私たちの住むこの日本の空気は、高度経済成長の時代と比較しずいぶんときれいになりました。しかしながら現代でも、光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントが、毎年気温が高くなる夏ごろにはたくさん発生しています。光化学オキシダント濃度が高くなると、目や呼吸器が痛めつけられたり、気分が悪くなることがあるので、屋外での活動が制限されます。光化学オキシダントがいつ、どのくらい高くなるのか事前にわかればいいのですが、これができる化学反応がなかなか複雑で、奥深く、「化学反応の天気予報」はとても難しいのです。
そこで今回、私は、この新たな天気予報を、人工知能(AI)を用いて行うことに挑戦しました。AIの学習には膨大なデータが必要ですが、私が所属する地方環境研究所はとてもたくさんの、約40年分の大気質のデータを持っています。私は、今回のプロジェクトで、ビッグデータ×マシンの電子頭脳×人間(=私)の熱いハートで、この未知なる課題に挑んでいき、住民の皆様を大気汚染の被害から守れる世の中をメンバーと共に作っていきたいです。
私が作ろうとしている「光化学オキシダント予測AI」は、過去の膨大な大気汚染物質データや気象データを学習させる必要があります。また、静岡県は東西に広がり、地域ごとに多様な地形・気候・産業構造などをもっています。そこで、今回のプロジェクトでは、静岡県を伊豆、東部、中部、西部の4地域に分け、それぞれの地域の実情に合わせたAIを作ることを考えています。
具体的には、4地域ごとの特性を見極めるため、まずは各地域のビッグデータ~広大なデータの海から、多彩な統計解析手法を用いて、「何が重要なファクターか」という美しい知見の結晶を精製し、最良質の学習データを作り出します。次に、日ごろ、私たち研究員が光化学オキシダント濃度の増減を、生身の脳で考えている仕組みをプログラミングに起こし、最適なアルゴリズムを適用し、光化学オキシダント予測専用の人工知能を生み出します。機械にしか見えない「何か」をAI自身が見つけることも期待しながら、膨大なデータを学習させ、やがて私たちを超える予測精度をはじき出す立派なAIを作る。そんなアプローチを考えています。
私の研究テーマはプログラミング言語(Python)を用いた人工知能の開発です。人工知能にもいろいろな種類がありますが、私が取り組んでいるのは、人間の脳を模した人工知能(ディープニューラルネットワーク)を用いた深層学習(ディープラーニング)です。今回のプロジェクトで取り組む課題では、時系列データ(いろんな要因により時々刻々と変わるデータ)を相手にし、変則的なデータですらも予測をなし得る「リカレントニューラルネットワーク」のアルゴリズムを活用していきたいと考えています。こんな人工知能を作ることができれば、光化学オキシダントのような大気汚染物質濃度が「いつ」「どれくらいまで上がるか」が予測できるようになり、様々な対応を事前にとることができます。
このプロジェクトは現在、たくさんの要因(大気汚染物質濃度や日射量、気温等の気象データ)を考慮し、対象(光化学オキシダント濃度)を予測する試作AIプログラムができましたが、まだまだ富士山4合目というところです。しかし、夏は待ってくれません。なんとしても、今年度中には形にしてみたい!と意気込んでおります。
現在、私が取り組んでいる研究では、本当に膨大なデータを扱います。研究の進行に伴いもっともっと重いデータを扱っていくことも予定しています。このプロジェクトを完遂させるためには、大量のデータ処理を行う高性能のワークステーションが必要不可欠です。皆様からのサポートにより、本プロジェクト専用のデバイス整備に活用させていただきたいと思っています。
また、クラウドファンディングの醍醐味は、皆様に、現在取り組んでいる研究の内容を共有できることと考えています。作ったAIプログラムを動かすとき、「このAIはどんなことができるのかな」とわくわく・ドキドキしながら日々研究を行っています。このプロジェクト、「AIの可能性を探る」この研究で得られる成果を皆様と共有しながら、わくわく・ドキドキ感も共にしていきたいと思っています。
是非とも応援のほど、よろしくお願いします。
本研究は、従来の手法では、十分な精度が得られなかった光化学オキシダント濃度の予測にAI技術を適用したものであり、環境分野で先鞭を着ける研究です。
研究の目標である「新たな予測方法の確立」を達成することができれば、光化学オキシダントから静岡県民はじめとする地球上の生物の健康を守ることができ、また監視する行政にとっては、精度が高い予測ができることで効率的な対応が期待できます。
ぜひ皆様の温かいご支援よろしくお願いします。
なお写真は、県内に設置された光化学オキシダント計が表示する値が、正しい値であることを保証するための基準器(自治体基準器から自治体(準)基準器)の校正を推薦者が行っているものです。
われわれの研究グループは、環境中の未規制化学物質、地球温暖化、地中熱の利用及びマイクロプラスチック等将来の環境に向けた研究課題に多く取り組んでいますが、光化学オキシダントの環境問題は、他の大気汚染物質の改善が劇的に進むなか、現在でも県内環境基準達成局が0である古くからの問題です。本研究は、AI技術を活用した新たな予測技術の確立ですが、目的を達成することで健康被害及び経済活動への影響を低減するだけでなく、将来の光化学オキシダント環境基準達成の糸口となることも大いに期待できます。
多くの方々のあたたかいご支援お願い申し上げます。
時期 | 計画 |
---|---|
2022年8月~9月 | ビッグデータ統計解析 |
2022年10月~12月 | AIプログラム構築 |
2023年1月 | 精度検証 |
2023年3月 | 学会発表 |
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