ネナシカズラはつる性の寄生植物である。つるを伸ばして宿主植物に到達すると、体に巻きつき、寄生根を宿主の維管束に挿入し、水と養分を吸収する。ある実験では、複数の植物がネナシカズラによって橋渡しされた。これらの宿主植物のひとつが昆虫に食害されると、被害植物から非被害植物に信号が伝達され、非被害植物は昆虫に対する防御反応を準備することができる。ネナシカズラは宿主植物から養分を略奪するという悪影響を及ぼし、一方、宿主植物はネナシカズラの長い蔓を新しい茎として利用することができるのである。
宿主植物では、ネナシカズラの寄生は、動物の摂食のような一時的な被害とは異なり、継続的な食害という未経験の状況である。寄生根が挿入されたシュートは通常、新しい茎や根を自由に伸ばす能力を抑制する。一方、継続的食害という未経験の状況では、新しい茎をネナシカズラのつるの構造に同化させ創発的な成長を遂げたと考えられる。実際、宿主植物に挿入された寄生根のmRNAを調べたところ、その半数が宿主由来であったことが報告されている(Kim et al.、2014)。この報告は、宿主植物がその茎をネナシカズラのつるに同化させようとしたことを示唆している。
次回へ続く・・・
私たちの活動を支える論文「行動抑制ネットワークとしての心」の最終章では、植物や石に心=行動抑制ネットワークが備わる可能性が述べられています。
その内容(和訳)を、ほぼそのまま掲載します。論文独特の言い回しや専門用語が、研究の「ライブ感」をみなさんに伝えてくれると思います。
*BINは行動抑制ネットワーク(Bhehavioral Inhibition Netwok)
*BGMは行動生成機構(Bhehavioral Generation Module)
*創発行動は、ダンゴムシの「壁登り」や「合体移動」のような予想外かつ意味深な行動
*BIN、BGM、創発行動は、プロジェクトページの2枚目の図に登場しています
どうぞお楽しみください!
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著者らは、BINのような構造としての心は動物だけでなく、植物や石のような物質にも存在すると考えている。現在、著者らは植物や他の物質から創発的な活動を導き出す実験方法を模索している。以下に、植物の創発行動生成の可能性を示唆する研究例をいくつか紹介する。
一般的にイメージされる草や木などの植物は、主軸となる茎、そこから枝分かれする枝、茎や枝に生える葉、そして地下の根から構成されている。主軸となる茎や枝をよく見ると、どちらも1本の茎とそこに生える葉からなるユニットで構成されていることがわかる。この単位を植物学では「シュート」と呼ぶ。普段目にする草や木の地上部は、実は多くのシュートからなる「シュートシステム」なのである。
それぞれのシュートは独立して成長する能力を持っている。この成長には、先端の伸長、幼芽(側芽)の形成、若葉や根の生成など、さまざまなレパートリーがある。従って、植物個体において、各シュートは、様々な成長パターンを行動として生み出すBGMであると考えられる。実際、シュートに似た形状で、その繰り返しによって植物体を構成する単位をモジュールと呼ぶ提案もある(Harper, 1985)。さらに、このモジュール性は植物における高い可塑性の要因のひとつと考えられている(de Kroon et al., 2005)。
植物をBGMの集合体と考えた場合、ある植物が強い光源に向かって成長するなど1つの個体として行動すると、いくつかの新芽は活性化したBGMとして成長し、他のいくつかの新芽は潜在的なBGMとして成長を抑制する。そして、潜在的なBGMがBINを形成する。実際、植物個体の各部分はネットワークを形成し、電気、化学薬品、水を用いて、その状態を他の部分に伝達している(Mancuso and Viola, 2016)。
BINにおけるシュートの自律的な成長抑制を確認する方法のひとつに、園芸でよく知られている挿し木がある。植物のシュートを切り取って土に植えると、シュート片から根が発生し、条件が整えば新しい植物個体となる。通常、植物の茎から根が生えているのを見ることはない。これは、それぞれのシュートが自律的に根の成長を抑制しているからである。
そこで生じる疑問は、植物の心、つまりBINを構成する新芽は、未経験の状況で創発的な行動を示すことができるのか、ということである。この能力の一例として、ネナシカズラという寄生植物に寄生された宿主植物の行動が挙げられる(Hettenhausen et al., 2017)。
次回へ続く・・・
残り20日となりました。ご協力くださりありがとうございます。
目標金額は通過地点。「心を再定義し、平和な社会作りに貢献する」ために、走り続けます!
次の活動報告では、ちょっと専門的に、心の行動抑制ネットワーク理論の論文の一部を紹介します。
寄附の募集開始から2週間半が経ちました。
本日、みなさんからのご支援額が目標額の55%に達しました。ありがとうございます!
残り26日となりました。より多くの方々に本プロジェクトを知っていただくために、宣伝により一層力を入れたいと思います。みなさん、ご協力お願いいたします!
論文の作成開始から4年後の2020年、心理学系国際学術誌 Frontiers in Psychology に Mind as a Bhavioral Inhibition Netwok(行動抑制ネットワークとしての心)が掲載されました(論文を見る)。
最初の投稿先ではこの論文は却下されてしまいました。学術の世界では普通のことで、却下を繰り返されながら、受け付けられる学術誌を探します。私たちの場合、幸運にも2件目に受け付けてもらいました。ただしここからが本番。査読者からの山のような質疑に対し納得される内容を回答しなくてはなりません。
査読者は認知科学、神経科学、哲学の3つの分野の学者でした。建設的な議論が進んだおかげで、論文は大変充実した内容に仕上がりました。そしてついに誌面で公表されました。行動抑制ネットワーク(Behavioral Inhibition Netwok:略してBIN)理論を携え、「わからなさとしての心」へとアプローチする準備が整ったのです。
私は早速、心のBIN仮説に賛同してくれそうな研究者6名に声をかけました。みなさんご快諾くださり、論文の共著者齋藤帆奈さん、園田耕平さん、右田正夫さん、そして私とあわせ、10名の研究者からなるモノの心の研究会が誕生しました(研究会のYoutubeチャンネルを見る)。
誕生以降、毎月1回、オンラインで定例会を開催し、心のBIN仮説の検証へ向けた議論が進められています。中でも重要な課題は、植物などの神経系をもたない生物、そして、石や原子、分子、素粒子といったモノにBINが備わることを確認する方法を探ることです。さらに、BIN理論を社会実装し、わからなさを抱えながら生きていることを認め合う、差別のない、平和な社会作りへの貢献を目指しています。
私たちの取り組みは、2021年にはサントリー文化財団、2023年には科学研究費補助金(継続中)から支援を受け、着実に進んできました。例えば、ロックバランシングアーティストの池西大輔さんに鴨川河川敷でワークショップを開催していただき、石との付き合い方を教えていただきました。また、計算論的認知科学の篠原修二さん、哲学の下西風澄さん、ブラックホール科学の小林晋平さん、菌類生態学の深澤遊さんの講演会を実施し、それぞれの分野におけるBIN理論展開の可能性を議論しました。また、メンバーの飯盛元章さんにBIN理論を読み解いていただき、BIN理論とホワイトヘッド哲学の関連に関する論文を公表することができました(論文を見る)。現在、メンバーの平岡雅規さんが植物細胞、野村慎一郎さんがRNA分子を用いて、それぞれBINの作成実験を進めています。メンバーの井手勇介さん、春名太一さんはBINの数理モデルの構築にとりくんでいます。
一方、多様な分野の研究者からなることが強みの本研究会ですが、石、そして物質の基本単位である素粒子にBINを見出す方法論へのアプローチは大変困難で、入り口を見つけられない状態が長く続きました。また、BIN理論は宇宙といった抽象的な対象にも適用できるはずです。そこで、本クラウドファンディングに挑戦し、石や素粒子物理学、天文学などの専門家に思い切って力を借りることにしたのです。メンバーの宇宙物理学者磯部洋明さんのナビゲーションがたのしみです。
石や素粒子、宇宙にBINを見出す方法論が見つかっても、それを実行するには時間がかかると思います。それでも、モノにBINを見いだす糸口が見つかれば、どうでしょう。私たちは、多様性を認め、許容しようとしても、衝突がうまれてしまうと、どうしても相手を攻めたり、差別したりする気持ちに陥りがちです。それは、人間だからこそ、しょうがないことなのかもしれません。しかし、その気持ちをいがみ合いに発展させてしまうと、大きな不幸へつながってしまいます。
一方、あらゆる存在にBINというわからなさが備わるという、科学的理論を根拠とする精神的よりどころをもっていればどうでしょう。衝突がうまれても、きっと、いがみ合いや差別には発展しないはずです。衝突は、わからなさの出会いによる必然にすぎないと思うとき、不幸なできごとが生じないばかりか、新たな関係性が創発するかもしれません。綱引き状態になって相手と衝突したダンゴムシは合体移動を創発しました。
世界中がコンプライアンス社会になり衝突がうまれやすいこの時代、私たち人間こそが、衝突を創発へ昇華する余裕をもつべきでしょう。BINの社会実装は、この余裕を人々にもたらすと期待されます。
2007年秋、私は7年間過ごした函館から現在住んでいる長野県上田市へ移りました。この年、朝日新聞社の田之畑さんが研究を取材してくださり、科学欄の1面を使って記事を書いてくださりました。タイトルは「心はどこに。研究相手はダンゴムシ」でした。このタイトルをきっかけに、ダンゴムシで心を探ろうと決めたのでした。それまで、心を行動抑制ネットワークとして探ることに迷いはありませんでしたが、心の研究をしていると表立って言うことはありませんでした。自信がなかったのです。しかし、田之畑さんは私の研究を心の研究と認めてくださったのです。この貴重な機会を無駄にするわけにはいきません。この記事が掲載された日から、心の行動抑制ネットワーク仮説の研究が始まったのです。幸運なことに、記事を読んだコーエン企画の江渕さんが、研究の書籍化をもちかけてくれました。そして2011年3月にPHP研究所から「ダンゴムシに心はあるのか」が出版されました(2023年に山と渓谷社から文庫化)。このころから、心の行動抑制ネットワーク仮説を科学の言葉でまとめ、国際的な学術誌上で公表したい、いや、できる!と思うようになりました。その後、現モノ研メンバーの齋藤帆奈さん、園田耕平さん、右田正夫さんと議論を続け、2016年に横浜で開催された国際心理学会でミニシンポジウムを開催しました。聴衆は少なかったですが、反応はよく、手ごたえを感じ、論文化へ拍車がかかりました。
壁を登ったダンゴムシは全体の半数ほどで、残りは実直に左右の転向を続けました。抑制の解放力には個体差があるようです。この実験で気をよくした私は、水包囲実験を実施しました。ダンゴムシを水の入った堀で囲まれたアリーナへ置いてみたのです。すると今度は、数は少ないですが、溺れる危険がある水に入り、向こう岸へ渡るダンゴムシがあらわれたのです!続いて、2匹を後ろ向きに糸でつなぐ実験を実施しました。すると一方が他方に馬乗りになり、円滑な移動を実現しました!ご存じのとおり、ダンゴムシに振動を与えると丸まったり止まってしまったりします。なので、馬乗りは互いにとってNGで、抑制されておくべきです。にもかかわらず、綱引き状態にされて前進の利点が反故にされてしまうと、互いに振動を与えてしまう馬乗りを許容してしまうのです。これらの実験は、博士課程の学生時代(1996-1999年)に始められ、そして、公立はこだて未来大学での助手・助教時代(2000-2007年)にかけて実施されました。
わからなさとしての心。それは私にはしっくりする感覚でしたが、一般に心は人間の精神作用のもとと言われています。いわゆる知・情・意です。一方、余計な行動を理由もなく抑えるというわからなさは表に現れないからこそわからなさです。そうなると全くアプローチできなさそうです。しかし私は思いついたのです。「理由もなく抑えるなら、理由もなく解放できるはず」。では理由もなく解放するきっかけはなにか。それは理由など全く反故にされるような場面、すなわち、理由のないことが望まれるような場面でしょう。そこで私は、ターンテーブル式T字迷路装置で、何百回もダンゴムシにT字選択をさせてみました。交替性転向反応は、障害物に遭遇したとき、左右に曲がることで、それを回避する利点があると言われています。この利点を守るという「理由」で、余計な行動は抑制されるのです。しかし、何百回も障害物に遭遇する場面は、この利点を無効にしてしまいます。余計な行動はもはや抑制される「理由」などなくなります。果たしてダンゴムシはどうしたか。彼らは突然、迷路の壁を登り始めたのです!
博士課程で始めたのがダンゴムシの行動研究です。この動物に対していろいろと予備実験していて気付いたのが、彼らがジグザグ歩行するということでした。修士課程でタコに迷路を与えていたため、ダンゴムシも試しに迷路に投入してみたのです。すると、T字路が連続するときには左右交互に歩いたのです。この行動は交替性転向反応と呼ばれていることがわかりました。この性質をよりしっかり確かめるために、T字路を何度でも与えられるターンテーブル式T字迷路装置を作りました。ダンゴムシは、数百回T字路を与えても、実直に左右交互に転向することがわかりました。私は、ジグザグ行動がどのように役立つのか、どのような神経回路で実現されるのか、といったことにはあまり興味がありませんでした。それよりも「どうして他の行動を我慢しているのだろう」と思ったのです。そして、この我慢の理由などないこと、すなわち、決してわからないということに気づいたのです。このわからなさは、私たち人間も、行動するかぎり、抱えています。そして、よくよく考えてみると、このわからなさこそ、一般に言われる「心」の正体だと気づいたのです。
研究会を主宰する私は、学部時代は有機化学の研究室に所属し、白衣を着てフラスコを振っていました。毎日のように新しい化合物ができるので大変楽しかったです。ただそのときから、狙った化合物以外の産物に興味がありました。それらは大抵、理論的にはほとんどできないはずのものでした。でも実際には意外と多くできてくるのです。モノは自分で自分のありかたを作ることができる。そう思うと、研究は更に楽しくなりました。そして勢い余って、大学院は理論生命科学の研究室へ進みました。取り組んだのはタコの迷路学習。せっかく学んだゴールまでの経路を台無しにするような無駄な行動に魅力を感じました。しかし博士課程には進まず、電機メーカーへ就職しました。会社では電車のインバータ装置の設計に関わりました。そこでも、気になったのは半導体などのデバイスの「自分で自分のありかたを作ることができる」姿でした。そこに気づくと、仕事は更に楽しくなりました。そして勢い余って、退職して大学院の博士課程に進みました。
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