士の協力を促進していくことに繋がります。
今回のプロジェクトでは、少数多体系物理学においてJuliaによるOSS開発を行いながら、その過程で得られた知見を公開したりワークショップを開催することで「Julia×OSS」の普及を目指します。
私たちの研究分野である少数多体系物理学では、比較的シンプルな系を研究対象とするため、新しい手法を適用しやすいという特徴があります。そのため、物理学および化学における計算手法の「貿易港」としての役割を果たしてきました。このような背景から、私たちの取り組みはひとつの分野にとどまることなく、周辺分野へ急速に波及します。現在、開発チーム「JuliaFewBody」を発足し、JuliaによるOSS開発に取り組んでいます。
これまでに、米国MITで開発されたJuliaを日本国内でも普及させるため、日本語による多数の解説記事を執筆・公開してきました。これによって、2018年のv1.0リリース当時に指摘されていた日本語情報の少なさという問題点の解決に貢献しました。さらには、研究会「Julia in Physics 2024」を主催するなど、多角的な普及活動を行っています。今回のプロジェクトでも、Juliaの活用をテーマとしたワークショップや研究会を開催するほか、Juliaに関連する研究会や学会において私たちの取り組みを紹介します。
現代的なプログラム開発では、Git/GitHubによるバージョン管理、テスト駆動開発やCI/CDなどの新しい開発技法が必要不可欠となっています。そのため、新しい技術を使いこなす若手が中心となって、新しいプログラムの開発を進めています。このような活動を学術的な業績として認めるために「Journal of Open Source Software」が刊行されるなど、インセンティブ構造の改革が推し進められていますが、私たちはまだ支援の枠組みの外にあります。そこで、旧来の枠にとらわれない、新しい支援の形として、クラウドファンディングに可能性を感じています。
皆さまからご支援いただいた資金は、研究活動にかかるAI開発支援ツールやスーパーコンピュータの利用料、研究計画の遂行,、ワークショップの開催など、Julia振興にかかる費用に活用させていただきます。今回のクラウドファンディングをきっかけとして、新しいJuliaユーザーやOSS開発を行う研究者が現れることを心から期待しています。皆さまの応援をよろしくお願いいたします。
大野くんと出会ったのは、彼が大学1年生のときです。文部科学省主催の『サイエンス・インカレ』で、1年生にしてファイナリストに選ばれ、見事入賞。高校時代から続けていた自主研究の深さと熱意に、驚かされたのをよく覚えています。
その後も修士課程を首席で修了し、国内外で表彰されるなど着実に実績を重ねています。難しい数値計算の課題にも、解き方のアイデアから自分で組み立て、成果につなげてしまう力があり、そのテクニックや工夫を惜しまず公開するなど、コミュニティへの貢献も非常に大きいです。さらに、学部生の頃から研究交流イベントを自ら企画・運営してきたように、人と人をつなぐ力や場づくりのセンスも持ち合わせています。
大野君は、研究力と発信力、そして人とのつながりを大切にする姿勢をあわせ持つ、これからの科学を支える人材です。ぜひ応援いただければと思います。
Juliaは「使いやすさと速さの両立」を成し遂げた革新的なプログラミング言語です。2025年にはGoogle Colabによる公式サポートが開始し、アメリカ物理学会がJuliaCon 2025の開催パートナーに加わるなど、学術用途における有用性が高く評価されており、今後の発展にも大きな期待が寄せられています。日本での普及はまだまだ遅れていますが、大野君のような先見性ある若者が明るい未来を切り拓こうとしています。学術業界の効率化のため、Juliaの普及を掲げる大野君の取り組みを強く後押しします。
研究者としての資質については言うまでもありません。私が述べたいのは、彼のエンジニアに匹敵する技術力です。そもそも、多くの研究者はGitHubのアカウントすら持っておらず、オープンソースとして人に見せられるようなプログラムを書くこともできません。彼は本業のエンジニアに引けを取らない技術力を武器に、新しい研究者像を示そうとしています。義務教育としてプログラミング教育を受けた「プログラミング・ネイティブ」世代の参入が目前に迫る学術業界においては、彼のような次世代のロールモデルが必要とされています。
時期 | 計画 |
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2025年 8月 | JuliaCon Global 2025およびJuliaHEP Workshop 2025にて宣伝 |
2025年 9月 | 新規パッケージのプロトタイプリリース |
2025年 9月 | 日本物理学会 第80回年次大会にて取り組みを紹介 |
2025年10月 | パッケージを活用した応用研究を開始 |
2025年12月 | 日本でJuliaに関する国際ワークショップを主催 |
2025年12月 | 日本でJuliaに関する国内研究会を主催 |
2026年 1月 | 開発したパッケージに関連する論文を投稿 |
2026年 3月 | 計算物理春の学校2026にて取り組みを紹介 |
2026年 4月 | 開発したパッケージに関連する論文を投稿 |
2026年 7月 | JuliaCon Global 2026にて講演, ミニシンポジウムを主催 |
2026年 8月 | 少数多体系物理学の国際会議にて取り組みを紹介 |
メールでお礼のメッセージをお送りします。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
お礼のメッセージ
リターン | 実施予定日 |
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お礼のメッセージ | 2025年12月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
本プロジェクトに関連して、オンラインJulia講習会にご招待します。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
オンラインJulia講習会 / お礼のメッセージ
リターン | 実施予定日 |
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オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
お礼のメッセージ | 2025年12月 |
3人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
academist Journalに寄稿する研究報告レポートにお名前を掲載します。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
研究報告レポートにお名前掲載 / お礼のメッセージ / オンラインJulia講習会
リターン | 実施予定日 |
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研究報告レポートにお名前掲載 | 0025年12月 |
お礼のメッセージ | 2025年12月 |
オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
研究会のHPにお名前を掲載します。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
研究会HPにお名前掲載 / お礼のメッセージ / オンラインJulia講習会 / 研究報告レポートにお名前掲載
リターン | 実施予定日 |
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お礼のメッセージ | 2025年12月 |
オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
研究報告レポートにお名前掲載 | 0025年12月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
今回の研究が論文化した際に、謝辞を掲載いたします。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
論文謝辞にお名前掲載 / お礼のメッセージ / オンラインJulia講習会 / 研究報告レポートにお名前掲載 / 研究会HPにお名前掲載
リターン | 実施予定日 |
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論文謝辞にお名前掲載 | 2025年12月 |
お礼のメッセージ | 2025年12月 |
オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
研究報告レポートにお名前掲載 | 0025年12月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
本研究に関する出張講義を行います。具体的な内容や日程は個別にご相談いたします。
※宿泊費・交通費は別途いただきます。
このリターン実施は2025年12月を予定しています。
出張講義 / お礼のメッセージ / オンラインJulia講習会 / 研究報告レポートにお名前掲載 / 論文謝辞にお名前掲載 / 研究会HPにお名前掲載
リターン | 実施予定日 |
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出張講義 | 2025年12月 |
お礼のメッセージ | 2025年12月 |
オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
研究報告レポートにお名前掲載 | 0025年12月 |
論文謝辞にお名前掲載 | 2025年12月 |
0人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
「Julia言語について、個別に利用相談、新規導入支援、別言語からの移行支援、ご利用パッケージの機能拡張などを行います。具体的な内容や日程は個別にご相談いたします。
このリターン実施は2025年12月以降を予定しています。
Julia活用支援 / お礼のメッセージ / オンラインJulia講習会 / 研究報告レポートにお名前掲載 / 論文謝辞にお名前掲載 / 研究会HPにお名前掲載 / 出張講義
リターン | 実施予定日 |
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Julia活用支援 | 2025年12月 |
お礼のメッセージ | 2025年12月 |
オンラインJulia講習会 | 2025年12月 |
研究報告レポートにお名前掲載 | 0025年12月 |
論文謝辞にお名前掲載 | 2025年12月 |
出張講義 | 2025年12月 |
1人のサポーターが支援しています (数量制限なし)
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